2.暗い記憶
あれは俺が高校生になりたての頃。
「青山くん、それギターだろ?」
軽音楽部に入るべくギターを学校に持ってきた俺に声をかけてきた同級生がいた。
そいつは入学当初からクラスのムードメーカーのような立ち位置で、いわゆる陽キャ気質の男だった。
名を馬草 亜空。
いつも仲の良い男子三人でつるんでいて、クラスの話題の中心には必ず彼らがいた。
明るい性格とルックスの良さから女子からの人気も高く、地味で大人しい俺とは住む世界が違うと感じていた。
「あ、うん。ギターだよ」
「おー、いいね。もしかして軽音楽部入る感じ?」
「うん」
「そっかそっか!俺ら三人も入部しようと思ってたんだよ。奇遇だな、青山」
「そうだね」
同じ音楽好き。住む世界が違うと感じた彼らだが、意外と仲良くできるのではないかとその時は思った。
だがすぐにその期待は崩れ去る。
その異変に気がついたのはすぐだった。
「......あれ」
とある放課後。部活に行きギターをケースから出すと、その弦が全て切れていた。
「いや青山!おいおいおいっ!お前、弦ねーじゃん!!」
バシと背を叩く馬草。軽音楽部の部員達がそれを見て笑った。
総勢十人余りの軽音楽部。同じく入部していた陽向と俺だけが困惑した表情を浮かべていた。
「お前さー、ちゃんと弦は張らないと駄目でしょー?これじゃ演奏できないよ」
先輩男子が言う。
「おいおい、青山。せっかくのギターが泣いてるぞ、おい」
「先輩、あれっすよギター下手だからウケ狙ってんすよ」
「いや面白いけどよ、はは」
奇跡的に全ての弦が切れていた......そんな訳は無い。誰かがやったのだ。ただ、誰がやったのか?それが重要だった。
俺はクラスでは目立つことも無く、誰かとケンカやトラブルになったことも無い。
だから、恨みを買ってギターにイタズラされたという線は無いと考えた。
(......一体誰が?)
その答えは次の日にわかった。思い悩み眠れず、初めて遅刻して登校した日。一時限目には間に合わず、休み時間に教室にたどり着いた。
扉を開けようとした時、教室から馬鹿笑いが起きる。そこで聞こえてきた会話。
「青山こねーな」
「ほらほら、馬草がいじめ過ぎたから」
「いやイジメてね〜から!」
......イジメ?
「せっかく見つけたおもちゃなのに学校来なくなったらどうするんだよ」
「ギターの弦全部はやりすぎたか?」
「でもウケたよな?あの顔!目ん玉落ちるんじゃねえかってくらい目ぇ見開いてよ」
「馬草くんウケるね」
「だろだろ?俺が青山のことちゃんと面白い芸人に育ててやっからさ!」
「誰も頼んでねーっつーの(笑)」
「いやギター持ってきてんだぜ?目立ちたいんだろ?俺がヒーローにしたる」
「あははは、マジウケるね」
「今度は何しようか?」
「俺に考えがある」
「お、流石馬草くん!なになに?」
「あいつが居ないうちにギターの色を変える!」
「なにそれ馬草イリュージョンじゃん(笑)」
「「「「(笑)」」」」
――ガラ
俺は教室に入った。
「お?おお?青山じゃんか!心配したぜえ」
馬草が寄ってきて俺の肩を掴む。心配していた風の表情を浮かべ「どしたん?体調悪いのか?保険室、いくか?」と話しかけてくる。
その背後でクスクスと俺を嘲笑う声が聞こえてくる。
ほんと、陽向が別のクラスで良かった。
「今の話、本当なの?」
「......あー、何が?」
「俺のギターを」
「あーあー、それな!面白えだろ?お前も笑いを取れて俺らも楽しい!ギャグだよギャグ!」
「笑えないよ」
「は?面白えだろ。見てみろよ、みんな笑ってんぜ?これは冗談でギャグなんだよ。それくらいわかれよ、青山ちゃん」
「俺は、軽音楽部でちゃんとバンドしたいんだ......だから、もう関わらないでくれないか」
「お前さあ、部活ってのは楽しくやるもんだろ。先輩も言ってただろ?なに輪乱そうとしてるの?あんな遊びの部活で真面目にやろうとするなよ」
遊びの部活。確かにそうかもしれない。俺と陽向は練習をするが、他の大体の部員はYooTubeを見ながらお菓子を食べていたり、漫画を読んで遊んでいる。
そもそも間違っていたのかも知れない。
「わかった」
「おっ、物わかり良いねえ青山ちゃん」
「俺は軽音楽部辞める」
「......あっそ」
そうして俺は軽音楽部を辞めた。だが、それでイジメが終わるはずもなく、馬草による執拗ないじりが始まった。
給食に入っているチョーク。椅子につけられている接着剤。筆箱の中のムカデ。数え上げれば切りが無いくらいの仕打ち。
またそれを収めた動画。ついにはSNSにあげられ俺の人生は高校生にして終わりを迎えたのだ。
「なあ、青山。知ってるか?一度落ちた人間は這い上がれ無いんだぜ。でも安心しろよ。俺らがお前を面白系YooTuberにして稼がせてやるからよ(笑)」
もう、学校には居られないと思った。俺の居場所は無い。
家族や陽向には言えなかった。心配させてしまうから。そうなれば家族や陽向も俺のことで思い悩むことになる。
それは嫌だった。
そうして溜め込んだ物が限界に達した。俺は学校へ行こうと玄関の扉を開けようとしたとき、吐いて倒れた。
それからずっと家の中だ。
家族には未だに打ち明けられていない。
......でも、そうだ。不思議なことにネトゲの四人には。
――ん?
光が瞼を照らす。チュンチュンと外から雀の声が聞こえる。
「......あれ、俺」
生きてる?
両手で床を押し、体を起こす。
「よ、良かった......何だったんだ、あれ」
(――!?!?)
俺は瞬時に周囲を見渡す。突然聞こえた女性の声。しかしあたりには当然女性など居るはずもなく、彼女いない歴=年齢の俺に朝起こしに部屋へ来てくれる女性も居ない。
可能性としては母親か妹があるが、基本的に部屋に入らないでと言ってあるのでその線は無い。というか、声が違ったし姿もないし。
と、なれば今のは?
部屋の中に誰かが潜んでいる?あり得ない......が声の主が見当たらないので確認する必要がある。
そう思い俺は立ち上がろうとした。その時。
「おっ、わ」
バランスを崩し、床に尻もちをつく。そしてまたしても聞こえた女性の声。
だが、俺にはそれ以上に気になることが起こってた。
「......な、なんぞこれ.....?」
尻もちをつき床に座る俺。その視界に入る二つの膨らみ。着ているパーカーには猫のキャラクターが描かれており、そのキャラクターの顔が浮き出ていた。
(なにこれ、何は入ってるのこれ)
妙だった。妙な感覚。ただ一つ言えるのは、何らかの物を入れているような感触はないということ。
いずれにせよ確かめる他ない。そう思い俺はパーカーの下から手を入れた。
「ひっ、!?」
ビクリと体が跳ねる。
「な、な、え!?」
確かめその正体は触ることにより判明する。しかし、判明したことでさらに俺は困惑する。
「む、胸が......ある!?」
その瞬間、瞬時にもう一つの方を確認する。ジャージ腰に手を当てる。
あるはずのものが、無い。
「......」
視線をあげる。壁に貼られたポスターのアニメキャラと目があった。彼女はTS少女。エロゲのヒロインだ。優しく微笑む彼女の顔を数十秒ながめ呆ける。
やがてゆっくりとあたりを見回す。あるはずもない失ったモノの姿を探し。
「......俺、まさか」
そして同時に女性の声の謎が解けた。
手を見る。自分のものとは思えない細く綺麗な白い指。
割と大きいパーカー越しでもわかる胸の膨らみ。
そして、面影は微かにあるものの、高く綺麗な女性の声色。
「お、俺......女になってる、のか?」
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