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8.帰宅



「......え、すご」

「でっしょー!」


どやりどやりと満面の笑みを浮かべる鏡の向こうの陽向と、その後ろのソファーに座るrayさん。


鏡に映る俺は、もはや俺ではなくショートカットヘアーの美少女そのものだった。

陽向いわく元の顔が中性よりだったから面影はあると言ってはいたが、俺からすれば原型なんてないだろこの美少女に失礼という感想。


「......いや、陽向めちゃくちゃ上手くなったな。すげえわ、これ」

「ふふん、でしょー!まあ元の素材が良かったってのがでかいけどね」

「お金もってないよ」

「いや知ってるし!ごますりとかじゃないし!」


眉も整えてくれて、なんか髪もふわふわにしてくれて......見た目だけならもう完全に陽キャだろこれ。街歩いてたら声掛けられるレベルじゃね?......これが無料だなんてヤバすぎる。


「いや、でも流石にここまでやってもらってタダってのは気が引けるな。こんど払うよ」

「いやいや、これ練習だし。そもそもあたしバイトとかじゃないしお金貰えないんだよね」

「でも」


「ま、どうしてもっていうならさ、こんどバンドで返してよ」

「バンドで?」

「みんな結人に期待してるんだ。だからその頑張りで返して」


頑張りで、か。


「わかった。精一杯頑張るよ」

「えへへ、ありがとう」


ほんとに陽向は太陽みたいに笑う。暖かな笑顔。

話しているだけで心が軽くなっていくのを感じる。


「では、次はお化粧ですね」


「え?」


rayさんの一言に思わずきょとんとする俺。


「なに驚いてんの?そりゃそーでしょ!教えてあげるから自分でも出来るようになりなよ、結人」


......いやまあ、色々とありがたい。ありがたいんだけど、気のせいか俺のことおもちゃにしてないか?この二人。


俺は手を引かれ陽向の部屋に連れて行かれた。



――



それから時が過ぎ、解放されたのは夕方だった。


ネトゲの話、二人の学校での話、バンドでの話。色々な事を聞きながらゲームしたり昼食を食べたりした。


つい昨日まで暗い部屋に閉じこもっていた俺。最初こそ死ぬかもと外へ出たことを後悔していたけど、二人のお陰で楽しい外出になった。


(......普通に喋れてたな、俺)


あの二人だったからなのかもしれないけど。勇気出して家の外へ踏み出して......ほんとに良かった。


そして、たどり着いた家。街灯がちらほらつきはじめ、日が沈んでいく。

窓からみえる家の明かりを外から見ている。


なんだか不思議な気分だ。


(......あ、車)


朝は無かった青い軽乗用車が車庫に停めてある。父さんの車。これがあるということは出張から帰ってきたということ。一ヶ月ぶりかな。


こうして親の苦労を想像するたびに、早く金を稼がねばと焦る。今度は財布忘れないで外出しないとな。


ガチャリと玄関をひらく。


「ただいま」

「おかえ、.......りッ!!?」


たまたまトイレから出てきた父さんと出くわす。するとビクリと体を震わせ固まってしまう。え、どうした......!?


「と、父さん!?」

「ぐ、ぐはぁッッ」


ドターン!と床に転がる父さん。その騒ぎを嗅ぎつけた母さんがぱたぱたと走ってきた。


「どうしたのお父さん!?」

「いや、なんか突然倒れて......救急車呼ぶ!?」

「そうね、って、ぐはぁッッ!?」


目があった瞬間母さんも倒れた。どゆこと!?

焦りながらも俺は携帯を起動する。えーとえーと、救急は......と操作していると、震える手で母さんがそれを阻止してくる。


「!?」


「だ、大丈夫よ」「ああ」


むくりと起き上がる父と母。


「いや大丈夫なの!?倒れたんだけど!?」


「ああ、おまえの可愛さに殺されかけただけだ」

「そうね。どこのアイドルが現れたかと思ったわ」


「そんなに!?」


父さんと母さんは腕を組み、ふーむと俺を見回す。


「すごいな。これはモデルかアイドルで食べていけるんじゃないか?」

「ほんとね。お化粧もして......完全に垢抜けたわねえ」


「も、もういい?」


恥ずかしいから早く部屋行きたい。


「あ、結人写真とらせて貰っていいか?」

「なんで」

「アイドル事務所に売り込む」

「嫌だよ!?」

「頼む!一万円あげるから!」

「一万円!?......い、いやだ」


あぶねえ、ちょっと揺らいだわ。


「もういいでしょ!どいて」


「「あーっ」」


悲しげな声をあげる二人。これ以上とどまるのは危険だ。特に金を交渉材料にだされたらヤバい。さっさと部屋に帰ろう。


足早にリビングを通り過ぎ、二階への階段へ。上がりきったところで妹と出くわし、俺は固まった。


妹は目があうと「......へ」と言い固まった。


俺もそのまま固まる。いつもは「ちっ」とか「はあ」とかすげー嫌そうな雰囲気を出して威嚇してくるのに。この反応は初めてだった。


だから俺も驚き固まってしまう。ってか、あれ?


「......あれ?」

「!?」


つい口に出た言葉。それにびくりと反応する妹。


「大丈夫?顔、赤いけど......」


もしかして風邪か?目も潤んで呼吸も荒い。かなり辛いんじゃ。


「......ふ、ふん」


ぷい、と顔をそむけ妹が自室に戻っていった。やっぱり嫌われてる。てか大丈夫かな。今までにあんなに顔赤い人みたことないレベルだったんだけど。


「あ、結人。ちょっといいか?」


振り返れば父さんがいた。


「写真はとらせないよ」

「いや、それはもう諦めるよ。そうじゃなくて、これ」


差し出された大きな箱。長方形のそれは、ひと目見て何かかわかった。


「え、キーボード!?なんで!?」

「ボーナス入ったからな。作曲するときとかに使えたらと」

「い、いいの」

「ああ。お前、最近頑張ってるからな。父さんも少しでも協力できたらと思ってさ」


うおっ、あっ......あぶねえ、目頭が熱くなりかけた。あぶねえー。


「ありがとう、父さん。嬉しいよ」

「......喜んでくれてお父さんも嬉しいよ」


自分の子供がダメになってしまった親ってどんな気持ちなんだろうか。悲しい?怒りを感じる?それとも疎ましく思う?


なんでこんなに優しくしてくれるんだろう。ずっと学校にも行けず、部屋でゲームばかりしていた俺に。


俺が女になるその前から、ずっと父さんも母さんも俺を気にかけてくれていた。


二人の気持ちはわからない。でも、この気持ちに報いたいと、心の底から思った。


ととと、と今度は母さんが階段をあがってきた。手には大きな袋を携え、にこにことしている。


「結人、お母さんからもプレゼントあるわよ」

「え、母さんもありがとう」

「はい、どーぞ。開けてみて?」


手渡されたリボンのついた大きな袋。リボンを外し、中身を取り出す。


「......え」


「おー、いいねお母さん!」

「でしょ!すごく可愛いから結人に似合うと思って!」

「これは絶対似合うよ!」


中から出てきたのはピンクのロリータ風のドレスだった。フリフリが大量についており、カチューシャもついていて、今日みたrayさんのワンピースを百倍濃くした感じのドレスだった。


いや、さすがに着れない。これは無理。


「あ、あ、ありがとう」


「喜んでくれてお母さん嬉しい!」

「よしそれじゃあそれを着て記念撮影だ!」


「あ、またの機会に。ありがと。じゃ!」


俺は素早く部屋に入り鍵をかけた。扉の向こうで「「あーっ」」と悲しげな叫びが聞こえたけど、聞こえないふりをした。


体は女になったけど、心は男なわけで......だからこのロリータドレスを着たら多分羞恥心で死ぬ。


「と、さてさて。それはそーと、今日の配信準備でも始めますかね」


貰ったキーボードと服をベッドの上に置き、パーカーを脱ぎ捨てる。

ジーパンも同じく脱ぎ捨て、かわりにベッドの縁に掛けておいた青いジャージを着用する。


ただでさえ暑いのに、あの狭い押入れで配信だからな。すぐに汗かいちゃうから俺は基本ジャージでライブ配信をしている。


と、その時。


「......ん?」


ベッドの枕に落ちていた一本の髪の毛を見つけた。


(......これ、長くね?髪切る前の俺より)




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