表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/26

王都への道行


 宿の人達に、「娘の恩人」だの「何でも言って」だの言われたものの、何もしていないので、宿代は普通に払った。

 でもまぁ折角のご厚意なので、フェニー用の石炭をお願いしてみた。


「まぁ! 本当に食べてるわ!」

 宿の娘さんが驚いた様な声を上げた。元気になったようで何より。


 宿の夕食を食堂で取った後、宿の奥の設備でフェニー用の石炭を分けてもらっている。

 最初は、(フェニー)のエサだと言っても信じてもらえなかった。

 でも、前世でも通じる様な普通の鳥のエサ、雑穀とかを差し出されてもフェニーは食べない。

 逆に、宿で出されたビーフシチューの肉に齧りついたフェニーを見た娘さんと女将さんは、

「これは普通の鳥ではないかも」

 と言って、後で宿の奥に案内してくれたのだ。


 因みに、件の肉をフェニーはちゃんと食べていない。

 吐き出してしまったのだ。

 普段、私の作るビーフシチューの肉は喜んで食べるのに、何故、今回吐き出したかは謎。

 娘さん達が他の人の給仕に行った後で良かった。

 フェニーったら、「メロンだと思って齧ったらピーマンだった」みたいな顔するの止めなさいよね。


 翌朝、宿を旅立つ。


「落ち着いてからで良いから、ちゃんと幼馴染を助けられたか、教えてね」

 見送りに出てくれた宿の娘さんに、声をかけられる。


 結局、私とステイトの性別の誤解は解けなかった。

 彼女の中で、ステイトを救出後、私達は結婚する事になっている。

 尤も、これは間違いではない。

 お互い近い年頃の相手が他に居ないのだから、村を出ない限りはそうなる。

 私達の相性にも問題ないし、私が村長の一人娘であるのに対し、ステイトの家は既婚の長女トゥーラが継いでいる。私がステイトを婿にもらうという認識を、村民全てがしていると思う。


「ここから王都まで、しばらくは道なりに進むしかないが、王都の近くまで行けば、街道が大きく迂回する所がある。

 司祭の乗った馬車は、迂回路を通るしかないが、徒歩だったら近道がある。

 時間はかかるかもしれないが、少なくとも王都では必ず追いつく。

 諦めずに頑張れよ!」

 宿の主人が励ましながら教えてくれる。


 司祭達は道中を特に急いではいないらしく、スタート時点の日数差は狭まってもいないが、開いてもいない。

 街道が曲がっている部分に来るたびに、道を外れてまっすぐ進めば追いつけるかもしれない位の差だ。

 しかし、精巧な地図もなければ、街道ではないルートの安全性も確保されていない。

 宿の主人の言う通り、王都の近くの近道までは我慢して、街道を追っていくしかないだろう。


「ありがとうございます。お世話になりました」

 頭を下げる。お辞儀の習慣は、こちらの世界にもあった。


「これ、少ないけど石炭。持って行っておくれ。

 その変わった鳥は、あんまり人には見せない方が良いよ」

 女将さんが、買い物に使う袋に入れた石炭をくれた。


「はい、何から何までありがとうございます」

 ありがたく受け取る。

 3つ先に炭鉱の町があるので、そこまでの分としては十分だ。


 この世界、魔法を使う生き物はそれなりに居るが、人に懐く事は滅多に無いそうだ。

 小鳥の時に助けた、と言ったら、

「……それなら、そんな事もあるのかしら?」

 とか言われた。

 この世界だと、「辺境の田舎あるある」なのかもしれない。


 再度、別れとお礼を言って、宿を発った。

 昨日は、宿にしか行けなかったから、冒険者ギルドに寄らないとね。


「すみません。

 街道で出会ったモンスターの討伐証明を、提出したいんですけど」

 受付に申し出る。


 冒険者ギルドでは、貼り出されている依頼を受けてから仕事を行い、同じギルドの受付で依頼達成を確認してもらって報酬をもらうのが基本だ。


 私が行っている「街道出現モンスターの討伐」は、常設だけどちょっと変則的な依頼である。

 まず、前の拠点のギルドで依頼を受け、門番から日付入りのサインをもらって出発する。道中のモンスターを討伐し、ギルド指定の証明になる部位を入手する。次の拠点に入った所で、門番にまた日付入りのサインをもらう。討伐証明部位と2つの日付入りサインを提出して、斃したモンスターの数や脅威度に応じた報酬をもらって終了である。


 サインの日付が3日以上離れていると、「街道に出現したモンスター」とは見做されないので、依頼失敗となる。一応、ペナルティにはならない。

 拠点間の移動にかかる日数は1~2日だから、少しなら寄り道も可能だが、金銭的なリスクが高いので、狙って行う人は多分あまりいない。

 ギルドは、依頼を受けていないモンスターの討伐証明部位にも、一応お金を出してくれるのだが、脅威度が高くない限り大した額ではないのだ。


 驚いたのは、エイド(最初の)村から(ラストタウン)までに出会ったモンスターの討伐証明部位が結構高額だった事だ。

 村では単にゴブリンと呼んでいたものが、上位種のハイゴブリンだったりした。


 でも、考えてみれば当然かもしれない。

 ゲームでは主人公の出発地点だから、その近辺のフィールドモンスターが最弱なんだろう。

 しかし現実では、王都などの栄えている場所の付近が最も安全で、私の出身村の様な辺境が危険な方が自然だ。

 道中の危険が減っていくのは良い事だ、と思う事にした。


 残念だったのは、私の冒険者としての実績に、村近くで斃したモンスターの討伐が加算されない事だ。

 冒険者登録する前だったから、仕方ないんだけどね。


「……確認出来ました。

 報酬はこちらです。ご確認下さい。

 それから、冒険者ランクアップ条件を満たしました。

 ランク『半人前』になります。

 冒険者カードを更新しますので、もう少々お待ち下さい」


「ありがとうございます」

 やっと、と言っても1週間経ってない位だけど、『駆け出し』から念願のランクアップ。

 受けられる依頼のランクはあんまり変わらないけど、『駆け出し』のまま依頼を成功させずに1ヶ月経つと冒険者登録が抹消されてしまう。『半人前』なら3ヶ月保つ。

 冒険者カードは拠点移動の際に身分証明にもなるので、ステイトに追いついて連れ帰るために活動できない期間も登録は維持しておきたい。1ヶ月は論外としても、3ヶ月もちょっと厳しいかな。


 ギルドの受付からは、「街道に出現したモンスターの討伐」以外の依頼を受ける事も勧められたが、道行を急ぎたいので断ってしまった。


「アンジーさんは実力があるようですので、残念です。

 この辺りから王都方面の街道には、然程モンスターが出現しませんから。

 ……カードの更新が終了しました。どうぞお受け取り下さい。

 行ってらっしゃいませ」


 ギルドを後にして、そのまま出発する。

 

「フェニー、出て来ても良いよ」

「ピィ」


 フェニーは隠しておいた方が良いと、宿の人に助言してもらったので、ずっと懐に入れておいた。

 鞄に入れておくと発火してしまったりするのに、私の懐だと単に温かいだけとか、本当に不思議な鳥である。



「はっ! せい! やっ!」

「ギャ!」「ギャッ……」「グゲッ」


「また小さいゴブリンが3匹だけか……。

 あんまりお金にもならなくて、嫌なんだよね」

「ピィ……」

 ついついフェニーに話しかけてしまう。


 拠点をさらに2つ超えたが、道中は少し退屈な位だった。

 ゴブリンや狼、スライムなんかが3匹位ずつしか出ない。

 スキルを使うまでもなく、付与つき(トゥーラ作)の剣なら、一振りでオーバーキルだ。


 どっちにしろ死体を片付けなきゃいけないから、討伐証明部位も取っているけど、村近くの上位種と違って、ここら辺の街道の討伐報酬は、子供のお小遣い位にしかならない。

 ギルドの受付の人が、他の依頼を勧める訳だよ。

 

「特にゴブリンが最悪だよね。

 フェニー、お願い」

「ピィー!」


 狼は毛皮が売れるから、丸ごとマジックバッグに収納しておいて、後で買い取りに出せる。

 スライムは斃すと核を残して溶けるから、討伐証明部位であり、素材でもある核を拾っておしまい。

 でも、ゴブリンは素材にならないから、死体を片付けないといけない。

 一番手間がかかるのに、最もお金にならない、それがゴブリンだ。

 

 片付けを終えて、移動を再開する。


「父さんが持たせてくれた分と、村近くのモンスターの報酬があったから困らないけど、面白くはないよね」

「ピッ!」

 拠点での宿泊費用などの必要経費が、移動の討伐報酬を上回るのだ。

 帰りが、ステイトを連れての逃亡になる事が予想されている以上、余裕はあった方が良い。



 なんて油断していたせいか、ちょっとピンチです。


「グググググ……」

「やあああ! ……くっ!! フェニー! 援護お願い!」

 モンスターの手足を切り落そうと一気に切りかかったが、切り落すに至ったのは、片腕だけだった。

 振り回された残りの腕を避けたら、地面に腰がついてしまった。


「ピィーー!」

 フェニーの炎で足止めしてもらって、態勢を立て直す。


 相手は1体だけだが、私の剣にもフェニーの炎にも相性が悪いゴーレムだ。


「【バーサーク】! はぁあああ!」

「グウゥゥゥ……」

 私の剣で核を割られたゴーレムが、ゆっくりと土に還っていく。


 ゴーレムは、これまでの道中に出て来た事は無かった

 しかし、次の炭鉱の町に近付いてきて、積まれた資材や物置小屋で見晴らしが悪くなった所で、突然現れた。


「はぁ、1対1で核を回収するのは、やっぱ無茶だったか」

 ゴーレムは核を破壊すれば崩れるので、脅威度はそれほどでもない。

 しかし核が高価なので、素材回収しようとすれば、難易度は高い。

 今回は核を回収しようとして、追い込まれてしまった。ちょっと失敗。


《ピンポーン!

 スキル取得条件を満たしました。

『アンガーマネジメント』の【怒涛の攻撃】と【憤怒の一撃】を取得しました》


「やった!」

 スキルゲット出来たし、終わり良ければって事で。

 割れてしまって、ほとんど討伐証明の価値しか無くなってしまった核の破片を拾う。



「きゃあああ!! アレックスー!!」

「フローラ! お前だけでも逃げろ!」


 何事!?



読んで下さってありがとうございます。


明日12時に次話投稿します。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ