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34.謝罪



――ピシッと、綺麗な土下座を披露する我が妹、青山橙子。


「......な、何してるの」


俺が声をかけると彼女はがばっ、顔を上げる。


「!!」


目が赤い。その表情は以前のような攻撃的ではなく、憑き物が落ちたかのように柔和になっていた。


「......ぁ、え、あのっ、その」


後ろ手に扉を閉める。俺は土下座の意味を知っている。だが、知っている事を彼女は知らない。

だから俺からは何も言えない。


はあはあ、と呼吸があらくなる妹。服の胸元をにぎりしめ、こちらを真っ直ぐみつめる。

彼女の緊張がこちらに伝播し俺も息を呑む。


「あの、お、お兄ちゃん」


数年ぶりのお兄ちゃん呼び。あ、いや録画ではお兄だったか......。


「今まで、ごめんなさい......あたし、今までお兄ちゃんに冷たくしてて......」

「あ、いや......まあ。うん、大丈夫だよ。こっちこそごめん、寂しくさせて」


(色々みたり聞いちゃったりしたし)


「違うの、あたしが勝手に嫉妬してただけだから」


......嫉妬、ねえ。ここらへんはあまり突っ込まない方がいい気がする。なんか危なそう。


「あたしね、お兄ちゃんのこと大好きなんだ」


向こうから来やがった!!ダメだ逃げらんねえ!!


「だから嫌われたくないの。むしのいいはなしだとは思うけど......」

「えっと、まあ......あー」


何も言えねえええ!!


「あのね、兄妹とか家族としてじゃないの。異性として、好きなの。誤解しないでね?」


......。



......いや。



怖い怖い怖い!!そんな告白は聞きたくなかった!!

誤解であって欲しかった!!録画で知ってはいたけど、何かの間違えであって欲しかった!!


「えへへ」

「......」


照れっとした微笑みをみせる橙子。いや、可愛いけど!裏を知ってるぶん比例して怖いわ!!どういう微笑みだよこれ!?

つーかサイコパスだろこの妹はもう......!


「と、とりあえず......中に入っていいかな?」

「あ、ごめんなさい。おかえりなさい、お兄ちゃん♡」

「た、ただいま」



――



ぼふっ、とベッドへ転がる。


「......ふぅーっ」


(す、すごかった)


橙子が何をするにも後をぴったりくっついてきてヤバい。まるで昔に戻ったかのような......しかもなんだろう。こちらの思考を読んでいるような行動が多いというか。


食事中も――


(目玉焼き......醤油欲しいな。冷蔵庫からとってくるか)


ガタッ、と席を立つ橙子。キッチンへと消えたかと思えば醤油を片手に現れた。


「はい、お兄ちゃん」

「......ありがとう」

「えへへ」


(なんでわかったんだ)



お風呂あがりも――


(あ、やべえバスタオル忘れた)


コンコン、とドアをノックする音。


「!?、は、はい」

「お兄ちゃん」


ガチャリと僅かに開いた扉。その隙間からバスタオルが出てきた。


「ありがとう」


(なんでわかったんだよ......)



とにもかくにも、怪我の功名というのだろうか。先の一件で橙子とのわだかまりが無くなって生活がしやすくなった。いつも顔を合わせるたびに感じていた気まずさが消え、ストレスも無くなって良かった。お互いに。


けど、疑問が残る。橙子は俺に嫌われるのが怖かったわけだろ?さっきの玄関での仲直りで和解したとはいえ、こんなにもがんがん距離を詰められるものだろうか。橙子の心理状態がわからん。


もしかしたら俺に遺恨が残っているという可能性もあるのに。許されたと信じて疑っていないようにみえる。つーか、多分そうだろうな。


コンコン、と部屋のドアがノックされる。


「お兄ちゃん、きたよ」

「あ、うん。入っていいよ」


ガチャリと入ってきた橙子はピンクのもこもこしたパジャマだった。


「それで、お兄ちゃん......なに、話って」


頬を赤らめる橙子。ちらちらと上目遣いでこちらをみてくる。なんか変な勘違いしてるような気がするが......まあ良いか。


せっかくちゃんと話をきく気になってくれたんだ。ストレートに聞いてみようか。


「橙子さ、俺の部屋盗聴してない?」


その瞬間、橙子は笑顔のまま固まった。


「......な、え?と、とう......え?」

「してるよね?」


「そ、そりゃあ、お兄ちゃんの事は好きだけどさぁ、さすがに盗聴とかは」

「してないのか?」


「......」


橙子の目が泳ぎまくっとる。


「嘘、つかないよね」

「......あー」


「今なら許してあげるけど」

「すみませんでした、盗聴録音してました。お兄ちゃんの美しい歌声集を作るべく日々あたしの部屋から収集を続け、のべ数百回にわたり犯行を行いました」


橙子は秒で白状し、三秒で自らの罪を羅列した。


「え、橙子の部屋から?ここに盗聴器しかけてたんじゃなくて?」

「お兄ちゃんの部屋入る機会全然ないし。だから壁越しに録音してたんだよ......ていうか、なんでその事知ってるの?もしかして愛の力?」

「おめーがその録音をYooTubeにアップしてるからだよ」


ギクゥ!!と体を震わせる橙子。


「な、なんでそれを......」


がくりと両手を床につき項垂れる橙子。クールなイメージの妹がどんどん崩れていくな。良くも悪くも。


「だ、だって......お兄ちゃん、歌、上手だし......広めたくて」

「断りも無しにやめなさいよ」

「すみませんでした」


「ところで、橙子のチャンネルにライブ映像もアップされてるよね?あれ撮ったのは橙子なのか?」

「そ、そだよー」


「会場に居たのか」

「うん。だって、お兄ちゃんの初ライブなんだもん。ファンだったら絶対に参戦しなきゃでしょ?」


......不覚にも、ファンという言葉に心が揺らいでしまった。


「どうしたの、お兄ちゃん?」

「あ、いや。あのライブ録画禁止だったの知ってたか?」

「......すみません。だってお兄ちゃんのカッコいいとこ撮りたくて」

「禁止だからダメなの」

「うい」


しょんぼりする橙子。けれど言葉とは裏腹に、俺は少し嬉しかった。いままで俺に興味がなかったように見えていた妹がこれだけ追いかけていてくれたこと。

それは俺の存在価値の証明であるように思えたから。


「それともう一つ聞きたい」

「う?」


涙目の橙子。あれ?ビビらせちゃってる?


「そのライブ映像を、俺らのバンド【Re★Game】の名を語る別の誰かに使われてるのを知ってるか?」


「......は?」




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