プロローグ
世界は、穏やかさを失っていた。
空は何処まで行っても不気味な紫の雲に覆われ、地には至る所に魔物が溢れている。
国の北西端には、見る者に恐怖を与える様な城が顕現している。
魔王が復活したのだった。
今、私の目の前には、巨大な水晶玉が鎮座している。
「さ、手を翳して下され」
老いた神官に促され、水晶に手を伸ばした。
辺りを白い光が煌々と照らし出す。
「おお……」
「やはり!」
「神託は正しかった」
広間が騒めき、教皇が手を上げた事で、再び静寂に戻る。
「汝、アンジーを勇者と認定し、魔王討伐の任を与える」
時を遡る事、半年。
教会のエロ司祭に攫われた幼馴染を無事に連れ戻し、母の謎のコネで全ての問題を解決した後、私とステイトは結婚の準備をしていた。
本来なら、もっとゆっくりと進める準備だが、魔王が復活し、周囲の魔物が活性化してきていたため、急いでいた。
なにせ、私達の村は辺境中の辺境。近くをうろつく魔物も、他の地域と違って一段階上位種だ。トラブルが増え慌ただしくなってくる事が予想されているなら、多少急いでも平和なうちに済ませた方がいい。
いよいよ明日が結婚式、という日。
教会から使者がやって来た。
魔王を倒す勇者の神託が下ったと言うのだ。
「せめて1日待って欲しい」「結婚式を済ませたい」
要望は聞き入れられなかった。
そうして、国の南東端にある聖都の、この教会で、私は勇者の任命を受けた。
「これからは、どうするのですか?」
教皇から言葉を貰う任命式では、「拝命します」としか答えられない事になっていたため、控室に戻ってから疑問を口にする。
「魔王討伐に向けて旅立ってもらいます」
教皇ではないが、教会の実務を担う、そこそこのお偉いさんが答える。
「それは分かっています。
態々ここまで来させられた意味をお聞きしたいのですが」
「神託に従って勇者を任命するためですよ」
「……何か、ここまで来なくては得られない準備などは無いのですか?」
「支度金はこちらです」
お偉いさんの横に控えていた人から渡された袋には、銅の剣も買えない様な金額しか入っていない。
「勇者専用の装備品があったり、教会から派遣される同行者が居たりはしないのですか?」
「それは、代々の勇者様ご本人が何とかする事ですなあ」
《ピンポーン!
強い怒りを確認しました。
【エモーションストック】に、現在の怒りをストックしますか?
YES or NO?》
▶NO
『エモーションマネジメント』スキルで消費しますか?
YES or NO?》
▶YES
《【怒りの咆哮】を発動します》
「ふざけんなーっ!
私は、魔王城から馬車で3日の村に住んでんだぞ!
なのに、なんで、3ヶ月近くかかる場所に呼び出されてまで、魔王討伐の任命を受けなきゃいけないんだ!
私を呼び出しに来た使者がそのまま任命すればいいだろー!」
今代勇者アンジー、魔王討伐の旅程の97%は、ただの帰郷です。
読んで下さってありがとうございます。
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感想返信は、ネタバレ防止のために完結までしないつもりです。




