使者の正体
「王都に着いたねぇ」
「そうだね」
「ピィ!」
しかし、この孔雀サイズの愛鳥をどうしよう。道中では、宿の主人と交渉してどうにか泊めてもらってきたが、それは各拠点に一箇所しかない宿泊施設だから、という理由が大きい。王都だと「他所をあたってくれ」と言われて最後まで見つからないとか、あり得るんじゃないだろうか。
「勇者アンジー様ですね。
国王陛下より伝言を頂いております。
お連れ様と一緒に来て頂けますか?」
身分証を見せると、都の門番が上役を呼び出し、こんな事を言われた。
「この鳥も一緒で大丈夫ですか?
置いて行くのはちょっと……」
「えっ……と、そうですね。
とりあえず、お連れになって下さい。
連絡しておきますので、状況が変わった場合は、指示に従ってもらえますか?」
「分かりました」
王からの指示という割に丁寧で、好印象だ。教会とは大違いだね。
王城に着いた後、フェニーは預ける事になった。城の大きな暖炉の中で、石炭を食べながら待っていてもらう。世話してくれる事になった人は、本来は馬丁なので、ちょっと腰が引けていたが、頑張って欲しいと思う。
私とステイトは、国王陛下との謁見のために王城に泊まる事になった。
全身を洗われ、着替えをする。
大いに不満というか疑問があるのだが、準備を手伝ってくれる人達に聞くと「間違っていない」との事なので、仕方なく謁見の場に赴く。
別の部屋で着替えをしていたステイトとは途中で合流する。
「……ステイト、その恰好、大丈夫なの?」
「え? うん。高そうで、緊張する」
……気にしてないんだろうか。
「勇者アンジー様、ステイト様、到着しました」
国王陛下の元に来てしまった。
案内された所は、豪華だが普通の部屋で、所謂「謁見の間」みたいな場所ではなかった。
「ああ、楽にしてくれ。多少の形式は必要だが、無礼講と思ってくれて構わない」
若干矛盾する内容だが、細かい礼儀は問わない位の言葉だと思う。助かる様な気が抜けない様な。多少はマシだと思う事にしよう。
「国王陛下、約束ですぞ」
部屋には、国王と王妃の両陛下、城で働いている人達の他に、高位の神官の様な人が居たのだが、偉そうにしゃしゃり出てきた。
「ああ、そうだったな。
アンジー殿の連れの女性が、聖女ではないかという話があるのだ」
……相変わらず、性別逆転状態の私達である。
私は男性の正装、ステイトはドレスを着ている。
着替えを手伝ってくれた人達は、当然、気がついていると思うのだが。
私の困惑をよそに、部屋に用意されていた水晶玉で、ステイトを鑑定する手筈が整っていく。
促されたステイトが手を翳した水晶玉が白く輝く。
「おお! やはり、聖女様でしたか。
では、正式に任命式を行う為、勇者様と聖女様には、聖都にお越しいただきましょう」
《ピンポーン!
怒りを確認しました。
【エモーションストック】に、現在の怒りをストックしますか?
YES or NO?》
▶NO
『エモーションマネジメント』スキルで消費しますか?
YES or NO?》
▶YES
《【怒りの咆哮】を発動します》
「ふざけんなーっ!
そんなんじゃ、魔王城に辿り着けるのに、どれだけかかるか分かんないだろ!?」
国の北西端と南東端を何往復させる気だよ!!」
「アンジー、国王様の前だよ……」
「あっ」
ステイトが窘めてくれたが、手遅れだ。
「構わないわ。
今回、その件もあって教会との橋渡しをしたのよ。
昨今の教会は、勇者の道行の助けになっていない。
そろそろ、介入させてもらいます」
お淑やかに佇んでいた王妃様が進み出てきた。
そう言えば、先代聖女だったという話だ。
「ああ、その通りだ。
しかし、今代の勇者達を巻き込む気は無い。
これは、為政者としての儂らの仕事だ」
国王陛下の有難いお言葉だ。マジ有難い。
教会のお偉いさんは、城の騎士に連行されていった。
その後ろ姿に、一緒に退室していった王妃陛下が、さり気なくヒールで蹴りを入れているのを見てしまった。
前回の魔王討伐の旅で何があったのか、聞いていいのか大変に迷う。
「では、改めて話をしようか、今代勇者アンジー殿」
王妃陛下の所作を見なかった事にした国王陛下は、先代勇者という話だよね。
国王陛下の前回の魔王討伐の話は、割愛する。
だって、それだけで丸々一つの冒険譚だから。
母を怒らせてはいけないと心に誓った、とだけ言っておこう。勿論、旅の他のメンバーに睨まれて平気な訳じゃないけど身近じゃないし、やはり攻撃魔法の使い手はパーティーの最大火力だよね。
「魔王は、神が人の影から作った使徒だ、と言う説があるのだ」
いよいよ魔王の話になると、国王陛下は意外な事を言った。
「神様の使徒、ですかぁ?」
……今まであんまり気にした事なかったけど、ステイトの話し方って、不敬とか大丈夫なのかな。素早く話せないみたいだから、しょうがないんだと思うけど。
「実際は、戦った事のある儂らにも分からん。
打ち破ると、肉体は消え去り、大鏡が残るのだ。
鏡の存在が魔王の復活に関係する可能性は否定できん。
それでも、儂らは、鏡を砕く事はしなかった。
残った鏡を破壊するかどうかは、代々の勇者に委ねられておる。
つまり、今回はアンジー殿に任されておるのよ」
責任重大……。
「……魔王の使者を名乗る存在と話が出来たんですが、戦いを回避する事は出来ないのでしょうか?」
「魔王は自身の影を作り、歴代の勇者を誑かそうとすると言われる。儂の時も、会いにやって来たものだ。
戦い難い気持ちは分かるが、戦わずに済む方法は無い」
……やはり、そうなのか。
読んで下さってありがとうございます。




