√O 八月の両親と過去
いつもより短め
俺の名前は陸人。天道陸人。高校二年生でごくごく普通の人間。
季節は夏で八月中旬。暑さにも少し慣れ、人出の多い時期だ。
この時期、日本にはお盆という文化がある。地域によっては早かったり遅くなったり、少し内容が違ったりするらしいが、一般的には祖先が子孫に会いに行くと言われている。子孫は祖先をもてなす。はじまりは仏教という諸説があるが、俺たち日本人は多宗教文化があらゆるところに現れているためあまり気にはしない。たとえば、正月。これも仏教由来らしいが日本特有のものに変化している。その他にもローマが起源のバレンタインデー、キリスト教由来のクリスマスなどが代表だろう。前者のチョコレートを渡す文化は日本で生まれ、後者の恋人と過ごすというのも日本特有の文化と言える。
あれからもう一年半も時間が経った。両親がいなくなってから。
原因は交通事故だった。親父は骨董品が好きだった。俺にはガラクタにしか見えなかった。IT企業に勤めていると聞いたことがあったので、それなりに骨董品を買う余裕があったんじゃないかと思う。母さんはやさしくいい母親だった。事故直後は母さんの友人で家族ぐるみの付き合いだった天海一家にお世話になった。天海家の長男である空とは高校一年のときから同じクラスで仲良くしていた。今でもお世話になっていたりするのだが(大半が空に振り回されていることが原因)前ほどではない。
さて、なぜこの話をしたかというと今日は天海家と一緒に両親のお墓参りに行くからだ。
両親の墓は家からそこそこ近い距離にある山の中腹にある。見晴らしがよくギリギリではあるが海がみえる。そんな場所に二人は眠っている。
時刻は午前十一時。昼前。そろそろ、家に天海家が迎えにくる時間である。支度を終えてリビングで待っていた。もうちょっと遅くてもよかったが向こうからお昼を誘われた。断る理由もないので了承した。
ピンポーンと音が鳴った。迎えが来たようだ。
俺は荷物を持って玄関を開けた。
「おはよう。陸人」
一番に挨拶をしてきたこの男。彼は天海空。俺の唯一と言ってもいいほど仲のいい友人だ。高校に入ってから知り合ったが中学の頃にアメリカから引っ越してきたらしい。いわゆる帰国子女。両親は日本人らしいのでハーフとかではない。ただ、アメリカで仕事をするほど凄い人たちだそうだ。
「おはよう!陸にぃ」
今度は元気な女の子だ。彼女の名前は星。空の妹でなぜか俺になついている。何かした覚えはない。
「ああ。おはよう二人とも。それとおばさん、おじさん。車を出していただいてありがとうございます。今日はお願いします」
空はさわやかに微笑み、星ちゃんは笑顔でおばさんとおじさんもニコニコしていた。
荷物を車のトランクに積み、乗り込んだ。
座席はおじさんが運転席。おばさんが助手席に。後ろに運転席側から星ちゃん、俺、空の順で座っている。そうこれはつまり天海兄妹にサンドされている。サンドイッチの具材のように左右に引っ付かれている。夏としては暑苦しいがエアコンがガンガン効いている車内だはあまり気にならない。だが、それ以外のところで一つ気になる。この状況だ。友人であるイケメンに抱きつかれるというなんとも気持ちの悪いことと中学生である彼の妹に抱きつかれるという状況だ。星ちゃんに抱きつかれることが嫌というわけではないのだが思春期でそういうことに抵抗のある時期なんじゃないかということ。それを二人の両親が前にいる状況である。
目的地に着き、なんとか耐えきった俺はバケツと柄杓を借り両親の墓へ向かった。
この場所はおじさんとおばさんが選んでくれた。山を少し登ったところの見晴らしのいい一角の一つにそれはある。天道と彫ってある一つの墓石。一緒の方が本人たちもうれしいだろうということで同じところへ入れた。
ひさしぶりにこの場所へ来た。梅雨もあったからか少し汚れていた。
まずは二人にあいさつをするべく順番に手を合わせた。俺、おじさんとおばさん、空と星ちゃんの順で。
「母さん、親父。久しぶり。あれから二回目のお盆だ。今年も空たちが墓参りに来てくれたよ。このあとに挨拶する。ちょっときれいにしてちょっと思い出しゃべって帰ることにするよ。短い時間だけどよろしく」
俺はそう目の前の墓石に声を出して言った。
挨拶の終えた俺たち五人は分担して掃除をした。
墓石を磨き、花・水を換え、雑草を抜き、ゴミを回収してお供え物を置く。
墓石磨きと雑草抜きが特に時間がかかった。
墓石磨きが俺と天海夫婦、雑草抜きが天海兄妹という分担になっていた。
無言で黙々とやっていたというわけではなかった。天海兄妹の方は星ちゃんが疲れたーあつーいとか愚痴をこぼしつつちゃんとやってくれていた。それを空が覇気のない声でそんなこと言わずやれよーなどとよくのわからない会話をしていた。どうやら空はその時点で既に暑さにやられていたらしい。帰りの車のなかでしんでいた。
一方こちらはおばさんと母さんの思い出話をおじさんと聞いていた。親父の学生のときのことなんて誰も知らない。母さんには昔話したらしいが俺はきいていないし二人も知らない。母さんとおばさんの出会いは中学生のころだったらしい。同じ部活に所属しそこで出会った。気が合いすぐに仲が良くなった。似た趣味があったことが大きな要因だったらしいが教えてくれなかった。いわゆる黒歴史というやつだそうだ。そのまま同じ高校に入学し、また同じような部活に入った。とにかくそうして楽しい六年間を送ったらしい。だがそこからは違う人生を送った。連絡だけは時々とりながら。
だいたいこんな感じの内容だった。
話終えた頃、墓石はピッカピカになった。
時間も昼過ぎでちょうどいいとのことで俺たちは帰りの挨拶を軽くして昼ご飯を食べに行った。天海家の奢りだ。
最後までお読みいただきありがとうございます。
次もよろしくお願いします