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ルート日常  作者: まれ
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ルート⑩ 三月の卒業式と水無月先輩の迷子

年度変わっちゃったけど、最終回の卒業式です。

 俺の名前は陸人。天道陸人。高校二年生でごくごく普通の人間。

 季節は初春。三月上旬、春の暖かい日差しが射し、梅が咲くこの頃。

 先輩である三年生の卒業式が行われる。

「陸人も早くこいよー!」

 こいつは天海空。俺の唯一と言ってもいいほど仲のいい友人だ。高校に入ってから知り合ったが中学の頃にアメリカから引っ越してきたらしい。いわゆる帰国子女。両親は日本人らしいのでダブルとかではない。ただ、アメリカで仕事をするほど凄い人たちだそうだ。

 在校生として二年生は全員参加である。

 正直めんどくさい気持ちもあるが先輩たちの新しい門出のため我慢する。

「あっ」

「どうした?陸人」

「あそこにいるの水無月先輩じゃない?もうすぐ卒業式始まるけど」

「いや、誰⁉」

「ああ、そうか。空は水無月先輩と面識ないのか。ええっと、簡単に言うと方向音痴のお嬢様かな」

「へえ、お嬢様ね」

「三年間この学校通ってるのにまだ覚えてないなんて先輩さすが」

「それバカにしてない?陸人消されるよ?」

「じょ、冗談だって」

 うろうろし続ける水無月先輩が目立つ。

「先輩、ここで何してるんですか?」

 水無月先輩がこちらを見る。

「あのときの!先日はどうもありがとうございました。そちらの方は?」

「天海空って言います。水無月先輩」

「空くんですね。あ、そうそう。私は体育館に行きたいんですがまた迷ってしまって」

「いつもどうしてるんですかそれ」

「クラスの子に連れてってもらうのだけれど、途中ではぐれてしまうのよね」

 なんて人だ。連れて行ってもらってるのにはぐれるとは。どうやったら毎回はぐれるんだか。



 流れで先輩を連れて行くことになった。まあ、あの状態で放置はできないわな。見つけてしまった以上は。でも、ここ体育館から一番遠い。ほんと、三年間どう過ごして卒業になっただろ。というか教室には毎朝辿り着いてるのか心配になってきた。

「先輩、教室とか毎回ちゃんと遅刻せずに行けてるんですか?」

「みっちゃん先生が毎朝送ってくれるのよ」

「みっちゃん先生って三井先生のことですか?一年担当の」

「そうよ。私の一年生のときの担任の先生だったわ」

「えっと、三年間ずっと…ですか?」

「そうよ」

「えっと、じゃあ帰りとか家に帰れてるんですか?」

「迎えが毎日来るわ」

 そうだった。お嬢様なんだった。方向音痴がすごすぎて忘れてた。っていうか一人で帰れてないじゃないか。



 なんとか先輩を体育館に連れてくることができた。体育館に行くだけならわけないのだが途中で先輩が消える。神隠し並みに忽然と消える。それも一度ではなく何回も。その度に探す。運が良ければすぐに見つかるし、悪ければ十分ほどかかった。

 卒業式はギリギリ間に合った。俺たちは在校生の時間には間に合わず、遅刻となり軽く怒られたが理由を話すとみっちゃん先生が登場して擁護してくれた。

 できるだけ静かに体育館に入ったつもりだったがちょっと目立ち、視線が刺さる。

自分たちの席に着いたときには周りのやつらに何してたんだよと小声で訊かれた。



卒業式が始まる。

 卒業生が入場し、早速卒業証書の授与が行われる。

 一人ひとり名前が呼ばれ、受け取る。正直ここが一番退屈で眠い。そして長い。

今回は水無月先輩も迷うことなく他の生徒についていき受け取ることができていた。

 送辞、答辞も行われ卒業記念品の贈呈になった。記念品は実用的なものや誰が使うのかといったものまであった。一番いらないと個人的に思ったのはメッセージカード。嬉しいと思う人もいるだろうがどう考えても記念品枠ではない。

 内容はそれぞれの一年から三年までの担任からの応援やアドバイスなど。目立たない生徒ほど当たり障りのない文章で本当にいらない。



 卒業式が終わり、卒業生は自由時間となった。とっとと帰る者もいれば残る者もいる。そして迷子になる者もいた。

 そう水無月先輩だ。今は空もいない。ただ、二人きりの時間だ。不安しかない。

どこで迷子になっているかというと自クラスの教室を出て、水無月先輩の所属していた茶華道部の部室に行く途中で迷子になった。

 茶華道部の部室は水無月先輩のクラスの教室からそんなに離れてはいない。しかし、迷子になったという。さすがだ。いや、バカにしてないよ?全然。うん。これぽっちも。。。

 茶華道部の部室には最後に訪れてから帰りたかったらしい。で、その前に迷子になった。帰るのもお迎えが来てるだろうけど、そもそもこの人校門に辿り着けているんだろうか。

なんとなく訊いてみると「それは大丈夫よ。外縁をずっと歩いていればいずれ校門まで行けるから」ととんでもない方法で校門までたどり着いていた。それにそれを大丈夫とは言わない。

 茶華道部の部室に着いた。前は何度か通ったことがあるが中に入ったことは一度もない。中には敷くタイプの畳を置いた四畳半の部屋。生け花をすこし飾っていて、なかなか上品な空間だった。入りづらい。

部員たちは先輩を見て、上品の欠片もなく、「しぇんぱーいぃぃ!」と泣いて先輩に飛びついた。「あらあら」と言って後輩をなだめる先輩。今生の別れというわけでもないのにと思ったが先輩はお嬢様だ。度々見かけることはあっても一般人は会うことがそう易々とできる相手ではない。これくらいいいのかもしれない。むしろ、ほっこりしていい。



 しばらくして、先輩は帰ると告げ、茶華道部の部室を出た。道案内はいらないと言われ先輩は一人で校門へ向け移動した。本当にたどり着けるのか心配でこっそりと後をつけた。まるで、しゃべりかけるタイミングを逃し、ストーカーのようになってしまっている生徒だが、この際気にしない。ストーカーと言われるかもしれないが、断じて違う。これだけは否定して置く。

 本当に外縁を歩き校門までたどり着いていた。校門には黒いリムジンが止まっていた。周りの生徒はいつものことで慣れているのだろう。驚く人はいなかった。俺を除いて。

 運転手が後部座席のドアを開け、先輩は乗り込む。やがて、ドアが閉まりその黒いリムジンは走り出した。


最後までお読みいただきありがとうございます。

今回がルート日常の最終回ということで今まで読んで下さった皆様に感謝を申し上げます。

他のサイトでも活動しているので良かったらそちらもよろしくお願いします。

今後の作品もよろしくおねがいします。

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