ルート③ 6月の球技大会とライバル (後編)
後編なので前編からどうぞ
まずジャンプボールを制したのは二組の生徒だった。
そのまま連携を取って、早くも先制点を取った。
続く四組の生徒。バスケ部員だろうか。取られたことで一人で突っ込み二組の生徒を五人全員抜きあっさり点を取り返してきた。これには同じチームの生徒を含むみんなが驚いた。本気を出してきた感じがした。
「さすがバスケ部だな」
「そうだね。でも焦ってる気がしてる」
「どういうことだ?空」
「他にバスケ部がいないのに簡単に崩されて点を取られているからだと思う」
「なるほど。それは部員であることのプレッシャーとプライドがあるが故の悩みだな」
「今回もそれを感じてる部員は少なくないと思う」
実際、そういうたぐいのプレッシャーを感じてる人は多いように思う。その道のプロだから、経験者だから、素人よりできるだろうと。そんな自分たちのような素人の期待があってもなくても本人は知らないうちにプレッシャーとして感じてしまう。
そして気づいた。先ほどの言葉『さすがバスケ部だな』これは知らずのうちにバスケ部員にプレッシャーをかけてしまっているのではないか。良くないなと思った。
とそんなことを考えていると、第一クォーターが終わった。
点数は六対十八。大差で二組が負けている。選手の入れ替わりが終わり第二クォーターがホイッスルの音と同時に始まった。
二組が現在負けているので二組のボールから始まった。二組の生徒たちはボールを取られないようにパスを素早く回し続けていた。負けているチームがやることではないかもしれないがまた相手には一人バスケ部員がいる。そのためこれ以上点数差を広げられないようにパスを回す。ちなみにこれは空の考えた作戦だ。これ以上広げられれば追いつき逆転することが難しいとのこと。
そして見事彼らは作戦をやりきった。残り十秒でシュートを放ち、奇跡的にスリーポイントで決まり九対十八で第二クォーターを終えた。相手には悪かった試合の内容だろう。やっている方ももちろん見ている方も正直退屈に思えた。
「つまらないことしてくれるね。空」
「そうだ。何しくれてんだ」
例の双子が空に文句を伝えにきたらしい。
「れっきとした作戦だよ。それに第三クォーターからが僕のクラスの本番なんだ」
「何言って……」
二人は絶句した。それは二組がわずか数分のうちに六点取っていたからだ。これで十七対十八となった。
しかし、四組も負けじと点を取りに来た。攻防の結果、お互い十点重ね第三クォーター終えた。現在の得点は二十七対二十八。
「やってくれたな。空」
「二組なんて叩き潰してやる」
双子は空に対して告げた。
「僕たちが勝つよ。ね、陸人」
「え、あ、なんでここで俺に振った?」
「陸人が頑張るから」
「え?聞いてないんだけど。それに俺バスケ得意じゃないし」
「そうだっけ?まあいいよ」
「え?期待してたの?」
「うん。そうだよ」
即答だった。期待されても困るんだけど。
「そんなことよりどうするの?あの双子の連携プレー厄介なんでしょ?」
「そう。だからしっかりと作戦を立てたんだよ。この作戦の要は陸人だから頼んだよ」
「思ったより重大じゃねぇか!」
「あと……」
「ま、まだなんかあんのかよ!」
「逆転できないかもしれなくなったときと残り僅かな状態であと数点のときは陸人にボール回すから」
「は?なんて?」
「ボール回すからよろしく。じゃ、他のやつらに作戦話してくるから」
「ちょっ……」
なんなんだよそれ。具体的な内容何一つ言わず行きやがった。
陸人が混乱している一方、空は陸人を除いたメンバーでより詳細な作戦会議を行われていた。空、林田、内山、木本の順に輪になっている。
「最後の試合なんだけど」
空がそう切り出した。
「十分勝てる見込みがある」
「おおー」
バスケ素人である林田と木本が声をそろえて喜んだ。
「で、どうすればいい?」
内山の疑問は当然のことである。
「まず、亮也、俊也ペアは僕と内山で対応する」
「キツイこといってくれるな空」
「林田と木本はパスをいつでも受けられる場所にいてほしい」
「わかった」「おう!」
二人は了承した。
「でもよ。他の奴らはどうするんだ?」
木本の疑問も当たり前の疑問で空の想定内の質問だった。
「ほっておいていい」
「……」
三人とも絶句していた。
「まあそうなるよね」
わかっていたとでもいうように頷きながら言った。そしてこう続けた。
「今まで二人は他のメンバーに頼らず、二人の連携プレーのみで勝っている。頼るとしたら、他のメンバーがボール持てば二人に回すだろうからその時は林田と陸人で妨害してもらう。木本は後ろに残って守ってほしい」
「わかった」「オッケー!任せろ!」
そして、いよいよ決勝戦最終クォーターが始まる。
ホイッスルが鳴った。
同時に周りのギャラリーの声援もとてつもないほど聞こえてきた。鼓膜が破れるかと思ったほど。
「待ちわびたぜ!空!」
「このまま俺たちが勝つ!」
相変わらず元気な双子だな。
例のルールによって、俺たち二組からのボールとなった。
そこからは順調に進んだ。ように見えたがそんなことはなかった。双子は二人で抑えることができてはいたがそれでも実力は互角だった。それはもう二点取られば二点取り返す。お互いがそう繰り返していた。九分間も。コート内にいる十人全員が息をあげていた。試合時間はあと一分もない。
ここで空が声を力を振り絞っ(たように感じた)てあげた。
「やれー!りくとー!!」
「え!?ここで!?なにすんの!?」
俺はそう言いながら空を見た。
内山からボールを渡され、空が遠くを飛ばすジェスチャーをした。
「投げるの??」
空は頷いた。
迷っている時間はない。残り十六秒。
双子は気づいたのだろう声をあげているようだった。 声は聞こえなかったが相手チーム全員がこっちに向かって走ってきた。
俺はその場からゴールを目掛けて力いっぱい投げた。
投げたボールは放物線の軌跡を描きゴールのある場所に向かう。
「いっけぇぇぇー―――――」
内山が叫んだ。続いて二組のみんなも叫ぶ。
そして届き、ボードにバンッと大きな音を鳴らした。
その後ボールはリングに当たりゆっくり二周した。
選手・ギャラリーみんなが息を飲んだ。
「……」
雨の音が体育館中に響いていた。
静寂の時間は長く感じられた。
ドンっ!
床にボールがついた音がした。
恐る恐る俺は点数表を見た。
「……」
点数は四十七対四十八。
つまり、ボールはネットの内側を通らずに床についたらしい。
二組は負けたのだ。四組に。あのちょっとうざい双子のいる四組にだ。
優勝は四組になり、二組の生徒はみんな何を言えばいいかもわからず、重い雰囲気になっていた。
とにかく、球技大会は幕を閉じた。
空は落ち込んでいた。
「大丈夫か?」
「ごめん」
空から出た最初の言葉は謝罪の言葉だった。
頑張っても思い通りにならないことがよくあることを改めて思い知った日になった。
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