ルート② 5月のキャンプと恋 (前編)
初投稿作品です
俺の名前は陸人。天道陸人。高校二年生でごくごく普通の人間。
季節は晩春で四月末。ゴールデンウィークという名の長期休暇が今週末から始まろうとしている時期だ。
紺色のブレザーに身を包むが、少し汗ばむほどの気温の高さを感じていた。じゃあ、着なければいいと思っただろうが今日の行事で必要なのである。まあ今回の話に必要はないんだけど。
「陸人、今週末からゴールデンウィークじゃん?」
こいつは天海空。俺の唯一と言ってもいいほど仲のいい友人だ。高校に入ってから知り合ったが中学の頃にアメリカから引っ越してきたらしい。いわゆる帰国子女。両親は日本人らしいのでダブルとかではない。ただ、アメリカで仕事をするほど凄い人たちだそうだ。
「そうらしいな」
俺はぼっちだから関係ないというスタンスなので興味がない人間の典型文で返した。
「部活の仲良い人、数人でキャンプやることになったんだ。どうせお前も暇だろ?こいよ」
こいつの部活はテニス部。ぼっちで帰宅部の俺には居心地の悪い場所になるのは明白だ。
「嫌だよ」
「なんで?楽しいよ?」
こいつ天然か?それとも嫌がらせか?
「まあとりあえず決定ということで準備しといてね」
「おいっ!勝手に決めん……」
「あ、そうだ、一泊二日だから」
そう俺の言葉を遮って言った言葉は重要事項だった。危うく聞き逃すところだった。
「もっとあるかと思った」
「なんか言った?」
思わず声に出してしまったらしい。
「いや、なんでも」
決まってしまったものはしょうがないし、楽しむことにしよう!ポジティブに考えよう。
そうして今週末になり、五月上旬、俺は荷物を持って集合場所に着いた。
「陸人!おはよう!」
「ゲッ!こいつらがいるなんて聞いてないぞ空!」
「言ったよ!陸人が忘れてるだけでしょ」
あー、記憶を遡りうっすらそんなことを言ってたのを思い出した。
「言ってたでしょ」
「空くん!なんであいつ呼んだの?聞いてないんだけど!」
どうやら、聞いてなかったのはあいつらの方だったらしい。
ちなみに、あいつらってのは空の所属しているテニス部の友人、犬山大成と女子三人。左から氷川ゆき、千田川ももか、真川まゆ。俗に三川姫と言われ、学校の中で最もかわいい三人とされている。
「まあまあ、楽しくやろうよ、よろしく天道くん」
犬山はそう言ってこの場を収めた。
「じゃあ、行こっか!キャンプ場へ」
「どうやって?」
俺は気になった。どうやってどこのキャンプ場に行くのか空から全く聞いていない。
「そりゃ、もちろん車で」
「は?」
「何言ってんの?誰も運転出来ないし、未成年だけで外泊ができるわけないじゃないか」
「そうだけど」
「大丈夫!運転手は親父だから!」
「今日はお願いします」
そんな声が複数聞こえ、犬山と三川姫は挨拶をしながら車に乗っていく。
俺も車に乗ると空のお母さんがいた。おばさんも同伴者だったらしい。正確にはおじさんの同伴者らしい。空には妹がいたはずでてっきりおじさんだけ来て、おばさんは妹ちゃんの世話をするものだと思ってた。
そして案の定、後ろの席を見ると空の妹の星ちゃんがいた。
「おはよう!陸にぃ」
「ああ、おはよう星ちゃん」
どうやら家に一人放置して置くのは問題があるので連れて来たらしい。というか家族同伴だった。今気づいたがもう遅い走り始めていた。
席順はこう。
運転席におじさん、助手席におばさん、後部座席に左から俺、犬山、空。そのさらに後ろの席に左から星ちゃん、氷川、千田川、真川だ。
かなりの大人数だ。まさかの九人。
犬山の方が先に乗ったのになぜこの順番になったか気になった人もいるだろう。それは、犬山に代わってほしいと言われたからという普通の理由だ。詳しいことは知らない。
その後、そのまま車を走らせること数十分。目的地に着いた。待っている間は各々会話をしていた。女子四人のグループと空と犬山。俺はぼっちだからか一人景色を見ていた。
今回はロッジに泊まることになってたらしい。三棟借りて、女子組、同伴天海家、男子組という風に分けられた。並びもこの順だ。
部屋に荷物を置くとすぐに始まったことがあった。それは、布団決めではなくまさかの恋バナ。話を振ったのは犬山だ。
「俺さ、好きなやつがいるんだ」
「突然だな着いて早々。で、相手は?」
「氷川さんだよね?大成」
「なんで知ってるんだよ空」
「そりゃ大成をみてたらわかるよ」
「そんなに視線追ってたりするのか?」
「それもあるね。でも一番は部活の中でも氷川さんと仲良い。早くくっつけばいいのにっていつもみんな思ってるくらいだよ」
「そんな感じに見えてるんだ俺たち」
「そうだよ大成」
「で空は……」
俺が空の話に持っていこうとすると空が遮ってきた。
「陸人はそういう話ないよねー」
「確かに天道、女気ないというか」
二人が俺の話に無理矢理持ってきた。
「そりゃそうだろ。女子と関わる機会すらないし。関わっただけでバチが当たりそう」
「でも、星ちゃんだっけ?空の妹」
「そうだよ大成。うちのかわいい星」
「星ちゃんと天道は仲が良さそうに見えたけどな」
「そうか?そんなことないだろ」
「んー、星は陸にぃって慕っているけどね」
「確かに呼ばれてるな」
「何がきっかけだったんだよ?」
「俺が空の家に初めて遊びに行ったときにたまたま星ちゃんがいて一緒にゲームしたくらいじゃないか?」
「そうだね。陸人をうちに上げて遊んでるうちに陸にぃって呼ぶようになってたよ。星も陸人をお兄ちゃんに感じて呼んだんだと思う」
「そんなことがあったんだな。俺も星ちゃんに大成お兄ちゃんとか呼ばれたい」
「浮気か(な)?犬山(大成)」
俺と空はそうハモった。
「違うって。うちの弟そんな感じで呼ばないから」
「弟いたんだ、犬山」
「どんな感じで呼ばれてるの?」
「兄貴」
「ぷっ!」
俺と空は同時に吹き出してしまった。あまりにも意外で。
「犬山、兄貴って感じしねー」
「確かにそういうイメージないよね大成」
はははは……そんなことがあった同時刻、女子棟では同じく恋バナをしていたらしい。
内容は帰りの車の中で聞いた。簡単にまとめるとこんな感じ。
まず、千田川と真川が着いて早々、『空くんかっこいい』と盛りがったらしい。そして真川が氷川に話を振り、『私は空くんじゃないよ。もちろんかっこいいと思うけどね』と返したそうで、二人とも気になったことで恋バナもとい氷川の話が盛り上がっていった。
結局どんなに詰めても氷川は相手の名前をこのときに明かすことはなかったらしい。
話は前日の晩ご飯の時間に戻り、キャンプらしいご飯にしようということでカレーライスを作ることになった。俺は普段レトルトカレーで済ましてしまうので、ちゃんと作るのは小学校のときの林間学校以来だった。天海家には天海家のカレーがあるらしく別で作られていた。千田川と真川なんか今にもおばさんに作り方を教えて貰おうとしてるし。
役割分担は三川姫が野菜などを切る係、空が米を研ぐ係、俺と犬山とおじさんで火起こし係、おばさんが天海家特製カレー係、星ちゃんがそのお手伝いということになった。空が楽そうに見えるが米の量は十合を超えてる。地味な面倒くささと大変さがある。しかし、カレーライスにおいて白米の炊き加減というのはかなり重要である。ベチャッとしたものでなくはたまた固すぎてもダメふっくらとした白米に仕上げる必要があった。それを空は託された。その点火起こし係は少し楽だと言えよう。火を起こすことは難しいがそれはおじさんがやってくれる。俺と犬山の主な仕事は枝を拾って来ること。これなのだ。よって、この役割分担において俺と犬山は当たりである。
そんなことを考えながら枝を拾っていると二人でいつの間にか相当量の枝を集めていた。それはもう使い切ることないでしょという量。こまめに戻ってたため、今まで二人が気付くことはなかった。
「おじさん、こんなもんでいい?」
「ああ、凄い量集めたね二人とも。お疲れさん!あとは任せて休んでおきな」
「はい」「わかりました」
俺と犬山は同時に返事をした。
「仕事終わったな。天道、これからどうする?」
「やることないしな。その辺探索してくる」
「俺も行くよ。どうせ暇だし」
正直に言おう。ぼっちは一人の時間が欲しかった!だって今日1日一人の時間など皆無。なんで付いてくるだよ。ほんと。
「どうした?天道。付いてきちゃまずかったか?」
「いや、ソンナコトナイヨ」
バレた!バレたよ。まさか、いや、顔に出した覚えはないんだけど?コイツ、エスパーかなにかか?
「何となく棒読みだった気もするけど、気のせいということで」
気のせいにされた。というか気のせいにしてくれた。もう終わりだ。一人の時間なんて最初からなかったんだ。
「近くに川があるらしいんだ。行ってみないか?」
俺は先程断る理由を失ったので頷いた。
「俺、さっき氷川のことが好きだって言っただろ?」
「そうだったな。どこに惚れたんだ?」
「それは、優しいし気が合うしめっちゃかわいい」
想像以上に虜になってた。
「あとでこの川で花火をみんなでやるつもりなんだけど」
「え、何それ聞いてない、空のヤツめ」
五月に花火って。普通夏休みじゃないのか。
「あはは、空全然天道に話してないな。それでな、俺その後氷川に告白しようと思うんだ」
唐突に告白宣言された。
「いいんじゃないの?頑張れよ」
正直、二人のこと知らなすぎて何にも言えない。
「緊張するなあ今晩か」
「どんなプランにするつもりなんだ?」
ふと気になった俺は思わず聞いてしまった。
「あ、いや無理に答えなくていいぞ」
「みんなで花火を楽しんで、その後片付けするだろ?そのときに一緒に少し二人で抜けてもう少し下流に行くと池があるんだよ。そこで告白しようと思ってる」
案外ちゃんと考えてた。そして、その池を寄ってから俺たちはみんなところに戻った。
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