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11.まだ伝えるのが難しいみたい

 あらあらぁ、もう反抗期かしら? こういう時は反対すると怒りだすのよね。


「だったら、ここでお座りしましょうか」


「やっ! ちがうの」


 何か違ったらしい。少し考えて、自分達の状況を確認する。さっきまでは素直だったのだから、何かが気に入らないのよね。籠を持つ右手も、空の左手も、両方とも振り回して足を踏み鳴らす。この仕草は見覚えがあるわ。


 慌てて駆け寄ろうとする侍女が伸ばす手を避けて、嫌だと全身で示すレオン。そうじゃない、そんな声が聞こえた気がした。


「では、小さな紳士にエスコートをお願いしましょうね、お願いできる? レオン」


「……うん!」


 正解だったみたい。手を繋ぎたいのかと思ったけれど、私に連れていかれるのが嫌だったんだわ。自分で出来ると主張したいお年頃だもの。レオン主導で歩きたかった。用意された絨毯まで、小さな手に指先を重ねて歩く。歩幅を合わせて、ご機嫌になった幼子に続いた。


「どぉじょ!」


 先に座っていいと示され、お礼を言ってやや左寄りに座る。大人なら靴を脱がなくても座れるが、レオンは無理だった。自分で靴を引っ張っているので、侍女が回り込む。ぷいっと目を逸らすので、手伝わなくていいと伝えた。


 苦労しながら靴と足の隙間に指を突っ込み、ぐいっと引っ張る。靴がすぽんと脱げた。残った左足も脱いで、きちんと並べる。侍女の仕事をちゃんと見ている証拠だった。頭の回転はいいみたい。やっぱりレオンは何をしても可愛いわ。


 座る時に置いた籠は転がったが、幸いにして布で包んだスコーンは外に出ていない。見えないようこっそり手助けした侍女に微笑んだ。元に戻された籠に手を入れるレオンは、それを食べる気だろう。でも崩れていると思う。


「レオン、私のスコーンと交換してくれる? レオンの運んだスコーンが食べたいわ」


 あなたの運んだスコーンが欲しい。はっきりと目的を伝えれば、迷う仕草を見せる。笑顔で待つ私に、籠から出した布を差し出した。


「いぃよ」


「ありがとう、ではレオンはどれがいい?」


 まずは選ばせる。選んでほしいなら、そう伝えるよう教えないとね。レオンは人との関わりが薄かったから、たくさん学んで……それだったら弟妹がいた方が早いな。


 旦那様が留守である程度自由にしていいとはいえ、家族をこの屋敷に連れ込んだらダメよね? でも聞くだけならタダだし、後で家令のフランクに聞いてみよう。もし一緒に住めたら、弟や妹がレオンのいい手本になってくれるわ。


 私が持ってきた籠の中を覗き込み、レオンはまだ迷っている。赤い唇が尖った僅かな動きに、何を考えているか読めてしまった。プレーン、紅茶、オレンジ、ベリー、全部で四種類ある。色や味が違うから、全部食べたいのよね。でも一人では無理と理解した。


 食べきれないから半分こしようと言える? レオンが自分から相談するのを楽しみに、私は差し出されたお茶に口をつけた。ちらちらと私を見て、スコーンを眺める。助け舟を出すタイミングを計っていたら、レオンの旋毛が二つあることを発見して口元を緩めた。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり夫人の権限がどれだけ強くても嫁入りした身でもとの家族を勝手に呼ぶのは駄目だよね
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