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街へ、そして

 

 村を出てしばらくは、平穏な旅路が続く。


「このクッション、いいねぇ。

 アンジーは本当にスゴイなぁ」

 余ったクッションを抱きしめて、頬を染めるステイトは無駄に可愛い。


「ハハッ、ステイトはアンジーを褒めすぎだよ。

 でも、確かにこのクッション良いな。

 馬車の旅が楽になった」

 余計な一言から話し始めた父も満足そうだ。


 馬車の揺れが酷くてお尻が……というのは、テンプレの一つだと思う。

 魔道具士トゥーラに、スプリングやゴムの様な素材など、色々協力してもらった。


「これも、街で宣伝するのはどうかな?」

 父に提案してみる。


 今世の父リードは、職業は村長だが、ジョブは『商人』だ。

 ヘチマ水も、セールスの上手かった父の功績が大きい。

 それを自慢しない父も、村の防衛を担っている元冒険者の母も大好きだ。

 良いジョブをもらって、親孝行したい。

 逆縁の親不孝をしてしまった前世の分も。



「っ! ゴブリンだ! 3匹いる!

 アンジー、ステイト、頼む!」

 御者をやっていた父から、声をかけられる。


「任せて!」

 剣を抜き、馬車から飛び降りる。

 予想された事なので、トゥーラ作の付与つき防具、サークレットと軽鎧に小盾は着用済みだ。


「アンジー、後ろのは任せてぇ」

 ステイトも、予め出していた弓を構えている。


 ゴブリンは、前衛2匹と、魔法職っぽい後衛1匹だった。

 間延びした語尾とは裏腹の素早い動作で、ステイトが後衛を射かけている。


「グアアア!」

 体格に恵まれた前衛のゴブリンは、威嚇なのか、棍棒を振り回している。

「はあ!」

 手近の1匹に走り寄り、振り下ろされた棍棒を避けて、利き腕を切り落とす。

「ッガア、ア!」

 手首とその先を失って血を吹く腕を掴んで、動揺しているゴブリンの鳩尾辺りを蹴って転がし、一時的に無力化しておく。


「ウガアア!」

 少し離れた位置に居たもう1匹が、仲間をやられた怒りに身を任せて向かって来る。

「やあ!」

 突進を躱し、返す動作で首に切りつける。

「ギッ……」

 頸動脈から青い血が派手に噴き出し、絶命したのを確認する。


 振り返って、腕を落としただけのゴブリンを見ると、父が放った矢が何本も突き刺さって絶命していた。


「アンジー、大丈夫ぅ?

 怪我しなかったぁ?」

 弓を仕舞い、後片づけのために馬車から降りて来たステイトに声をかけられる。


「うん、全然平気。

 トゥーラの付与は凄いよね。

『剣士』じゃない私でも、簡単に切れちゃう」


 勿論、剣もトゥーラの付与つき。血糊を寄せ付けず、刃こぼれもせず、僅かな手入れで切れ味は鋭いままだ。

 防具は、返り血も防いでくれるので、視界が悪くなる事も無い。


「よし、無事だったなら、乗ってくれ。進もう」

 ゴブリンの討伐証明部位を切り取り、死体の処理が終わったら、父の号令で旅を再開だ。


 前世の二次元のゴブリンと比べると、この世界のゴブリンは大きくて、人間の大人と同じ位だ。

 でも脅威度は低くて私の様な素人でも、1対1なら油断しない限り危険は無い。

 出て来るのは大体3匹なので、こっちも3人居れば大丈夫だ。


 その後の道中も、3匹組のゴブリンや、数匹の狼の群れ、歩く毒キノコ(マイコニド)なんかと出くわしたが、特に問題なく討伐出来た。


 夜は、結界を起動する。

 マジックバッグには、3日分の温かい食事が入っている。

 シャワーも使える。

 着替えもあるが、洗濯も出来る。

 全ての魔道具を作ったトゥーラ様様である。


「姉さんもスゴイけど、考えたアンジーもスゴイよぉ」


「いや、それは全くないよ」

 ステイトの言葉に、流石に苦笑する。

 私は、前世のアイデアをトゥーラに強請っただけだ。


「凄すぎて売る訳にいかないんだよな」


「ん? 父さん、何か言った?」


「いや、何でもない。

 明日は、(ラストタウン)に着くからな。

 今日は早めに休んでくれ」


「「はーい」」



「あ、見えてきた。あそこ? 父さん」

「そうだ」


 村では「街」としか呼ばないが、ラストタウンという縁起の悪そうな名がついている。

 ちなみに、私達の村は、エイド村という。

 ラストタウンは、ここら一帯で最も大きな街だ。

 ここまで来れば、大体の手続きは済ませられる。


「わぁ、スゴイ大きな街並みだぁ。

 こんなにお家がいっぱいある所、初めてみたぁ。

 ふわぁ、人もいっぱいだぁ」


「ステイト、はぐれると大変だから、手をつないでおこう?」

 ステイトがいつも以上にフワフワしているのが不安で、手を取った。


 華奢なステイトは、私より頭一つ分くらい小さく、整った顔立ちは愛くるしい。

 間違いなく男なのだが、ぱっと見は只の美少女である。

 街の若い男達が振り返ってステイトを見ては、手を繋いでいる私に舌打ちしていく。何かが解せない。


 前世の私からすると、街の人通りはそれほど多くはない。

 街並みは、ヨーロッパの観光都市の様な感じだ。

 魔道具があるので、不衛生ではないのが助かる。

 

「先に宿を取ろう。

 それから、税を納めてしまいたい。

 教会は、明日でもいいか?」


「いいよ」「いいですよぉ」



 そうして、翌朝の教会。


「ブヒョヒョ。おお、これは、可愛らしい。

 では、こちらから」


 太り過ぎて頬が垂れたジジイが、ステイトを引き寄せる。

 本日の神託を担当する司祭だそうなんだが、大丈夫か?


「さぁ、この水晶に手をかざして」

 いかにもな丸い水晶玉を、神託に使うらしい。


 ステイトが手をかざすと、眩い光が水晶玉から放たれる。


「ブヒョヒョ!

 これは、素晴らしい!

 こんな辺境で燻っていた甲斐がありましたよ!

 この子のジョブは『ステータスオペレーター』です!」


「え!? 凄いじゃん、ステイト!」


 ゲームの様なステータスやスキルのある世界で、ステータスを操作できるとか、チート以外の何物でもない。

 やっぱ転生者なんじゃないの?


「ブヒョヒョ。誉れ高きSSジョブ持ちです。

 この子は、このまま教会が預かります。ブヒョヒョ」

 

 ブタ……じゃなかった、司祭がとんでもない事を言い出した。


「そ、そんな、司祭様。

 その子、ステイトは、大事な預かり子です。

 一度、親元にお戻し下さい」

 焦った父が、止めようとする。


「何を言うのです。

 教会が信じられないのですか!

 なんと言おうとも、この子は、このまま連れて行きますよ」 


 ブタはそのまま、ステイトの手を掴み教会の奥へ向かう。

 ステイトは抵抗しているが、思ったより力が強いのか、そのまま引きずられて行ってしまう。


「ステイト!」


「アンジー!」


 互いの名を呼び、手を伸ばしたが、教会騎士が間に入ってくる。

 私達がほとんど抵抗をしなかったため、乱暴はされなかったが、そのまま、私と父だけ教会の外に出されてしまった。


「父さん……」


「アンジー。

 明日、また来よう。

 お前の『ジョブ神託』があるから、向こうも断れないだろう」


 父の顔色は悪い。

 この世界では、教会の権威が強いのだ。


 少し肩を落とした父と、街の宿に帰って来た。

 宿には、ステイトの荷物が、残っている。

 装備と着替えは部屋に置き、貴重品は宿の貸金庫を使ったので、今のステイトはほぼ何も持っていない。



 翌朝、教会が開く時間に合わせて、訪れる。


「え? 司祭様は、旅立たれたのですか!?」

 問い合わせの答えに驚く父。

 あのブタ司祭は、昨日の内にステイトを連れて、教会の本拠地がある聖都に向かったのだと言う。


「で、では、娘のジョブ神託はどうなるのですか?」


 通常ジョブ神託は、司祭以上が執り行う事になっているらしい。

 私達の村の様に教会が無い集落は稀だが、教会があっても司祭がいない場合は、司祭のいる所に移動する必要があるのだそうだ。知らなかった。


「水晶がありますから、神託は行えます。

 ……私で良ければですけど」


 昨日使われた水晶は、神託の水晶と言って、ジョブ神託とステータス確認に必要な物だそうだ。

 はっきりとは言わないが、それさえあれば、誰でも出来るんじゃないかという疑惑が沸き起こる。


「お願いします」


 そうして私は、ジョブスキル『アンガーマネジメント』を授かった。



読んで下さってありがとうございます。


続きは明日12時投稿の予定です。

よろしくお願いします。

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