( ´ ▽ ` )ノ( ´ ▽ ` )ノ( ´ ▽ ` )ノのお話
婚約解消された公爵令嬢、洞窟で絡み合う赤い糸に翻弄される令嬢が真実の恋を見つけるまで。
フェリーシア・コレンティスト公爵令嬢は歳は17歳。この国の女性は17歳までに婚約者を決めなければならない。それが一般的であった。
勿論、10歳の時に高位貴族であるハーディス公爵令息、レイク・ハーディスと婚約を結んでいた。彼はハーディス公爵家の嫡男。釣り合いの取れた家柄で、フェリーシアは目立たない黒髪の女性だったが、レイクは派手な金色の髪でそれはもうイイ男だったので、フェリーシアは一目見たその時から、レイクが婚約者で嬉しいと思ったのだ。
だが、先月の事である。
7年間結んでいたレイクとの婚約を解消して欲しいと突然、ハーディス公爵家から言ってきたのだ。
コレンティスト公爵である父は怒りまくって。
「もうすぐ、フェリーシアは17歳。これから新たに婚約者を探すには遅すぎる。どう責任を取ってくれるんだ?」
ハーディス公爵は困ったように。
「レイクが好きな女が出来たと言ってね。そういう女なら妾として囲えばいいと言ったんだが、首を縦にふらないのだ。慰謝料は支払う。申し訳ない。」
酷い…酷いわ。わたくしなりに、一生懸命にレイクに尽くしてきたのに。
お誕生日にはプレゼントを渡して、月に一度の茶会も話も一生懸命合わせて。
レイクは楽しそうにしていたじゃない?
ああ、でも王立学園でのレイクの様子はおかしかった。
学園ではよそよそしくて。
「婚約者だからって、学園は学問をする場だ。私に近づかないでくれるか?」
酷い言い草と思ったのだけれども、レイクがそう望むのなら仕方がないと、学園でも接点を持たないようにしてきたのだ。
月に一度の茶会で仲良くお話出来ればいい。我慢すればいい。
美しいレイクは学園の女生徒達からも人気があって、周りには数人の女生徒達が囲んでいて。
その女生徒達だって貴族だ。ちゃんと婚約者はいるはずなのに…
馴れ馴れしくレイクに接する事自体、フェリーシアには信じられなかった。
そして、自分には近づくなと言っておいて、他の女生徒達とイチャイチャするレイクの事も信じられなかった。
中でもアリサ・クリフト男爵令嬢はよくレイクの傍にいて、それはもう、見せつけるように仲良くしていて。
「レイク様っ。今日の私、可愛いでしょう。」
胸を強調するように、学園の制服の胸元を開けて、レイクに見せつけるアリサ。
なんてはしたない。しかし、レイクは嬉しそうに、
「魅力的なアリサ。それに比べてフェリーシアはつまらない女でね。あんな黒髪の地味な女より、君のようなピンクブロンドの可愛らしい女の子の方が好みだよ。」
「嬉しいーーー。レイク様、だぁいすき。」
ちらりとフェリーシアの方を見て、これみよがしにイチャイチャするアリサ。
悔しい悔しい…とても惨めな気持ちでフェリーシアは学園で過ごしていたのだけれども。
とある日、レイクがアリサを連れて、わざわざフェリーシアがいる教室まで来ると、
にこやかに。
「フェリーシア。私はアリサと婚約を結ぶことにした。」
アリサはべったりとレイクにくっつきながら、
「本当にもーしわけありませんっ。なんせ、レイク様ったら、私の方が魅力的だからって。どーしてもって言う物ですから。」
フェリーシアは立ち上がり、
「ご報告有難うございます。どうぞ、お二人でお幸せになって下さいませ。ご用がすんだのなら、出て行ったら如何。」
アリサが大声で、
「フェリーシア様が私を虐めるっ。せっかくご報告に来たというのに、さっさと追い返そうとしているっ。」
レイクもフンと鼻を鳴らして。
「これだから…お前と婚約解消してよかった。さぁ愛しのアリサ。行こう。こんな女の顔なんて見たくもない。」
二人は出て行った。取り巻きの令嬢達がフェリーシアの周りに集まって来て、
「なんて酷い人達なのでしょう。」
「フェリーシア様のお気持ちも考えず…」
フェリーシアは悲しかった。でも、毅然とした態度で、
「有難う。わたくしは大丈夫よ。」
心の中は暗い。これから婚約者を探すなんて…身分が高い男性はもう、婚約者が大抵は決まっている。
これからどうしたらいいの?
これからどうしたら…
夜会へデビューする年頃だが、エスコートをする婚約者もいないとなると、夜会デビューも出来ない。
そう、悲嘆にくれていた、とある夜…
夢を見た。
暗いが広い洞窟の中を、ドレスを着て歩いている。奥へ奥へ奥へ…洞窟の中には沢山の蝋燭が灯っていて、まるでこの世の景色では無くて。しばらく行くと、かなり広い空間に出た。
ぼやっと見える沢山の…あれは人形?
近づいて行くと、無数の1mは無い位の人形が沢山、立っている。
ゆらゆらゆらゆら、怪しげな無数の壁の蝋燭に照らされて。
「なんて不思議な…」
よく観察してみれば、大抵の人形は二人で一組になっていて、赤い糸でその一組はぐるぐると巻かれていた。
一人でいる人形もあるけれども…
見つけてしまった。レイクとアリサの人形が…
しかし、レイクは他にも数人の女性がレイクに縋っていて、赤い糸で皆、巻かれて繋がっている。
「これってもしかして、縁結びの糸?」
レイクが複数の女性達と結ばれているのには、あまりにも呆れた。
そして、見つけてしまった。自分の人形を。
たった一人で寂しそうに立つ自分の人形…
そんなの嫌っ…あたりを見渡すと、ひと際、輝いている人形が目に入った。
黒髪碧眼の背の高いその男性が誰だか解らないが、それはもう、美しい女性と赤い糸でグルグルと巻かれている。
罪悪感があったが、その糸を取り外して、その男性と自分とを赤い糸でグルグルと巻いてみた。
- どうせ夢なのだから… 夢の中位、好き勝手してもいいわよね。-
ついでに、レイクの赤い糸を外して、その辺に一人でいた男性を三人程、近づけて、レイクと共にグルグルと赤い糸で巻いてあげた。
- 我ながら、完璧だわ。ああ、すっきりしましたわ。-
朝日の眩しさに目が覚めて、久しぶりに気分が良かった。
学園へ行くと、廊下でアリサが形相を変えて、フェリーシアに近づいて来て、
「フェリーシア様っ。公爵家の力を使って、レイク様に何かしたんでしょうっ?」
「え?わたくしは知りませんわ。どういたしましたの?」
「いきなり、辺境の騎士団へ修行に行かなければならないって…おかしいじゃない?」
「ハーディス公爵様がお決めになった事ですわ。我がコレンティスト公爵家は何もしておりません。」
他にも数人の令嬢がわめきたてている。
「レイク様をっ。私のレイク様っ。」
「私のレイク様よ。」
アリサが令嬢達に向かって、
「私が婚約者なのよっ。貴方達なによ。」
令嬢の一人が、
「婚約したって関係ない。君との関係を続けたいってレイク様が。」
「私もそうよ。レイク様が愛しているのは私だけって…」
「私もよっ。」
フェリーシアは頭が痛くなった。
「何の騒ぎかね?」
ふと、声をかけられる。
そして驚いた。
彼は夢の中に出て来た、自分の人形と赤い糸でグルグル巻きにした相手だったからだ。
フェリーシアは慌てて、
「大した事はありませんわ。貴方様は?」
「私か?隣国から留学する事になった皇太子のロディスだ。そして後ろにいるのが、ミレーユ・カレティクス公爵令嬢。私の婚約者だ。」
黒髪碧眼の美男のロディス皇太子、そして後ろに立っていたのがミレーユ・カレティクス公爵令嬢。サラサラの金の髪の美しい令嬢ミレーユに挨拶をされた。
「ミレーユ・カレティクスですわ。わたくしも皇太子殿下についてきて、この国の王立学園で学ぶことになりましたの。よろしくお願い致しますわね。」
「フェリーシア・コレンティスト。コレンティスト公爵家の者です。こちらこそよろしくお願い致します。」
フェリーシアは焦った。
- ミレーユの赤い糸を外して自分とロディス皇太子と結んでしまった。レイクは偶然かどうか解らないけれども、騎士団へ行ってしまったわ。あああっ…困ったわ。どうしましょう。-
もう一度、あの場所へ行けるのなら、元へ戻さないと…
人の婚約者を盗る事になるだなんて…
ああ、でも、赤い糸を外すと言う事はそういう事なのね…
なんて自分は浅はかだったのだろう…
その日の放課後、図書室へ用があり、行ってみたら、ロディス皇太子がまさに、自分が用がある本棚の前で本を見ていた。
フェリーシアは逃げようとするが、声をかけられる。
「君は朝、出会ったコレンティスト公爵令嬢。すまないが、本を探すのを手伝ってくれないか?」
「わたくしでよければ。」
ロディス皇太子はこの国の歴史の本を探していると言っていた。
だが、読むにはどれがいいのか解らないようで。
フェリーシアは解りやすい本を見繕って、数冊手に取り。
「こちらを読めばよろしいかと思いますわ。」
「有難う。コレンティスト公爵令嬢は博識だな。」
間近で見るロディス皇太子はとても美しくて整った顔をしており、フェリーシアは胸が高鳴った。
でも…
「それではわたくしはこれで…」
婚約者を盗られる痛みはよく解っている。
自分はそんな女になりたくなかった。だから、必要以上にロディス皇太子に近づきたくない。
そう思っていたのだけれども…
何故かロディス皇太子と再び会った。
翌日の放課後、久しぶりに街へ馬車で行き、お気に入りのカフェのテラス席で珈琲を飲みながら、読書を楽しんでいれば、ロディス皇太子が現れて。
「これは奇遇だな。同席してよいか?」
フェリーシアは慌てて立ち上がり、
「いえ、婚約者がいらっしゃる皇太子殿下と親しくされては、ミレーユ様が悲しむでしょう。ですから…」
「彼女とは政略でね…婚約したに過ぎない。」
そう言うと、強引に目の前の席に座るロディス皇太子。
「私は私で恋を楽しみたいのだよ。」
「恋をですか?」
「コレンティスト公爵令嬢。君はとても博識だと聞いた。色々と話をしたい。」
いいのだろうか?このまま流されて…
いや違う…心の中の何かが警鐘を鳴らす。
彼はレイクと同じではないのか?
フェリーシアは慌てたように立ち上がり、
「用事を思い出しましたわ。失礼致します。」
その場を慌てて去った。
ロディス皇太子殿下はとても素敵な方…
でも…人の婚約者を盗ってはいけない。いえ、政略だと言っていたわ。
だったら、盗るではなくて、わたくしを側室とかに考えているのかもしれないわね。
それとも結婚までのお遊び…
もし、ロディス皇太子殿下がミレーユからわたくしに乗り変えたとしても、わたくしはきっと後悔してしまう。
人を不幸にする恋はいけないわ。きっと罰が当たるから…
その夜、再び夢を見た。
例の洞窟の中の夢…
フェリーシアは迷わず、自分とロディス皇太子殿下を結んでいる赤い糸を外して、ミレーユと結び直し、元の通りに戻した。
たった一人で立っている自分。
でも…恋だけが生きる道ではない。わたくしはわたくしの生き方を見つけるわ。
自分の人形が寂しそうではなく、とても誇らし気に立っている様子にフェリーシアは嬉しかった。
ロディス皇太子は赤い糸を外して以降、フェリーシアとの接触は無くなった。
フェリーシアは懸命に勉強に励むようになった。
例え、結婚出来なくても、生きていけるように。
コレンティスト公爵家は兄が継ぐだろう。その事業を手伝わせて貰えないだろうか?
フェリーシアは兄に頼み込んだ。
兄は微笑んで、
「お前が嫁に行けなかったら、考えてやってもいい。その為に学園での勉強を頑張れよ。」
と言ってくれた。
勉強を頑張っていたら、図書室で一人の青年に出会った。
「私はアレド・キルディアス、キルディアス公爵家の嫡男です。まことに恥ずかしい話、婚約者の令嬢を婚約破棄致しまして。相手が不貞を働いていたのですよ。正式に貴方の家に話を通そうと思いますが、フェリーシア嬢も婚約者がいらっしゃらないとの事。如何です?私との婚約、考えて頂けませんか?」
決して美男と言う訳ではないが、彼は努力家で学園の成績も上位に入っている事は知っている。
今まで接点も無く、ただのクラスメート位の認識だった。
だけど、これはチャンスである。
一人身でいようと思ってはいたが、彼が望んでくれたのなら、受けてみようと思った。
やはり一人身は寂しいのね。わたくし…
「解りましたわ。貴方様がとても勤勉でいらっしゃる事は存じております。婚約の前に少しお話をしませんこと?」
「そうですね。」
話をしてみて、胸がときめいたわけではないけれども…
彼の誠実な人柄が好ましくフェリーシアには思えた。
ああ…あの洞窟へ行って確かめたい。
わたくしと彼は赤い糸で結ばれているの?
あの時は一人だったけれども…新たに結ばれているかもしれない…
フェリーシアは願った。
あの洞窟へ行きたいと…
そして夜、夢を見た。
ああ…あの洞窟の夢だわ。
さぁ、急いで…確かめるのよ。
赤い糸で結ばれているかどうか…
他の女性と彼が結ばれていたらどうしよう。
複数の糸で結ばれていたら?
フェリーシアは自分の人形を洞窟の中で探す。
彼の人形を探す。
どこに?どこにあるの?
見つけた人形は…赤い糸で結ばれていなかった。
フェリーシアは一人立っている。
そしてその向かい側にアレドの人形が立っていた。
彼の人形はフェリーシアに手を差し出している。
フェリーシアの人形も彼に手を差し出していた。
フェリーシアはその姿を見て、満足した。
ああ…これから彼との恋は始まるのだわ。
きっと赤い糸で彼と結ばれてみせる。
もう、わたくしは赤い糸は弄らない…
ふと、元婚約者のレイクの人形が目に入った。
周りに赤い糸で結ばれた男性の人形が増えていたが、気にしない事にした。
ロディス皇太子の人形を見つけた。
ミレーユの他に複数の女性達が赤い糸で絡みついていた。
フェリーシアは洞窟の夢から覚めた。
それから二度と、赤い糸の洞窟の夢は見る事はなかった。
アレドとは婚約し、共に愛を深めて、今は幸せな学園生活を送っている。
「フェリーシア。会えば会う程、君に惹かれていく。政略だけではなくて、私は君の事を。」
「わたくしも貴方の事が好きよ。アレド様。」
きっと赤い糸は結ばれたに違いない。
フェリーシアはアレドの腕に腕を絡めて、その肩に頭を寄せて幸せを満喫するのであった。