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故郷のビーフシチュー


「ピィーイ!」

「どうしたフェニー、ってミノタウロスか!」


 色々あったが、やっと故郷のエイド村の近くまでやって来た。


「倒しちゃおう、アンジー」

「そうだね」


 ミノタウロスは強敵なのだが、肉が美味い。

 人口が少なくて家畜の牛がほとんどいない村では、特に喜ばれるタンパク源だ。

 シチューになった肉はフェニーの好物である。


「あ、待ってぇ。結構居るよぉ」


 前世のミノタウロスは、神話の中に一頭しかいないが、今世のミノタウロスは種類名なので、雄雌がいるし、当然複数だ。しかし、牛なのには群れないという特徴を持っていて、今までは大体1頭だけで見つかっていた。


「5頭か。ちょっと多いな。諦める?」

 近付いてきて、陰に隠れていたりしていたのが確認出来る様になって、小規模でも群れと言っていい位だと分かった。


「ピィイ!? ピィ! ピィ! ピィーー!」

「ちょ! フェニー!?」

 諦められなかったらしい愛鳥(フェニー)が突撃して行ってしまった。


「バフかけるよぉ」

「おねがーい!」

 フェニーを追いかける私に、ステイトが補助を入れてくれた。


「ピィィーー!」

 炎を纏ったフェニーがミノタウロスの周りを飛び交う。

 直接的な攻撃をしないのは、食べられる肉を減らしたくないからじゃないかな。食いしん坊め。


「【明鏡止水】!」


 フェニーが敵を攪乱している隙に時間を稼ぎ、一番体の大きなオスにスキルを発動させる。モンスターのレベルが高いとダメージだけで即死まではいかないが、今回は大丈夫だった。

 これで、残り4頭。


「ブモォオッーー!」

「アンジー、トドメを刺してぇ」


 別のオスの目にステイトが矢を命中させていた。なかなかの技量だが、弓矢ではトドメまでは厳しそうだ。

 走り寄って、首を切り裂く。これで残りは3頭。


「ンモォー!」「モォー!」「モォッ!」

 残ったメスの内、体の大きい個体が仲間を連れて逃げようとしている。


「逃がしてもいいかな。肉は雌牛の方が美味しいけど……」


「ッピィィーー!」

 飛んでいったフェニーがメスのミノタウロスの行く手を阻む様に、翼を広げている。


「フェニーがダメだって言ってるよぉ」


「どんだけ食うつもりだよ……。【怒涛の攻撃】!」


 残った3頭の内で一番小さい個体には当たらないようにした。どっちみち、集中しないと全部は斃せない。

 

「【憤怒の一撃】!」

 案の定というか仕留めきれずに、追加のスキルも加えてようやく2頭を片付けた時、狙わなかった1頭は逃げ去っていた。


「ピィィ……」


「フェニー、4頭も獲れたから、シチューの分は大丈夫だよぉ」


 ステイトが、不満そうなフェニーを宥めている。私は、走り回ってスキルを連発していたので、息が上がっている。食い意地の張ったペットを慰める気分ではない。


「はぁ。村に向かおう。捌く気力はもう無いや」


 マジックバッグにミノタウロスを仕舞い、エイド村に向かう。



「ただいまー」

 村に着いた後、ステイトとは一旦分かれて、それぞれの家に向かう。


「お帰りなさい、アンジー」

「お帰り」


 母と父が迎えてくれた。

 因みに我が家の場合、母が家に居る方が珍しい。家事も父の方が主体だ。今日の晩御飯は、私達が取ってきた肉で作ったビーフシチュー。久しぶりの好物に、フェニーも満足そうだった。


「どうだったかしら、旅は?」

 お茶を淹れてもらい、落ち着いたところで、母に水を向けられたので、聞いてみる。


「ほとんど何事もなかったけど、魔王の影が会いに来たんだ。普通に話しかけて来て、なんだか凄く人間ぽかった。

 母さんの時って、魔王はどんなんだったの?」


「アンジーには人間に見えたのね。

 先代勇者に同行しての旅路で、母さんも魔王の影に会った事があるわ。乱暴で居丈高なだけで、母さんの目には只の嫌なヤツにしか見えなかったわね。人間性もなんだか薄っぺらい感じで、生きてる感じもしなかった。

 でも、今の国王陛下である勇者様と、騎士団長か何かをやってるはずの剣士には、友人になれそうに見えたみたいよ。殴り合ったら仲良くなれそう、とか言っていたわ。

 その時の勇者に合わせた存在になって出て来るんじゃないかって話を聖女様がしてくれたと思う。

 だから、周囲の人間が見ると、そんなに人間くさくはないんじゃないかって。

 ステイト君は、魔王の影の事、何て言ってたの?」


「私が影と会った時は、まだステイトと合流出来てなかったんだ……」


「教会のせいね! まったく、どうしてやろうかしら?」

「……ま、まぁまぁ」

 引き気味の父が宥めているが、怒りで魔力が溢れそうな母が怖い。


 ステイトが聖女だったのは結果論かもしれないが、教会が邪魔しなければ、魔王の影に私一人で会わなくて済んだのも事実だ。


「王妃陛下が何か請け負ってくれたみたいだったよ。……母さんの時も、何かあったの?」

 遂に聞いてしまった。王城では聞けなかった、先代聖女が教会の人間に蹴りを入れていた理由を。


「……王妃様が引き受けたのなら、母さんから何か言う事は無いわ。

 教会の権力は、勇者と聖女の任命あってのものなんだけれども、王子だった先代勇者様はまだしも、教会預かりの孤児だった先代聖女様は、大変だったそうよ。

 内部情報にも詳しいし、彼女に任せておけば、問題無いわ。今度こそ、上の人間が刷新されるんじゃないかしら」


「ソ、ソウデスカ」

 ……キレイニナルナラ、ソレデ、イインジャナイデスカネー。




読んで下さってありがとうございます。

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