怒りの6タイプ
「ピィーーー!」
「フェニー!」
「アンジー!」
「ステイト!」
私を追いかけて来てくれていた2人?とやっと会えた。
正直、グレートウルフ戦などは、文字通り飛んでこれるフェニーだけでも来てくれないかなと思っていたが、実は追いつくのが遅くなったのもフェニーのせいである。
ステイト救出の旅路の途中で鶏のサイズになっていたフェニーだが、その後も順調に大きくなっており、現在、孔雀状態である。鳴き声が変わっていないのが不思議なほど大きくなってしまった。
尾羽の派手さ加減といい、色味がオレンジと赤である以外は、ほぼ孔雀のオス。
それで空を飛んでいると、冒険者からは漏れなく狙われてしまう。脅威度も高そうだし、高額で取引されそうに見えるので、仕方ない。あんな羽で飛べる理由は、風魔法も使っているからだと思っている。
現在、フェニーがトラブルに巻き込まれずに飛んでいられるのは、私達のエイド村の近くや、人里から遠く離れた所だけである。
そんな訳で、フェニーこそステイトに連れて来てもらわなくては、ここまで来れなかったのだ。
「アンジー、大丈夫だったぁ? 心配したよぉ」
「ピィ? ピィー」
「うん、ありがとう、2人とも。大丈夫だよ」
フェニーの言ってる事は、実は分からないんだけどね。
「アンジー? 何かあったんじゃないのぉ?」
「ピィ!? ピィ?」
「う、うーん、何かあったというか……」
魔王の使者を名乗る者との会話が気になっているのだが、なんと言ったらいいやら。
「悩み事があるんだねぇ? 聞くよぉ」
「ピィッ、ピィー」
「そうだね。落ち着いた所で聞いてくれる?」
魔王の使者の話を一部始終、ステイト達に聞いてもらった。
「ふぅん。世界の半分、ねぇ。でも、全然、誘惑されなかったんでしょぉ? じゃあ、何を悩んでるのぉ?」
「ピィッ」
「……実は、自分でもよく分からないんだ」
世界の半分なんか欲しくも何ともない。
そもそも魔王が支配する世界に興味もない。
教会の人間に失望しているのは本当だが、エイド村には教会が無いし、村から出る用事はほとんどないので、特に気にならない。
魔王側の提示には何のメリットも無いのだ。
だから、あの後、元紫肌の使者の話を聞いたが、心を動かされる事など何一つ無かった。
でも、何かがモヤモヤする。
「じゃあ、気持ちを落ち着けるために、前世のお話するぅ? いつものぉ」
「いつものって言うと、アンガーマネジメントの事?」
生まれ変わっても怒りっぽかった私は、落ち着くためにステイトにアンガーマネジメントの話を聞いてもらっていた事があった。
「そぉ。確か、6つのタイプがあるって言ってたよねぇ?」
アンガーマネジメントでは、怒りをタイプ分けしている。
そうして、自分がどの様な事で怒りやすいのかを自覚して対処したり、他者の怒りを分類して対応しやすくしたりするのだ。
私は、自身を「威風堂々タイプ」だと思っている。
自分で言うのはなんだが、自尊心が高く、リーダー的資質を備えているタイプだ。
思う通りに物事が進まなかった時に、ストレスを感じやすい。
他人も自分と同様の権利を持っている事を再認識したり、事態が上手くいかなくても「自分自身を否定された」とは思わない様に心がけるのが効果的だ。
アンガーマネジメントでは、怒りをネガティブなものだと捉えていないので、怒りのタイプも長所と短所の両方がある。
ステイトは「用心頑固タイプ」だと思う。
真面目で慎重なところが、長所である。
一方で、行動に移るのが遅かったり、吟味する時間が足りないと不機嫌になったりする。
タイムリミットを上手く伝えつつ、考えるゆとりをあげるのが一番だと思う。
「他のタイプは誰か居るのぉ?」
「そうだね……」
炭鉱の町で出会ったフローラさんは、典型的な「天真爛漫タイプ」だ。
思い立ったら直ぐやらないと気が済まない、という人。
アンガーマネジメント有名どころの、6秒ルールが有用だ。
同じく炭鉱の町で会ったアレックスさんは、「公明正大タイプ」じゃないかな。
良くも悪くも正義感が強い。
本人側から出来る努力は、他人の価値観を受け入れる事。
周囲から働きかけるなら、事実だけを抜き出して話をすると良い。思い込みの指摘は、逆効果だ。
「後はどお?」
ステイトを攫った司祭は、恐らく「外柔内剛タイプ」だと思う。
例えが悪すぎるので、もう一人挙げると、私達を助けてくれた娼館の主も、このタイプだ。
一見すると柔和だが、意志が強い。
自分ルールへの強いこだわりがあり、それが叶わなかった時に感じる不安が怒りになる。
元司祭は、生まれつき持っていた権力との相性も悪かったかもしれない。尤も、自分でどうにかするべき事なので、処刑された事を可哀想だとは思わない。
対して娼館の主は、長所を活かして、従業員達を守っていたと思う。
「そっかぁ。自分の事を分かって、それに合わせて行動していくのって、大事なんだねぇ。
最後の一つはなぁに?」
「残ってるのは『博学多才タイプ』だよ。
完璧主義的で、チャレンジ精神が旺盛。
白黒つけたがる、というか、両極端な考えをする。
話をする時は、いきなり反対意見を叩きつけちゃうと、ずっと敵認識されちゃうから、気を付けないと……。
っあ!」
「どおしたのぉ?」
「何に悩んでたのか、分かった。
あの、魔王からの使者、『博学多才タイプ』だったんだ。
……敵認識されちゃう返事しちゃった」
「敵なんだし、構わないんじゃないのぉ?」
「それはそうなんだけど、あんなに話が出来る相手と、殺し合いって出来るかな……」
ぶっちゃけ、教会の人間よりも話が通じる相手認識してしまったぞ。
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