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36.邪悪



――バンドをくれ。確かに馬草が俺にそう言った。


「......それは、無理」


反射的にでた言葉。そこに僅かな躊躇いも無かったことに馬草と他二人も驚き目を見開いていた。いや、自分でも驚いた......表面上ですら取り繕えなかった事に。


馬草の目が細く攻撃的になる。その瞳が冷たくなったのを感じた。


ちらりと校門を確認する馬草。この場でいざこざを起こすのは危険だと判断したのか、奴はすぐに笑顔を取り繕った。


「あー、そっか。ダメかぁ......わかったよ」

「え?」


「話はそんだけだ。じゃ」


そう言い残しあっさりと引き下がった馬草ら三人。てっきり場所をかえて脅迫でもされるのかと思ったけど。意外な引きの良さだったな......。


けど、これでわかった。偽物は......成りすましているのは、馬草だ。



――



「馬草、なんで引き下がったんだよ。言いなりにする作戦はどーしたよ」


田代がにやけながら俺に聞く。


「あー......出来ると思ったんだけどな。あれは無理だろ」


バンドの話を持ち出すまではいつもの青山だった。びびりで目を合わせる事もできない臆病者。だが、バンドをくれと言ったとき、あいつの目の色が変わった。


あれは殴ろうが辱めようがうんとは言わない気がする。

余程あのバンドが大切なんだろうな、あいつ。


ま、他にやりようはあるけどな。


「くくっ」


「おお?」「あ?なに笑ってんの馬草」


「いや、まあ俺らは勝手にチャンネルを回すだけだからな。登録者数的にも俺らの方がオリジナルとしてみられてるし、もうあいつらがどうこうできねえよ」


「あー、まあそうだな」

「確かに!楽しみだなぁ」

「いくら振り込まれるんだろう」

「ライブの三曲を分割して動画三つ分、一つだいたい100万再生あるから......」


「30万くらいだろーな」


「「おおお!!すげえ!!」」


今はまだこれで良い。ま、すぐに......ちゃんとお前の大切なモノを奪ってやるぜ。青山、お前の大切なバンドをな。


楽しみだなぁ、青山くん。お前の苦痛に歪んだ泣き顔がさ。


「ところであいつらの次のライブはいつだっけ」


携帯を取り出し調べる田代。それを横から覗く平田が言った。


「おー、来週の土曜日らしいぜ」

「チケットはもう販売してるんか?」

「え、買うのか?」


「そりゃそうだろ。またあのチャンネルがライブの映像アップするとは限らない。それにチケット代くらいで大金稼げるなら安いもんだろ」


「「確かに」」


「カメラとかも買っとくか?」

「良い感じに撮れたらもっと再生数かせげそうだよな」

「良いねえ!」


ここまでは全てが順調。しかし、ゆくゆくは俺たち【偽Re★Game】がやつら本物に知られることになるだろう。

そうなればいくらチャンネル登録者数が多い俺らでも利権を奪われ収益を持ってかれるのは免れない。


なら、どうするか?


決まってる。青山に昔やった事を、またやればいい。だが、さっきも言ったように青山自体を叩いても言いなりには出来ないだろう。だから今回は他を狙う。


そう、ターゲットは青山以外のバンドメンバー。やつらを脅迫して承諾させる。そうだな、盗撮でもなんでも良い......裸をSNSにアップするとか脅しゃあ簡単に頷くだろ。


(しかし、思い出すとムカいてくるつくな)


さっきの青山......この俺に向かって前にあんな顔しやがって。あいつにとってバンドは自分よりも大切なんだろう。あの場でいくら暴力をふるって辱めてもあいつは首を縦には振らなかった。


(......まあ、その生意気な態度でこの先悲劇が起こるんだ)


お前のせいだ。青山。


お前のせいで、バンドメンバーの女どもを人質にされ脅迫されるんだ。


つーか、青山に直接危害を加えるとまた部長......宮田のクソ野郎になにされるかわからねえ危険もあるしな。折れた鼻がまだ痛えぜ、くそ。いきなり殴ってくるとかとんでもねえやろうだな。


まあ、それも青山のせいだ。やつのバンドメンバーに割増で返してやる。ははっ。


「よし、お前ら。作戦会議いくぞ」


「作戦会議?」「学校は?」


「んなもんサボるぜ。ライブは来週なんだから急ぐぞ」


「ああ、まあそうか。つか作戦って?」


まずは一人。三人で一人づつ確実に弱みを握っていく。


「こんな場所じゃいえねえ。とりあえず俺の家いくぞ」


......とりあえずまず一人目は、青山の精神的に一番効きそうな奴。仲良さそうにしてるのがウチの学校にいたよな?


そう、黄瀬陽向だ。あいつを落とす。


学校一可愛い女子、アイドル事務所にもスカウトされたことがあると噂の美人。幼馴染だったか、あいつはなぜか青山と仲が良い。部活も二人で入部してきたしな。


だから青山をつかえば......あいつまたいじめちゃうよ?とか言えば、ある程度の言う事をきかせられるはずだ。そこから弱みを握っていき、最終的には俺のモノにする。


そう、ボードゲームのように、ひとつひとつ......お前の全てを盗り尽くす。


(楽しみだなぁ、あははは)




――




「それで、なに?」


人気のない校舎裏。俺は黄瀬陽向を呼び出した。ここは校舎内の廊下からこちらを見られる可能性はあるが、実はここ授業中や放課後であれば、人通りの無い人目につかないような位置にある。つまり何をしても気が付かれないような場所だ。


「ごめんな、黄瀬も忙しいのにこんな放課後に呼び出して」

「......要件だけいってほしいんだけど」


すげえ冷てえじゃん。ま、青山の事を持ち出して連れてきたんだから当然か。黄瀬にとっても俺は憎い男だもんな。

まあ、だからこそ躾甲斐があるというか......わからせ甲斐があるというか。


「黄瀬陽向さん、好きです。俺と付き合ってください」


手を差し出し頭を下げる。


「......何を言ってるの」


顔を上げると啞然とした表情の黄瀬。やがてじわじわと険しくなり、可愛い顔も台無しになる程の怒りが滲みでてきた。

いいね、とても良い顔だ......そそるねえ。


「それだけなら帰る」


これ以上関わらない方が良い。そう思ったんだろう。青山の名前を出されたから一応来ただけ。

そうだな、こういう奴は無視したほうがいいよな。関われば関わるほど面倒に巻き込まれる。俺がお前でもそうするよ。


でもさぁ、俺だぜ?


「青山って、妹いるんだよなぁ。あいつも可愛いからな」

「......は?」


「あ、いやこっちの話。振られちゃったからさ、新しい恋でもみつけようかなって......さて、今から会いにいくか」

「意味がわからない。それって、脅しのつもり?」


「やだなぁ」


俺は笑う。


「そんな事するわけないじゃん。俺、脅すとかそういうの一番嫌いなんだよね」


お前さぁ、多分携帯でこの会話録音してるよな?相手が俺だってーのに、明らかにすんなりついてきすぎだし、妙に落ちいてるのも変だしな。なにかしら企んでるのがまるわかりだぞ。


青山の件をやりかえそうとしてるなら残念。言質はとらせねえよ。ばーか。


「まあ、話はそれだけ。じゃあね、黄瀬さん」

「ま、待って......」


「ん?なに」


あーあ、ひどい顔してらぁ。あれだけ怒ってたのに変わりすぎだろ。懇願するような顔になってて草。


「......ま、急に付き合ってとか言われても困るよな。ただ、ひとつだけ言っておきたい。もし付き合うのが無理なら、形だけでもいいんだ」


「え?」


「仲間内で黄瀬さんに告るって息巻いちゃってさ。後に引けなくて。だから形だけの恋人でも良い。少しの間、一週間だけとか......それで別れてくれてもいいから」


とりあえず、小さくてもいい。先ずはひとつだけ要求を飲ませる。


「......一週間」


その内に色々するけどな。恋人なら根掘り葉掘り聞いても問題ないだろ。家まで行っても問題ないからお仕掛けたりして。あとは、携帯奪えるチャンスが多くなるのがデカい。


「.......」


考えてるな。さてさて、天秤にかけろ。お前の大切な青山かお前自身かを。


「......明日、返事する」

「そっか。わかった」


「ひとつだけ答えて」

「ん?」


「そうすれば、もう結人と関わらないでくれる?」


......あはっ、これは確定演出ですなぁ。


「なんのこと?意味がわからないけど」

「答えて、関わらないでくれるの」


「言ってる意味わからないけど、恋人がそうすれと言うならそうするよ」


お、良い返しじゃね?これでまたゆすれるじゃん。「恋人じゃなくなるとその限りじゃないけど、別れる?」とかいってずっと引っ張れるな。いやぁ、頭いいなぁ、俺。


「わかった、明日......また」

「うん、陽向ちゃんばいばーい♡」



あはっ。




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