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魔王の使者


「今代の勇者様ですね。少し、話をしませんか?」


 街道沿いの村を出てしばらくして、茂みから現れた者に話しかけられた。


 グレートウルフ戦から数日、街道を通り夕方には各拠点で過ごすようにしている。時間はかかるが仕方ない。無理に村から連れ出しておいて、一人っきりの旅路を強いた教会のせいだ。


「な、なんだ!? 何者!?」

 剣を抜いたが、自分でも驚くほどに動揺してしまう。


《ピンポーン!

 強い感情を確認しました。

【エモーションストック】に、現在の感情をストックしますか?

 YES or NO?》


 ▶YES


「そんなに警戒しないで下さいよ。ご覧の通り、只の人間じゃありませんか」


「ふざけんな! 人間名乗るなら、角はまだしも、肌の色はもっと寄せて来い!」


 形は人間の男性で流暢に言葉を話すが、頭にヤギの様な角を生やし、綺麗な紫色の肌をしている。よくそれで堂々と人類を騙ろうと思ったな。


「おや? 角よりも肌の方が抵抗がありましたか? これは失敬。出直してまいります」

 そう言って謎の男は、かき消される様にいなくなった。


「ちょっ、消え方ァ!」



 驚きつつも街道を進み、無事に次の拠点である街に着いた。

 冒険者ギルドに行く。


「『街道出現モンスターの討伐』依頼達成の確認をお願いします。

 それと、少し調べ物をしたいのですが」


「かしこまりました。少々お待ち下さい。……こちらが報酬です。ご確認下さい。

 資料室はあちらになります。何か困り事がお有りでしたら、担当の者が常駐しておりますのでお聞き下さい」


「ありがとうございます」


 冒険者ギルドでは、依頼に関係する薬草やモンスターについて調べ物が出来る様になっている。小さな拠点では本が数冊あるだけだったりするが、ここの様に大きい拠点では専用の部屋があったり担当職員が居たりする。

 因みに、魔物とモンスターは、ほぼ同じ意味だ。人類への脅威度や害が大きい場合に、モンスターと呼ばれることが多い。


「すみません。ちょっとお聞きしたいのですが」

 手っ取り早く職員に聞く事にした。


「人間の様な魔物、ですか。姿形だけでなく、会話が成立するのですよね?

 生憎と聞いた事がありませんね」


 ハーピーとかマンティコアとかラミア、アルラウネ、ワーウルフなど、部分的に人間ぽいモンスターは結構存在する。しかし、意味のある歌に聞こえるとか、謎解きを挑まれる、満月の夜以外は人間であるなどは迷信で、話し合いが出来る相手では無いという。


「……そうですか」

 魔物以外の可能性も含めて、紫肌の男の事を聞いたのだが、分からなかった。


「……ほぼ噂の様なものですが、魔王は人型で話が出来ると聞いた事があります。

 資料もあるらしいのですが、ここを始めとした各地の冒険者ギルド支部にはありません。

 聖都の教会と王都のギルド本部で保管していると聞いています」


「聖都の教会にはあるんですか?」

 拉致られた時には聞いていない情報だ。


《ピンポーン!

 怒りを確認しました。

【エモーションストック】に、現在の感情をストックしますか?

 YES or NO?》


 ▶YES


「管轄外ですので、恐らく、としか。こちらで言えるのは、王都のギルド本部にあるはず、という事までですね。

 後は、前回の魔王討伐の英雄の方々に話を聞く事、ですが……。

 先代の勇者様と聖女様は、今の国王ご夫妻ですからねえ。魔王討伐に同行されていた他の方々は……、剣聖である騎士団長様も王都にいらっしゃいますし、大魔導士様がいらっしゃるのは魔王城近くの辺境の村ですから……。やはり王都の冒険者ギルド本部を訪ねて頂くのが一番でしょうね」


「すいません! その、最後の大魔導士様の情報、もっと詳しく」


「え? えっと、先代の魔王討伐に同行していた大魔導士様は女性で、旅の終わりに一行の剣聖に求婚されるも断り、魔王城に最も近い村の村長の家に嫁入りしたという噂ですよ」


 資料室の担当職員さんは、代々の魔王討伐話のオタクであるらしく、噂と言いつつ楽しそうに色々な話をしてくれている。


 という訳で確信してしまったのだが、その大魔導士様とやら、私の母ですよね。


 道理で、あんな危険度の高い場所の村の防衛を一手に引き受けて平気でいられるわけだ。勿論、交代だったが、村人5人グループで回す担当を、母の順番だけ1人で行っていた。

『大魔導士』は『魔法使い』の最終進化先だが、あの村ではジョブが進化していても、初期名で名乗る習慣があった。母もそうしていて、多分『魔法使い』よりは上なんだろうとは思っていたが、『大魔導士』だったとは。

 そう言えば、魔王の話も時々していた。子供の私は、躾のための半架空の話だと思って聞き流してしまっていた。


 つまり、村に戻れば、私は母から前回の魔王討伐の詳しい話を聞く事が出来る。 

 代々の勇者はともかく、私に関しては、ほんっとーに聖都に行った甲斐が無い。

 

 職員さんにお礼を言ってギルドを後にした翌日も、げんなりした気分で旅を再開する。



「今代の勇者様、少し、話をしましょう」


「あ、魔王(仮)」


《ピンポーン!

 強い感情を確認しました。

【エモーションストック】に、現在の感情をストックしますか?

 YES or NO?》


 ▶YES


 スキルのおかげで、ちょっと驚き損ねた様な感じもある。

 魔王(仮)は、顔立ちが前回と一緒なので分かったが、今回は普通の人に見える状態である。前世の同僚に似ている。

 前回は何故その状態で来なかったんだ。


「魔王様からの使者ですよ。

 世界の半分をあげるので、こちら側に寝返りませんか?」

 話が出来るタイプの魔王とかだと、一応テンプレのセリフなのかな。


「断る。世界の統治に興味は無い。

 使者って事は、魔王の他に対話が可能な存在がまだ居るのか?」


「思ったよりも友好的な勇者様で喜ばしいですね。

 そんな勇者様は、教会に失望しているんじゃありませんか?」




読んで下さってありがとうございます。

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