ルート⑤九月の体育大会と姉妹(前編)
お久しぶりです
今日は三話更新です
俺の名前は陸人。天道陸人。高校二年生でごくごく普通の人間。
季節は夏で九月末。日本の夏特有の暑さがすぎ、だんだんと涼しくなってきたこの頃。
本日は体育大会が開催される予定である。
今は晴れているが午後から崩れる予報だ。もつだろうか。
「陸人もこっちこいよー!」
こいつは天海空。俺の唯一と言ってもいいほど仲のいい友人だ。高校に入ってから知り合ったが中学の頃にアメリカから引っ越してきたらしい。いわゆる帰国子女。両親は日本人らしいのでダブルとかではない。ただ、アメリカで仕事をするほど凄い人たちだそうだ。
「そろそろ開会式だぞー」
「はいはい」
「なんか元気ない?」
そらそうだろ。だって、九月末でいつもなら涼しいはずなのに、今日に限って朝から気温が高い。時刻はもう九時になろうかというときだがすでに三十度を超えていた。
「暑い、溶ける」
「そうだね。でも、今日は頑張ろう!」
「お前のせいで体感温度上がったわ」
体育大会直前の茶番はこんなものにしておいてと。
そろそろ始まるころだ。
吹奏楽部の演奏が始まり、指揮者の合図と共に生徒たちは順番に入場して整列していく。
俺の順番は二年二組だから大体真ん中あたり。
位置的には先頭の人達が進んでいるのが見えるところだ。
入場は毎度毎度それなりの時間がかかる。
この暑い中、未だに開会式すら終わってない。先は長い。正直もう暑さには耐えられない。
そんなことを何度も考えていた。
ようやく自分たちの入場の番になった。
十五分は経っただろうか。競技のときの安全のためとかなんとかで生徒は腕時計の着用が禁止されている。中学のときと違ってグラウンドに時計はない。なので時間は先生か実行委員しか正確なものをしらない。
だいたいの時間はプログラムを見れば推測が立つ。が、ここに今プログラムを持ってる奴なんて……。
ふと、となりにいた人物を見た。
「なあ、お前プログラム持ってるか?」
そう。唯一と言ってもいい俺の友、空だ。
「なあに、陸人急に」
「いいから、持ってんのかって」
空は困惑していた。
それもそうだろう。急にプログラム持ってるかって少し焦りながら言って来たんだから。
「あるよー。ほれ」
そう言って、空はこちらの事情を訊くことなくプログラムを渡してくれた。なんていいやつだ。
「ありがとう」
「いや、というかどうしたの?そんな焦って。貸したんだから話せよ」
俺は耳を傾けることなくプログラムに見入っていた。
開会式 9:00
選手宣誓 9:40
体操 9:50
200m×4リレー 10:00
あれ?もしかしてまだ十五分も経っていない⁉
まあ確かめようはないんだけど。
「陸人、そろそろうちのくらすだよ。準備して」
多分というか、そろそろ十分くらいだな。
俺は重い溜息をつくしかなかった。
体育委員による選手宣誓が終わり、体操もしっかりしたあと。
いよいよ、競技が始まる。
最初の競技はさっきも見たとおり200m×4リレーだ。
俺は出ないが、空が出る。
ちなみに俺は男女混合リレーと借り物競争だ。
事前にくじで決めたため俺がやりたかったわけではないことだけ言っておこう。
空は第四走者。つまりアンカー。
運動部だから任せられるとみんなが言っていた。
本人がいいならいいが正直、運動部だからとかやめてほしい。
空だから任せられる。そう言ってもらえるとうれしい感じがするのに。
リレーの話に戻る。二組の滑り出しは順調でずっと二位につけたままアンカーである空にバトンが渡された。三位のクラスに詰められながらもギリギリのところで二位をキープしフィニッシュした。
決して悪い順位ではない。まだまだ、油断はできないがいい順位であることは間違いない。
「お疲れ、空」
「おう!なんとか順位は死守したぜ」
結構接戦になってたから順位を落とさなかったのはすごい。俺なら落としてる。まあ、アンカーになることなんてないだろうけど。
次の競技は玉入れだがそこにあまり興味はなかった。結果だけいうと、一位は三年三組、二位は三年一組、三位は一年一組となった。三年生が猛威を振るっていて強かったみたいだが、三位に一年生が食い込んできているのがすごい。うちの学年、二年生はダメダメだったみたいだ。
さて、興味がないと言ったのはその次が俺の出場する男女混合リレーだから。
緊張でそんな暇なんてない。メンバーは第一走者の綾野綾香という女子、第二走者俺、第三走者の紀野希依乃という女子、第四つまりアンカーはまたしても空だ。
女子二人とは喋ったことすらないような関係だ。知っているのは名前と陸上部だということだけ。
「よろしくね」「がんばろうね」
それぞれ俺にメンバーの女子二人は言って会話が終了した。というか、会話ですらなかったな。
そんなことがあったあと玉入れに参加していた人達が合流してきた。連続で参加する人がいるのは変だとは思わないが大変ではないのかといつも思う。
「お、お前も出るのかりっくん!」
そんな声が聞こえて振り返ると二人組の少女がいた。
俺に声をかけたのが那賀だいな。通称だーちゃん。黒のショートヘアで男っぽさのある雰囲気と口調のボーイッシュ三年生の少女。もう一人が彼女の妹の那賀みいな。通称みーちゃん。こちらは姉と違い、黒のロングヘアーでかわいらしい一年生の少女。ただし今日は動きやすいようポニーテールで髪をくくっていた。
「おねえちゃん。りっくんがびっくりしてるよ。おはようございます、りっくん」
もういつもいつもびっくりさせてー、ごめんごめん、なんてやりとりが目に見えそうな雰囲気を出している二人。
「あ、ああ、おはよう」
俺はあっけを取られていた。
「そ、そうだ。二人も出るの?」
ここにいるんだからそういうことなんだろうけど。つい言ってしまった。
「そうだよ!一緒だね」
「というかもしかしてさっきの玉入れ入賞したクラスって二人のところじゃ……」
「そうだぜ。あたしのクラスが一位でみいなのクラスが三位」
「すごいな」
「でしょ。がんばったんだよ。これからもがんばるけど!」
「あ、そうだ、りっくん!りっくんのクラスにこの競技で勝ったら頭撫でて!」
驚いたがみいなのためとその程度でいいならと了承した。
「やったね。約束だからね!」
そう言ったあともよーしやるぞなんか言って張り切っていた。
「そういえばさーなんでりっくんって呼ばれてんの?」
いい感じに空気になっていた空が訊いてきた。
「だーちゃんとみーちゃんはいわゆる幼馴染なんだよ。それで昔から呼ばれてる。ちなみに命名したのはみーちゃん」
「なんか納得だわ」
「空、そろそろ始まるな。頑張ってくれ!」
「おうってかお前も頑張るんだよ」
そんな感じで競技前の会話は入場の合図とともに終わった。
パンッ!
乾いた銃声が鳴った。
男女混合リレーが始まったのだ。
俺の出番は二番目だから割と早い。
もう並ぶところまできた。
一位はなんと一年一組。
そう言われてみるとみーちゃんだった。
「なんつー速さ」
三年生もいるってのに一位とかさすがに速すぎ。
続いて、二位・三位と呼ばれるがまだ出ない。
六位でようやく交代した。
彼女、綾野が遅いのではなく周りが速すぎる。
「ごめん!なんとか追いついて」
そう言われてバトンを受け取ったが生憎足は速くない。それどころか離されているような……。
続きます