『ステータスオペレーター』
ドリアード討伐後、まだ昼間なので移動する。
基本の移動はやはり街道なので、村の方向に向かいつつ、街道を目指す。
私達がなんとなく移動している間に、フェニーが高く飛んで方向を教えてくれるので、それに従う。
「アンジー、あのねぇ。
僕、さっき、スキル増えたよぉ」
「やったじゃん。どんなの?」
ステイトのジョブは『ステータスオペレーター』、ジョブスキルは『ステータス操作』だ。
さっきまで習得していたのは、【ステータス鑑定】【HP操作】【MP操作】だけだったそうだが、司祭が攫って行こうとしたのも頷ける様な性能だ。
【ステータス鑑定】:
対象のステータス値を知る事が出来る。
対象範囲は、スキル保持者のレベルによって変化する。
今のステイトでは、本人とパーティーメンバーである私のステータスまでしか分からない。
逆に言えば、レベルが上がれば何の消費も無く、敵であってもステータスが分かってしまうチート技である。
レベルは、ジョブに関係なく、本人がモンスターを斃した経験による。
スキルの効果は、特に説明が無くても、レベルに依存するものがある。
私の【怒涛の攻撃】も、レベルが上がれば、攻撃回数が増えるだろう。
尚、冒険者カード表面の名前をタップすると、レベルやHP・MP、その他のステータス値が分かる。
裏面のスキル説明と同様に、本人か冒険者ギルドの設備でしか開示されない情報だ。
【HP操作】:
自身の任意消費MPの10倍分、対象のHP値を操作できる。
対象範囲は、スキル保持者のレベルによって変化する。
スキル説明だけでは、少々分かりにくいスキルかもしれない。
最も単純な使い方は、さっきやってくれたみたいに、自身を含む仲間のHP回復。
例えば、ステイトのMP13を使って、私のHPを130回復させる。
使うMPの量は好きに決められるので、普通のスキルならあまり無い、13の様な中途半端な数字も指定できる。
今のステイトのレベルで出来るのはここまでだが、レベルが上がると攻撃にも使える。
つまり、ステイトのMP13を使って、敵のHPを130減少させる様な事も可能だ。
ただし、HPの最大値は変えられない。
【MP操作】も予想出来るかと思うが、一応、以下の様になっている。
【MP操作】:
自身の任意消費MP分、対象のMP値を操作できる。
対象範囲は、スキル保持者のレベルによって変化する。
これもMPの最大値は変えられない。
【HP操作】との違いは、MP→HPが10倍だったのに対して、MP→MPだと1対1な事だ。
従って、本人に使っても回復にはならない。
私のスキルも【アンガーストック】の怒りを使うので、今は使いどころが無い。
でも、レベルが上がれば、相手のMPを奪う事が出来るだろう。
ステイトが司祭達に聞いた話では、【HP操作】【MP操作】に限らず、『ステータス操作』は基本的にMP消費型スキルだ。
この点については、一般的なスキルと同じだ。
『アンガーマネジメント』がそれだけ特殊とも言える。
「今日は町に泊まれるね」
王都の隣町を出てから、野営で2泊して、王都から5つ目の拠点に来ている。
依頼を1つこなしたのに、拠点泊の街道ルートと同程度の進み具合で、良い感じだ。
王都近辺の街道が、近隣の拠点を通るために、曲がりくねっているからこそなので、今後も同じペーストとはいかないだろうが。
「ピィ」
フェニーは懐に入れるのを諦めて、肩に乗せた。
ステイトも嫌そうだったし。
逆にステイトの懐に入れてみたけど、どっちも嫌そうだったので、止めた。
「……う、うん」
ステイトは、浮かない顔だ。審査が心配なのかもしれない。
「そんなに心配しなくても、大丈夫だよ」
ステイトが酷く緊張していたが、門番の審査はあっさり通った。
門番がステイトを見て鼻息が荒くなっていた方が、気掛かりだった位だ。
冒険者カードを改めて見たが、表面の情報って、名前と冒険者ランクとジョブだけだから、性別表示が無いんだよね。思ったよりも個人情報保護が手厚くて驚いた。
因みに、本人以外がギルドカードを持つと色が変わるので、他人のカードで身分を偽る事は出来ない。ファンタジーアイテム凄い。
「先ず、冒険者ギルドに行こう。
ドリアードの報告をして、次の依頼を貰わなきゃ」
この辺りは大したモンスターが出ないから、補給出来れば、最悪野営でも構わない。
1人の時は、出来るだけ野営は避けたけど、2人なら交代で休むことも可能だ。
「すみません。
依頼達成の報告をお願いします。
それと、この依頼をお願いします」
時間は混む前だったが、3人程並んでいたギルドの受付の順がやっと回って来た。
前世の銀行などと違って、個々の内容を全て終了してから次に移るので、1人1人の時間が長いのだ。
逆に言えば、受付まで行けば、自分達の手続きも基本的に最後まで行ってもらえる。
「はい。
あら、これは、調査依頼だったのが、討伐まで成功したのですね。
少々お待ちください。
討伐証明部位は、買取にしますか?」
「はい、お願いします。
ステイトも、いいよね?」
「うん」
「買取でお願いします」
少し、村の魔道具士へお土産にしようかと迷ったが、村の近くのドリアードの素材の方が圧倒的に良いので、気にしないで旅の資金にする事にした。
「では、少々お待ちください。
……お待たせしました。
こちらが、達成報酬100Gと討伐報酬2000G、それに買取代金の500Gです。
合計2600G、小金貨で26枚です。ご確認ください」
この世界は金貨や銀貨が流通の基本である。
小金貨1枚の100Gで、王都のビジネスホテルみたいな所に1人1泊出来る。
100Gがおよそ前世の1万円位だと思っている。1Gは小銀貨1枚で前世の100円位の感じ。
小銀貨10枚で大銀貨1枚に、大銀貨10枚で小金貨1枚になる。
つまり、ドリアードの調査依頼報酬の100Gだけだと、1人分の必要経費も厳しい位だ。
近隣在住の低レベル冒険者が受けるものだろう。
4人位でパーティーを組んで本格的に冒険者をするなら、討伐までこなさないと、生活出来ない。
さらに、装備の買い替えやメンテナンスにかかる金額もそれなりなので、ちゃんとお金の事を考えられる人間がいないパーティーは続かないと言われる。
私達は2人だし、トゥーラの装備や道具のおかげで経費も少なくて済む。
それでも、路銀位は稼ぎながら帰らないと、ちょっと厳しい。
「ご希望の依頼は、少々難易度が高いですが、大丈夫ですか?
達成出来なかった場合、ペナルティが生じますよ」
報酬などの金額を確認して、OKを出すと、次の依頼の話になる。
「大丈夫です」
ここら辺の冒険者には不人気だったのか、残っていた依頼を引き受ける事にしたのだ。
一応、『半人前』から受けられた。
『半人前』でも受けられる割には、危険度が高いから残っていたのかもしれない。
冒険者ランクは、王都までの道中では結局上げられなかった。
碌なモンスターが出なかったせいだ。
炭鉱の町を出た後のゴーレムの報酬をもらった時は、必要な実績の半分くらいまで達成していると言われていたのに、残念だ。
「アンジーさんは、先程のドリアードの討伐実績で、ランク『一人前』まであと少しですね。
……受け付け完了しました。
ステイトさんは無理をしない様に注意して下さい。
出発は明日でしょうけど、気を付けていってらっしゃいませ」
読んで下さってありがとうございます。
字数の関係で、説明×説明になっててすみません。




