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王都の風俗

明けましておめでとうございます。


本文中の「(以下略)」は伝達機器(作者)の都合によります。


 王都までの旅は楽勝だった。

 金銭的に消費の方が大きくなってしまっている事と、愛鳥(フェニー)のダイエットに失敗した位しか問題は無い。


「次、身分証を。

 ……よし! あそこで、入場料を納めてくれ。

 男でも、あんた位清潔にしてくれれば、こっちも楽で済むんだがな」


 ……身分証を見せてるのに、男と間違われるってなんなんだろう。

 名前も普通に女の名だと思うんだけど。

 まぁ、気にしない様にしてる。


 これまでの拠点の入りは、身分証の提示と入場料だけで済んでいたが、王都への入りは、流石にちょっと審査みたいなものがあった。

 警備的な警戒の他に、防疫的な意味もあるらしく、不衛生と判断されると丸洗いされている。

 引っかからなくて良かった。


 いつもなら、先ず冒険者ギルドに行って、次に宿を取るのだが、今日は娼館に行く。

 ……利用目的ではない。

 司祭達の情報収集のためだ。


 王都の北西側には、河がある。

 直線的なルートだと渡し舟があるが、当然、馬車は渡れない。

 大きな橋まで迂回すると、河の手前に小さな町がある。


 ラストタウンを出発した時点での、私と司祭達の差は、2日分だった。

 炭鉱の町を出て直ぐは、またゴーレムに遭ったりしたが、その後は大したモンスターも出なかった。

 そこで、拠点間の距離があまり離れていない所を狙って、野営で強行するようにして、1日分を詰めた。


 司祭達が迂回路の町に1泊していれば、王都への到着は、渡し舟でやって来た私と同じか、私の方が早い位だ。

 既に司祭が王都に着いているのか、まだなのか、確実な情報が欲しい。

 

 司祭が真面目に聖職者していれば、待ち伏せ場所は教会一択だが、あの司祭の場合、娼館で張ってた方が確実な気がする。

 因みに、門番達にも聞いている。

 守秘義務があって教えられない、という返事だが、感触としてはまだ来てなさそうだった。


「……この辺り、かな」

 門番に教えてもらった、娼館が並ぶ通りに来ている。

 場所を聞くのに、理由など一切聞かれずに済んだが、何かが解せない。


「おや。お兄さん、いい男だねぇ。

 でも、時間が早いな」

 近くの窓が開いて、色っぽいお姉さんに声をかけられる。


「娼館ギルドの人に用があって来たんですけど、どうすればいいですか?」

 ちょうど良かったんで聞いてみる。


「うわ、あんた本当に格好いいね。

 待ってな。

 世話役に声かけてみるよ」

 顔を確認した後で、改めて男だと間違われ(以下略)


「何だ、話って。

 ……働きたいのか?」

 お姉さんの館の主を名乗る男性が、億劫そうに出て来た。


「違います。

 太った旅の司祭が、王都に来ているかどうか知りたいんです。

 こっちに、紹介状もあります」

 ラストタウンの次の町で娼婦さんの相談に乗った時、娼館の主が「何かあったら」と言って紹介状を渡してくれたのだ。


「ああ、街道の町々でやらかしながら王都に向かってるって噂のか。

 まだ来てないぞ。

 まぁ、今日辺りだろうとは思ってるがな。

 何か、あんのか?」

 主は話しながら、受け取った紹介状をざっと見ただけで、私に戻した。


「実は、その司祭に幼馴染を連れ去られてまして」


「ああ、それも聞いたな。

 随分と上玉らしいのに、何でソイツに相手させないのかってな」


「幼馴染は、男ですから」


「なるほど。

 ……いや、そうなると、何で司祭はソイツ連れ歩いてんだ?」


「幼馴染のジョブが理由です。

 SSレアリティで、神託の直後に連れ去れました」


「そういう事か。

 だったら、悪いが力にはなれねぇな。

 司祭は、教会の仕事してるって事だろ」


「何を仰るんですか?

 正しくお仕事をなさっていれば、教会に行かれるはずですよ。

 私も教会から、幼馴染を攫おうなんてしません」


「……分かった。

 日が暮れる頃、客として来な」


 明らかな厄介事なのに、思ったより協力的だ。

 しかし、もう一つ言っておく事がある。


「私、女なんですけど、大丈夫ですか」


「……黙っとけ。誰にもバレねぇよ」

 たっぷり全身を眺めまわされた挙句のセリフだよ。一体、私の何処がそんなに(以下略)


 

 日が暮れるまでの時間で、冒険者ギルドに行く事にした。

 王都の冒険者ギルドは、城下の日用品を主に取り扱う商店の通りと、職人が店を構える辺りの間位にあった。

 今世では、街でも2階建て以上の建物は珍しかったのだが、王都ともなると5階建て位でも見られる。

 冒険者ギルドは4階建てだ。


「流石、王都は冒険者ギルドも大きな建物に入ってるなぁ」

 思わず田舎者丸出しの声が出てしまった。

 尤も、私が今世で田舎者なのは事実だ。


「あ、あんた、もしかして北西の地方から来たのか?」

 近くに居た革鎧の推定冒険者から、反応が返ってきた。

 

「そうですけど、何で分かりました?」

 田舎者のオーラが出てる、とかだったら嫌だな。


「装備が、スゲー良いヤツじゃん。

 ラストタウンまで行かないと手に入んないグレードだろ?

 やっぱ格好いいよなー。

 でも、安全な王都で働くための装備を、国で一番危険な地域まで行って買うって、本末転倒だからなー」


 ……思ったのと違う方向性の事を言われた。

 でもRPGだったら、私の居た村って、魔王城(ラスダン)前の最終拠点(セーブ不可能)だから、そこで手に入る装備が、購入可能な最高装備なのは当たり前か。

 これまで、冒険者ギルドで遠巻きにされる事はあっても、絡まれる事が無かったのって、装備のせいだったのかも。


 ちょっと目がキラキラしちゃった王都在住冒険者のお兄さんの話を、躱し気味に終了して、冒険者のギルドで、ほぼ報告だけの「街道出現モンスターの討伐」を終了してきた。

 今回は受けるのを止めるつもりだったのに、つい癖で受けてしまったのだ。ペナルティも無いから、最悪無視でもいいやと思って来たけど、可能なら達成にしておきたかったので、良かった。


 ついでに、登録用紙をもらって来た。

 ステイト用だ。

 逃走のために出来れば身分証が欲しい。

 登録は本人じゃないとダメだけど、事務手続きの時間は短縮したい。


 装備品に限らず冒険者用アイテムマニアっぽかったお兄さんの話のおかげで、ギルドで特に買い物の必要も無いと分かったので、逃亡にあると良さそうな物を見繕いに行こうと思う。



「いらっしゃいませ! あら?

 こちらは、女性用衣類専門ですよ?

 贈り物用ですか?」

 

「……はい。

 許婚への贈り物に良さそうな品は、ありますか?」

 もう、そういう事にした。間違ってもないし。


 この世界、女性が男性っぽい衣装を身に纏う事は少なくない。

 旅の途中のトラブル回避は勿論、日常でもパンツスタイルの方が動きやすかったりするからだ。

 ステイトが、各所で女と間違われているのも、このせいだ。

 だから、私が女で男っぽい防具を着ていてもおかしくないのだ。ないったらない。


 一方、男性が女性的な衣装を身に着ける事は、無い。

 セクシャルマイノリティへの理解が、ほとんど進んでいないのだ。

 女性用衣類の方が不便という認識をされている以上、男性が女性用衣類を着るメリットが無いと思われている。

 だから、女性の格好をしている人間は絶対女性である、という認識がこの世界のものだ。


 つまり、ステイトが男だと分かっている司祭達には、女装している=女なので、ステイトを奪還して女装させておいたら、誤魔化せるはずなのだ。


「まぁ! 許婚への贈り物ですか?

 こちらなど、どうですか?

 王都でも流行り始めたばかりですけど、若い娘さんには、とっても人気なんですよ」


「……いいですね! それにします」

 時間も無いので、直ぐに良い物が見つかって良かった。

 他に必要な物も買って、娼館に戻ろう。



読んで下さってありがとうございます。


本年もよろしくお願いいたします。

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