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5月第1週(1)

@ダンジョン島、森林地区表層


今日は朝から天気がいい。

木々の間から漏れる木漏れ日は暖かだ。

小鳥の囀り声も聞こえる。

ピクニック日和と言ってもいい。

実際、同業のシーカー連中の中には遊びに行くやつもいるだろう。

ただ自分にとってはそんな娯楽よりやるべきことがあって。

いや――

今からやろうとしていることこそ、最高の娯楽なのだ。


ボク――新井颯は一度、目をつむる。

高鳴る鼓動を落ち着けるため、マイナスイオン溢れる空気を吸い込む。

細く長く、吐き出す。

目を開き、最終チェックをする。

【革鎧】オッケー、【革靴】オッケー、【鉄の剣】オッケー。

体をその場で動かしてみる。

跳んだり、屈伸したり、ひねったり。

うん、調子はいいな。いい「タイム」が出そうな気がする。


ボクは「それ」へ一歩近づいた。

自然の中にあって違和感ありまくりの人工物。

白く透き通った多面体のクリスタル。

身長が170センチのボクと同程度の大きさなのに、どういう原理か物理法則を無視して空中に浮かんでいる。

【ダンジョンクリスタル】――異界であるダンジョンに突入するためのゲートポイントだ。

そしてボクの左手首には腕輪がはまっている。

ボクがシーカーであるという証の【シーカーリング】である。


ボクは【シーカーリング】と【ダンジョンクリスタル】を触れ合わせた。

直後、目の前にウィンドウがポップする。


+++


若木ダンジョン(初級)


参加メンバー(名前/ジョブ)

・アライ ハヤテ / 剣士


ダンジョンにワープしますか?

Yes / No


+++


ボクはすぐさま「Yes」を押そうとして――

危ない、忘れるところだった。

「【リンカー】、配信をスタートして」と声に出す。

【リンカー】というのは【シーカーリング】に内蔵されたサポートAIだ。音声認識の精度もすこぶるいい。

「イエス。配信をスタートします。配信設定は「設定1」です」と【リンカー】の返答。

これでボクのダンジョン内の様子が映像として【Dネット】の配信チャンネルにアップロードされる。


ボクは別に配信には興味がない。

シーカーの中には登録者数や再生回数を競う者もいる。

「投げ銭」なんかもあるから副収入にもなる。

そのどれもがボクには無用で。

アーカイブに記録映像が残ることに意味がある。

後で見返して一人反省会するために。

そして何より、ダンジョン踏破タイムを計測するために。


よし、準備は整った。

ボクは目の前のウィンドウにある「ダンジョンにワープしますか?」の「Yes」のところに指を触れた。





一瞬の意識の空白。

次に視界に映ったのはごつごつした岩の洞窟。

光源がないにも関わらず、薄ぼんやり明るくて。

ひんやりとした空気が漂ってくる。

ボクはそれらを認識した瞬間――走り出す。

ペース配分なんてクソもない。

前傾姿勢で腕を振り足に力を込め、一気にトップスピードへ。


ここ「若木ダンジョン」は全3階層からなる初級ダンジョンだ。

ダンジョンの難易度は初級、下級、中級、上級、超級とあり、その中でも初級は最も難易度が低く踏破は容易い。

出現するモンスターはスライムとゴブリンのみ。

やっかいなトラップの類もない。

さらに一階層にいたっては800メートルの一直線である。


つまり、やることは簡単だ。

視界の奥に見える次の階層へ降りる階段めがけて――

ただひたすらに前へ、前へ――

駆けるのみ!

ポップしたスライムがボクという敵を認識するが、そんなの知ったことではない。

ぷるぷる震えて体当たりのモーションに入るのを無視して、横へかわし、あるいは上をまたいでいく。

モンスターを倒したらドロップアイテムが出る?

そんなのタイムロスだろ?


ボクは全部で5匹のスライムにエンカウントしたが、討伐数ゼロのまま階段を三段飛ばしで駆け降りた。


二階層は迷路ゾーンだ。

通路が複数の分かれ道となっていて、むしろ洞窟系のダンジョンではこれがスタンダードだ。一階層が安直すぎるだけ。

と言っても、ここは初級ダンジョンである。

分かれ道は常に二択だし、正解の順路も毎回固定であって。

右、右、左、右、左の順で進んでいけば、三階層への階段が見えてくる。


二階層の出現モンスターはゴブリンだ。

ただし、エンカウントする時は決まって単体。

もちろん、ボクの基本線術は無視一択。

難点はスライムと違い全長がボクの腰あたりだから上をまたぐことはできない。

また、ゴブリンの攻撃手段はその手に持つ【ボロボロの鉄の剣】だけど、これが少し厄介。

何回かに一回、横を通り抜けるボクに剣を合わせてくるのだ。


よって、苦節一ヶ月、ボクは技を磨いた。

ちょうど通路の先にポップしたゴブリンが。

敵と認識してグギャグギャと鳴き喚きながら剣を向けてくる。

最初は怖かった――だが、タイム短縮のためなら!

足を止めることなく、ゴブリンに肉薄。剣の間合いギリギリまで。

そして見よ!華麗なるサイドステップ!

アンド!

着地した片足を軸足にしての一回転ターン!


む、またもゴブリン!

サイドステップ・アンド・ターン!


一連の技が決まるたびボクのテンションは上がっていく。

だが、慢心はせず、意識を深く深く集中していく。

一般的にモンスターのポップ位置はランダムであり、そしてこの階層にはいくつもの曲がり角がある。

出会い頭にゴブリンと衝突すればそれだけでタイムロスだ。

五感を最大限に研ぎ澄ませ、自分以外の気配、呼吸音、足音の一つも見逃さない。


運良くアクシデントはなく、全部で8匹のゴブリンにエンカウントしたが、当然のごとく討伐数ゼロのまま、ボクは階段を駆け降りる。

ああ、今日はいいタイムがでそうだ――

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