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私と幼馴染


 時を遡る事、3日。


「リードさん、弟をよろしくお願いします。

『ジョブ神託』に連れていってもらって助かります」

 幼馴染の姉のトゥーラが、父に声をかけている。


「なんだ、トゥーラ、改まって。

 これも村長の仕事、納税のついでさ。

 今年は、アンジーもだからな。

 むしろ、ステイトにはうちのじゃじゃ馬娘の相手をしてもらって、申し訳ない位だ」

 村長をやってる今世の父が答える。


「ちょっと、父さん。

 じゃじゃ馬呼ばわりは酷いよ」


 物心ついた時から前世の知識だけはあったので、幼馴染のステイトを巻き込んで色々やっていたが、そんなに暴れまわったりはしてないはずだ。



 私が生まれ変わった先は、びっくりするほど辺鄙な村だった。

 一番近い集落である街まで、馬車で3日。国の真ん中にある王都には何か月かかるか分からない。

 行商人すら来ない。

 主食の芋を中心にした農業に狩猟、加えて近くで岩塩が採れるから自給自足出来ている。

 それでも、トゥーラの様な魔道具士が居なかったら、暮らしていけないと思う。


 村民は30人位しかいない。

 いつ滅んでもおかしくない限界集落だが、私の母の様にたまに外から嫁いで来てくれる人を積極的に受け入れてどうにかやっている。

 私に近い年頃の相手は、トゥーラの年の離れた弟ステイトしか居なかった。


 この幼馴染が嫌な奴だったら、地獄だっただろう。

 でも、小柄で可愛らしい顔立ちのステイトの性格は至って穏やかで、私の言う事を頭から否定する事など一切なかった。

 明るい茶色が多い中で、ステイトの黒い髪と目は、懐かしかった。



 私達が6歳、村近くなら外に遊びに行ってもいいと言われた頃。


「ステイトー! 見て見て! これ! ヘチマだと思うんだ」

「ヘチマ?」

「そう。 見てて! この辺を切って……」

「わぁ! お水が出てきたねぇ」

「これをお肌にぬると、スベスベになるよ」

「そうなのぉ? アンジーは、いろいろ知っててスゴイねぇ」


 この時見つけたヘチマ水は、父が納税の際に持って行ったことで、村の特産品になった。

 村は辺鄙な所にあるせいか、税も元々そんなにきつくなかったが、農作物や労役などの納税が、ヘチマ水に切り替えられたので、父達からは褒められた。

 ヘチマ水を保存するための容器を多量に作る羽目になったトゥーラには、ちょっと渋い顔をされたが、素材集めを手伝って許してもらった。



 成功に気を良くした私は、その後もスゴイスゴイと言ってくれるステイトを驚かせたくて、知恵を絞った。

 手作りの紅茶、ポプリ、シュシュ、ミサンガ、オセロ、マヨネーズ、フライドポテト、唐揚げ……etc.


 しかし、成功ばかりではなかった。



 私達が7歳、初めて川に行ってもいいと言われた頃。


「ステイトー、今日は魚とりしようよ。

 篭で罠を作ったんだ。

 川で追い込み漁をしよう!」

「いいよぉ。アンジーは、何でも知っててスゴイねぇ」


 二人とも川に入ったのに、

「やぁあ、何これぇ」

「誰か助けてー! ステイトが魚に噛まれたー!」

 何故かステイトだけが、魚に襲われた。


 ステイトは軽傷だったし、村の治癒士にすぐ奇麗に治してもらったが、あの時は本当に悪かったと思う。

 まさか、村の近くの小川にピラニアみたいな魚がいると思わなかったんだ。



 私達が8歳、森に行ってもいいと言われた頃。


「ステイト、見て見て! 

 これ、スリングショットっていうんだ。

 これをこうやって……」

「わぁ、スゴイ」

「今日は森に遊びに行こうよ」


「アンジー、小さい鳥さんが怖い鳥に襲われてるよぉ。助けてあげてぇ」

「よし! このスリングショットで! エイ!」


「わぁ、アンジーは本当にスゴイねぇ」

「えへへ。上手く追い払えて良かった。

 弱ってるし、まだ雛みたいなのに近くに親が見当たらないから、家に連れて帰ろう。

 ……ちょっと変わった鳥だね」


 この時拾った鳥の雛は、オレンジ色だが前世の尾長に似た形をしていて、鳥なのに火魔法が使える異世界感溢れる鳥だった。

 フェニーと名付けて、今でも私の大事なペットとして家の暖炉で飼っている。



 思い出した前世の事は大体話していたが、ステイトは、一度も私を変な奴だとか言わなかった。



 14歳頃、前世の事を、知識だけでなく、一人の人生として思い出した。


 行動力はあったが、やけに怒りっぽい人間だった。

 そのせいで、人間関係が上手くいかない事が多かった。


 アンガーマネジメントの研修を会社で受ける事になり、実践出来る様になってから、人生が変わったと思った。

 会社の人間関係がスムーズになった。友人が増えた。恋人と長く付き合えるようになった。

 出世を打診された。恋人と結婚する事になった。

 人生薔薇色だと思った。


 そんな時、駅のホームで転んでしまった女の人が居た。

 彼女が手放してしまったベビーカーは、線路に向かって加速していった。

 通過予定だった電車は、警笛を鳴らす以上の事が出来なかった。


 思わず駆け出していた。

 自分の体は反動で落ちたが、ベビーカーと乗っていた赤ちゃんは助けられたと思う。



「ねぇ、本当はステイトも転生者なんじゃないの?

 私が言う事、何でも受け入れてくれるよね」

「えぇ? 違うよぅ。アンジーだからだよぅ」

「そう?」

「そうだよぉ」

「そっか」


 ステイトは、結婚の約束をした前世の恋人に似ている。



「リードさん、準備出来ましたぁ。

 アンジー、街までよろしくねぇ」

 ステイトがおっとりとやって来た。

 空がようやく白くなりつつある早朝、出かけるのにいい時間だ。


「じゃあ、そろそろ、出発しよう。

 アンジー、ステイト、乗ってくれ」

 ステイトの荷物を載せるのを手伝い終わった頃、父に声をかけられる。


 これから3日かけて街に向かう。

 父と私は母に、ステイトも彼の両親と姉に再度挨拶して、馬車に乗り込んだ。



読んで下さってありがとうございます。


「○○に行っていい」の部分は、

周囲の大人が主人公に言った内容:「大人の付き添いがあれば行ってもいい」

子供の頃の主人公の解釈「子供達だけで行ってもいい」

の様な感じで誤解が発生しています。

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