『アンガーマネジメント』
アンガーマネジメントの定義の表現は、アンガーマネジメント協会に倣っています。
再び宿に戻って来た。
「父さん、ステイトはどうなるの?」
「教会側の待遇次第かもしれん。
追いかけて様子を確認して、ステイトの扱いが悪い様なら、領主様にお願いする事も出来るだろう」
……教会の権威が強すぎて、実質的に出来る事はあまりないのかもしれない。
でも、
「父さん、せめて、ステイトの無事を確認したいよ!
私が追いかける!」
「アンジー。
気持ちは分かるが、お前には無理だ。
ステイトが連れて行かれた聖都は、村とは反対側の国の端なんだ。
危険な旅になる。
戦闘向きのジョブが必要だ。
お前の『アンガーマネジメント』は、そういうものではないんだろう?」
私の両肩に手をおいて語る父の目に、涙が滲んでいる。
父も悔しいのだ。
村に戻ってから考えよう、そう言われて、私にはもう何も言えなかった。
父は、村長として、頼まれた買い物に出かけた。
普段ならついて行くところだが、気が乗らなくて、一人残っている。
アンガーマネジメントは、「怒りの感情で後悔しないこと」と定義される。
怒りをコントロールし、プラスのエネルギーに変えていくための技術だ。
前世はおかげで人生が変わったと言っても過言ではないほど、私にとって重要な技術だった。
でも今、その技術でも、どうしようもない怒りが、胸の内を渦巻いている。
前世で習得したものを、たった一つしかもらえないファンタジースキル枠に入れる事ないだろ!
今の私に必要なのは、ステイトを取り戻せる力だ!
神様! 居るんなら、ステイトを、私の幼馴染を返せ!
それが出来ないなら、せめて、私に戦う力をくれ!
《ピンポーン!
強い怒りを確認しました。
スキル取得条件を満たしました。
『アンガーマネジメント』の【アンガーストック】を取得しました。
【アンガーストック】に、現在の怒りをストックしますか?
YES or NO?》
へ?
《【アンガーストック】に、現在の怒りをストックしますか?
YES or NO?》
「い、YES!」
思わず、声にしてしまう。
《【アンガーストック】に怒りがストックされました。
スキル取得条件を満たしました。
『アンガーマネジメント』の【バーサーク】を取得しました》
……もしかして、今世の『アンガーマネジメント』は、前世とは違うのか?
こんな時にステータスが自分で確認できれば、もっと色々分かると思うのだが、この世界では、教会の水晶の様に、なんらかのアイテムが必要だ。
「そうだ! 冒険者登録すればいいんだ!」
ジョブをもらうと冒険者登録が可能になる。
登録すれば冒険者カードで、ある程度のステータスが見れる様になる。
思い立ったら、善は急げだ。
宿の人に、冒険者ギルドに行く、という父宛の伝言を任せて出かける。
普通の規模の村は、小さくても教会と冒険者ギルド支部があるものだ。
しかし私達が生まれ育ったエイド村は、村民も少なく辺鄙な所にあるため、どちらも無かった。
「えっと、ここ、だよね」
宿の人に場所も教えてもらったし、今世の読み書きも出来るので、看板も間違いなし。
舐められない様に、道中の装備を身に着けている。
中に入ると、大体想像通り、ちょっとウェスタンな雰囲気の場所だ。
時間が昼近かったせいか、空いており、直ぐに受付に行ける。
特に絡まれる事も無かった。
「すみません。冒険者登録したいんですが」
「では、こちらに記入お願いします」
名前、年齢、出身地、ジョブ、使用武器を書く欄を埋めて提出する。
年齢と出身地は、書かなくても大丈夫らしいが、特に隠す事も無いので書いた。
「あの、私のジョブは珍しくて、調べる方法があれば教えてもらいたいんですけど」
登録料を払いながら、聞いてみる。
ちなみに、村は基本的に物々交換だったので、街に入った時に父にもらったお小遣いで、今世で初めての買い物?だ。特にドキドキはしなかった。
「そうですね。
自分のジョブなら、スキル名を思い浮かべれば、使い方が分かります。
最初の慣れないうちは、カードを使った方が分かりやすいかもしれません。
文献を調べたい場合、あちらの資料室が利用できます」
受付の人が、カードの使い方を見せてくれて、資料室の場所を教えてくれた。
冒険者カードは、表面に名前、冒険者ランク、ジョブが記載される。
裏面に、取得済みスキル一覧が自動更新される。
それぞれのスキル名をタップすると、裏面全体が説明に切り替わり、再タップか時間経過で一覧に戻る。
ファンタジーアイテムである。
早速、スキル説明を見る。
【アンガーストック】:
怒りの感情をストックし、『アンガーマネジメント』で使用する事が出来る。
【バーサーク】:
【アンガーストック】でストックされた怒りを消費し、攻撃力と敏捷性を短時間上昇させる。
対象範囲は、スキル保持者本人のみ。
使用中は仲間と連携が取れない。
「ふーん、なるほど」
ジョブ『魔法使い』になるとジョブスキル『魔法』の【ファイアボール】などが使える様になる。
『魔法』が『魔法使い』のジョブスキルの総称である様に、『アンガーマネジメント』もスキルの総称だったのだ。
一般的なスキルは、『剣士』の『剣技』であっても、使用にはMPが必要だ。
『アンガーマネジメント』は、怒りをストックする必要があるが、MPを消費しない点が、一般的なスキルと違う。
つまり、私ってMPがあっても、意味ない?
……ま、いっか。
とりあえず、強化スキルゲット。
ステイトを追いかけつつ、色々やってみよう。
「……という訳で、戦えると思う。
だから、私、ステイトを追いかけるよ」
「アンジー……。
お前は一人娘だから、あまり危険な事はしてほしくなかったんだけどな。
でも、母さんに似たのか、仕方ないな。
気を付けて、行っておいで。
ステイトを連れ出せたら、真っすぐ村に帰っておいで。
何があろうとも、お前達を守るから」
「父さん……」
父は、私とステイトのマジックバッグに、色々なアイテムを詰めて、結構な額のお金と共に渡してくれた。
「ありがとう、父さん」
「なんだ、これ位の事。
それより、移動式の結界の魔道具は、本当に持っていかないのか?
一番、重要だろう」
「ううん、それが無いと父さんが村に帰れないでしょう。
それに、道中で鍛えていきたいから、どうせ使わないよ。
野営用の固定型だけで十分だよ」
「ジョブ神託」の16歳が居ない年の父は、一人で納税に出かける。
移動式結界の魔道具で済ませるのだ。
使用するのに魔力を充填した魔石が必要となる。
今回の道中は3人だったので、節約したのだった。
翌朝、父と別れて、村の方向とは反対側の出入り口から街を出る。
これから街道を通り、町などの拠点を利用して、国の端まで向かう。
ステイト達は、かなり良い馬使っていると予想されるので、途中で追いつけるとは思えない。
拠点間は、馬車で1日の距離が多い。
徒歩だともう1日かかるかもしれない。
目的地の聖都までは、1年位かかりそうだ。
でも、諦めない。
必ず、ステイトまで辿り着いてみせる!
それに、一人じゃない。
「おいで! フェニー!」
「ピィーー!」
愛鳥のフェニーだ。
時々何処かに行ってしまって、1ヶ月位帰って来ない習性がある。
最初は心配したが、戻ってくる時は、何処に居ても私の所に飛んで来るので、もう慣れた。
今回は出発のタイミングにかち合ってしまって、連れて来れなかった。
昨日、冒険者ギルドから宿に戻って来た所で、飛んで来てくれた。
行ったことの無い街であっても、私を探し当ててくれたフェニーのおかげで、一人と一羽の旅だ。
「さぁ、出かけよう!」
「ピィー!」
読んで下さってありがとうございます。
「私達の戦いはこれからだ!」~おしまい~
なんちゃってー。
また明日12時に投稿します。
よろしくお願いします。