ルート④ 七月の海と亜麻色の先輩
投稿時期ずれちった
俺の名前は陸人。天道陸人。高校二年生でごくごく普通の人間。
季節は夏で七月中旬。日本の夏特有の暑さにやられ、一日中冷房を入れる人が増えてくる時期だ。そんな中俺は外にいる。
「陸人もこっちこいよー!」
こいつは天海空。俺の唯一と言ってもいいほど仲のいい友人だ。高校に入ってから知り合ったが中学の頃にアメリカから引っ越してきたらしい。いわゆる帰国子女。両親は日本人らしいのでダブルとかではない。ただ、アメリカで仕事をするほど凄い人たちだそうだ。
俺は空に呼ばれたが首を横に二、三回振り断った。
「なんでさー。楽しいよ?」
「暑いしやだよ」
俺は今、日陰のあるところの砂浜に立てた簡単にできるタイプのテントの中で荷物番を手持ち扇風機を回しながら涼んでいる。
なぜそんなことになっているかというと。数日前に空が急に海へ行こうと言い出した。俺はすぐに断った。だが、空はそれから毎日飽きもせず誘ってきた。それもすべて断った。こんなに断っているのはちゃんと理由がある。それは俺が海というものが嫌いだからである。
きっかけは小さいころに家族で海に行ったこと。そのときまだ泳ぎを習ってなかったのだが、父親に気合でなんとかなると言われ海に放りこまれた。そして案の定溺れ、怖い思いをした。それから海に入ることをやめた。
海といえばもう一つ楽しみ方がある。それはビーチで遊ぶこと。特に砂遊び。これらは海に入ることが少なく泳ぐ必要としないので金槌の人間にも人気である。しかし、俺はこれにもトラウマがある。ソレは悲しくも同日に起こった。海での一件以降、俺は浜辺で砂遊びをしていた。何を作っていたのかというと、日本で最初に世界遺産に登録された四つのうちの一つである国宝『姫路城』。別名、白鷺城とも言われるほど白い瓦が特徴のお城を作っていた。順調に進んで完成真近のところで白い乾いた砂を探しに行って帰ってくると何者かに壊されていたのである。当時の俺はショックのあまり手に持っていた砂をすべて落とし、「海なんて嫌い!帰る!」としばらくふてくされていた。
なのになぜ今俺は海に来ているのか。それは今朝状況が変わったからとしか言いようがなかった。
空はいつも通りというか今朝、家まで海に誘いに来た。日程は今日だったらしくわざわざ来た。これまでと変わらず断ろうとしたそのときドアの後ろあたりの死角から女性の声が聞こえた。
「陸人くんこないの?」
声のした方までドアを開けた。そこには亜麻色の髪をツインテールに結った女性が立っていた。彼女は天ノ川先輩。同じ高校の三年生。昨年の文化祭でお世話になりそれから縁が続き今もこうして仲良くさせてもらっている関係だ。
「行きます」
と即座に返事を残して急いで支度をして家を出た。
「おい空、天ノ川先輩来るなんて聞いてないぞ」
「だって言ってないし」
いつものことだが今回は先輩がいる。さすがにお世話になっている先輩を悲しませるようなことはできない。そう思ったのだ。
で、来たものの俺は日陰テントの中で荷物番をずっとしている。空と先輩は浅瀬の海で遊んでいる。水に浮くボールで遊んだり、水をかけあったり、浮き輪に長時間浮いていたりしている。彼らがやっていること自体は楽しそうだとは思うがやはりトラウマがチラつく。すると、急に空がこっちに来た。
「急にどうしたんだ?」
「ちょっと休憩しようかなって」
二時間くらいたっているはずなのでその間ぶっ通しで遊んでることになる。
「先輩は?」
「まだ遊ぶって。相変わらずタフだよな。あの人」
本当にそう思う。昨年の文化祭でもずっとはしゃいでいたのにそのあとも元気だった。
「なあ、アレ……」
空に言われ指の指す方を見た。先輩がナンパされてた。二人組の男に。
「助けなきゃ」
咄嗟にそう感じた。おそらく正しい反応をしたんだろうが意味がなかった。
俺がテントから出た瞬間、先輩が近かった方の男を殴ってダウンさせた。もう一人はビビったのか男を抱えて逃げて行った。
「あれ?」
「やっぱり先輩強いな」
え?俺の驚いた顔を見て空が言う。
「なに、お前知らなかったのか。天ノ川先輩、空手やってるんだよ」
「なんで知ってんだよ、お前」
「前に先輩が言っていたからな」
空、先輩とそんな話するんだなと思った。俺とはいつも『今日』とか『この前』の話しかしないのに。過去話とかしたことないな。俺は先輩のことを全く知らないということを思い知らされた。
「なあ、俺って一体何しにきたんだ?ここに」
「知らねぇよ。お前が来るって言って来たんだろ?」
そうだけどそうじゃない。
「お前が毎日誘ってきたんだろ?」
「そうだった」
おいっ!っていうツッコミは心にしまっておいた。すべてのものにツッコんでいてはキリがないからだ。
「じゃあ、先輩と昼飯買ってきたらどう?荷物番しとくから」
いい。今日来た意味ができた。ナイス空。俺は頷いた。
俺はさっそく先輩の元へ向かい、昼ご飯の買い出しに誘った。
「先輩、昼ご飯の買い出し一緒に行きませんか?」
俺の声に反応して先輩はテンション高く答えた。
「陸人くん!行こう!行こう!お腹空いたよー」
海と言えば海小屋ということでいくつかあるお店全部回る事になった。
「先輩は何が食べたいんですか?」
「そうだなー。焼きそばにイカ焼き、焼きとうもろこし、カレーそれとかき氷!」
本当に食べるなぁこの人。この見た目でよく食べるひとに見えないのも彼女の隠れた魅力だったりする。
「食べきれるんですか?それ」
「食べきれなさそうなら、各種一口だけ食べて残りあげるよ」
先輩は笑いながらそんなことを言った。その言葉に少しドキッとした自分もいた。ってか一口ずつってあくまで食べ切る前提らしい。
「空は何がいいですかね?」
「空くんに聞いてないの?」
そうなのである。あまりにも舞い上がってしまって聞く前に飛び出してきたのだ。
「うーんー、カレーとかき氷ブルーハワイでいいんじゃない?」
「そうですね」
ドンマイ空、俺は先輩には逆らえない。完全にネタの組み合わせだし、まあ面白くなって本人も気に入るかもだけど。
昼ご飯を買い終え、空の待つテントに戻ってきた。空にはさっき言った通りカレーライスとかき氷の組み合わせ、俺は定番の焼きそばとかき氷それとフライドポテト。ちなみにこっちのはレモン。先輩は宣言通り、焼きそばにイカ焼き、焼きトウモロコシ、カレーライス、イチゴのかき氷。さらにフライドポテトとソフトクリームを買っていた。ちなみに我慢できないという理由でイカ焼きとトウモロコシを、溶けるからという理由でかき氷を食べ歩きで完食している。なお、今現在はソフトクリームをこれまた溶けるという理由で食べ歩きしている。俺もかき氷だけは先に食べ歩きして食べた。溶けるから。
「先輩、着きましたよ」
「ありがと。陸人くん」
そう言って、テントの中を覗き込みながら中に入った。
「おっ!いっぱい買って来たな」
「空のやつはこれ。で、これが俺の。残りが先輩の」
「……」
空は絶句した。先輩がとんでもない量を買っていること。それともう一つ、かき氷だったであろう青い液体が入っていたこと。
「お前らな……まあ、いいや」
空は呆れ半分にため息をついた。
ほら、なんとかなったでしょという意味を込めたであろう、先輩がこっちを見た。さすが先輩。
それから三人は残りのご飯を食べた。俺は焼きそばとフライドポテトを空と分け、先輩は焼きそばとカレーライスとフライドポテトを一人で、空は分けたフライドポテトとカレーライスと青く甘い汁を。
今日はまだ昼だというのにもう疲れた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
感想アドバイス等コメントもらえるとうれしいです。
次回は全ルート共通の話です。