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2.転移場所ガチャ

 



 地面に倒れたままであったイツキは差し出されたヤマモトの手を握る。ヤマモトは軽々とイツキを持ち上げた。


「……おおっと」


 イツキがたたらを踏みながら立ち上がると、ヤマモトはでイツキが怪我をしていないか、子供に怪我が無いか確かめように優しい手つきで触る。


「何処にも怪我は無いようだな」


 最初は次に自分たちが狙われるのかとイツキとレンは怯えていたが、巨漢がイツキに手を貸したことで、自分たちを助けてくれたと理解して感謝を告げる。


「ありがとうございます……」

「助かった」


 感謝を告げたレンにヤマモトは咎めるような口調で言う。


「お前がこの子の父親か? 子供を闇ガチャになんて連れて行ったらダメだろう」

「……俺はコイツの父親でもないし、そもそも男でもない」


 ヤマモトは理解不能という表情を浮かべ数秒固まった後、


「は?」


 と一言漏らした。



「俺が悪かった! この通りだ!」


 ヤマモトは地面に膝を付き頭をつけて謝る。所謂、土下座という奴だ。そこには先程までの威圧感はなく、滲み出るのは哀れさだけであった。

 ……何故こんなことになったかというと、二人がいつの間にか姿が変わっていたと話したところ、突然土下座を始めたのだ。


「頭を上げてくれ、そんなに謝られても困る。そもそも私たちは助けて貰った側だからな」

「あぁ、こんな俺を許してくれるのか……」


 と何故か感動しながら立ち上がった。


 その姿にレンは顔を顰めながらも、逆に手を貸した。


「それで助けに来たと言ったが、名前からしてヤマモトさんも日本人なのか?」

「……ああ、そうだ。そして俺も昔、あの闇ガチャで白い女にここに連れてこられたお前たちの仲間だ」


 ヤマモトは二人の緊張を和らげるようにフッと微笑み、砕けた口調で話す。


「俺はあの白い女に連れてこられた人間、転移者を保護して回っている。お前たちは運が良かったぞ。まだ街の近くだったからな。……運が悪いと森の中に放り出されてそのまま死ぬ奴もいる」

「……よ、よかったー。どうやら俺たちは運が良かったみたいだね」

「そうみたいだな……」


 死という言葉に実感が伴わないイツキと違い、先程の魔物に襲われたことにより、レンはこの世界は簡単に人が死んでしまうと理解した。そのことに恐怖を感じながらも、イツキを怖がらせないように決して表情には出さない。


「それで保護って一体何処でするんだ? 転移者はこの世界では部外者なんだろ? ……そんな得体の知れない人間を保護してくれる奴なんているのか?」

「そりゃあもちろん俺たちのギルドさ」

「あっ、ギルドってさっき自己紹介の時言ってた課金者ギルドって奴だよね!」


 ガチャが関係してそうな課金者という言葉に、イツキは目を輝かせながら食いつく。ヤマモトはイツキが小さくなったオッサンと知りながらも、ついつい子供相手のようにに話してしまう。


「そうだ、俺が所属する課金者ギルドはガチャを回す人間は必ず所属しなければならない組織だ。そして、そのギルドマスターは俺たちと同じ転移者でな、だから課金者ギルドにとっては転移者は決して部外者じゃない」

「ガチャ来ちゃああああぁぁぁ!!」


 イツキはヤマモトのギルドの説明を全て流して、ガチャという単語に突然発狂し始める。……そんなイツキに目を剥くヤマモト。反対にレンは慣れた手つきでイツキの頭にチョップをかます。


「……黙れ。つまり、同じ同郷の者だから保護してるってことか?」

「……あ、ああっ、それもある。……もう一つは戦力の増強だな。俺たち転移者は忌まわしいことだが、あの白い女から『加護』という、強力な力を貰ってるらしい。……最後にもう一つあるが、それはギルドに着いてからでいいだろう」


 その後ヤマモトは痛みで頭を抱えているイツキを無視して加護の話を始めた。その加護の内容は言語理解と次元収納という、異世界転生ではお約束の奴だった。


「……いてて、言語理解ってアニメとかでよくあるあれだよね。全く違う言語でも理屈は分からないけど内容は理解できるっていう」

「ああ、そうだ。そして次元収納だが……」


 ヤマモトはそう言うと、突然の何も無い空中に手を突っ込んだ。すると指の先から消え始め、最終的に腕の真ん中まで消えてしまった。


「ええっ、どういうこと!?」


 イツキがその光景に驚く中、レンはまるでマジックのタネを探すように手首が無くなった腕を360度見回す。


「マジックじゃないのか……」


 レンに調子を崩されたヤマモトは咳払いをしてから、話を再開する。


「こうやって何もない空間に次元収納と考えながら腕を突っ込むと、中に入ってるものが頭に浮かぶんだ。それで取り出したいものを選ぶと……」


 ヤマモトが空中から腕を引き抜くと、手には水の入った皮袋とパンが握られていた。


「おおぉ!」

「…………、」

「さぁ、食え。腹が減ってるだろう」


 そう言ってヤマモトは二人に水とパンを渡す。空腹を感じていたイツキとレンは感謝を告げて受け取る。


「ありがとう!」

「……すまない」


 普段あまりアニメや漫画など見ないレンにとっては、今の一連の流れは受け入れがたかったらしく、顔を顰めながらむしゃむしゃと硬いパンを齧っていた。


「お前たちを助けるために車を置いてきたからな、車を取ってくる。ここから動くんじゃないぞ」


 そう言ってヤマモトは遠くに見える車に向かって、人間では有り得ない速さで消えていった。



 二人が食事を終えて少しすると、ヤマモトが黒いボディのまるで四人乗りの軍用バギーのような車でこちらに来て止まった。


「……そういえばここって異世界だよね。なのに車っておかしくない?」


 イマイチ何がおかしいのか理解していないレンを放置して、自慢げな表情でヤマモトが説明する。


「そう思うだろう。しかしながらこれは魔鉄車と言ってな、魔力で動く車なんだ。まぁ、構造自体は俺たちの世界とそうは変わらんがな」


 どうやらこの魔鉄車というのは、転移者であるギルドマスターが発明したものとの事だった。


「ギルドマスター凄いな……」

「あぁ、そうだとも。俺たちのギルドマスターはスゲェ」


 この後イツキたちはこのままの姿だと目立つと言われ、黒い外套を被せられた。そのまま魔鉄車に乗せられて、課金者ギルドへと向かったのであった。




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