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オタ研!  作者: ハドソン
2/3

高駄心酔という人間

「やすた!へい!」

「しんちゃん、パス!」

「やすた、ナイスパス!オラァ!」

「しんちゃん、ナイスシュート!」


高駄心酔とはどこにでもいるような元気な少年だった。当時、小学5年生。

やすたという相棒と共にサッカー部で上級生を置いてレギュラーでツートップを任せられるほどだった。恵まれた運動能力によって彼は学校内での格好の的となっていた。小さな世界といえども彼はその中でもヒーローだった。


だが、潤沢な日々はあることを境に幕を閉じた。当時、小学5年生の春休みだった。英雄は道路を横断する際に不幸にも事故にあってしまった。下半身は大きな損傷があり、長期間入院することになった。幸いなことにも先の長い命に大事はなかった。だが、これで一人の英雄は死んだ。


少年はリハビリも含めて小学6年から中学二年の終わりまでの三年間目安に施設で療養することになった。入院してから三ヶ月程経った頃だった。小学校の同級生達と先生一同からのメッセージカードが送られてきた。親友のやすたからは「中学校で待ってるぜ!」とメッセージがあった。少年はこのメッセージカードを読んで残りの寮養期間を乗り越えようと決心した。

「あいつらきっと俺がいなくて寂しくなってるんだろうなあ」


彼は苦闘の末に予定より半年早く退院することができた。

「よっしゃー!明日からの中学楽しみだぜ」

中学2年の夏休み明けに学校に通うことになった。

そして初登校初日を迎えた。少年にはヒーローが帰ってきて教室中が歓喜する。勇者が旅から帰ってくるような印象だった。

「ちわーす!待たせたな。高駄心酔、帰ってきたぜ!」

「「「・・・・・・・・・・」」」

先生にされて教卓前で朝のホームルーム中に挨拶をした。

だが、生徒たちの反応は彼が予想していたものとは真逆のものだった。

「おい、やすた!帰ってきたぞ」

「あー、高駄くんじゃん。久しぶり~。それじゃ」

「え、お前それだけか?」

「それだけって何が??」

「い、いや。なんでもない・・・」

「それじゃ」

その後に彼は同じ小学校だった連中に声をかけた。明るい反応をする生徒もいたがやすたの様に冷たい反応をする人間の方が多かった。特に小学校の時に良くつるんでた連中程冷たくなっているように感じた。見ている限りではやすたが学年内で一番慕われているような感じだった。それからスカンされた態度を取られつつ半年間過ごした。だが、我慢の限界がきた彼は改めてやすたに問いかけた。

「おい、やすた!お前や他の奴ら、どうしたんだよ!」

「どうしたんだよって君にってことかい?」

「そうだよ。それにその呼び方なんだよ」

「呼び方なんてどうでもいいだろう。・・・ったくじゃー色々と話すけど泣いて襲い掛かったりすんなよ?」

「だれが泣くかよ」

「君はさ、小学校の時は凄かったと思う。みんなのヒーローだったよ。だがな、英雄ってのは現実的に考えて一つの世界に一人しか存在できないんだよ」

「それはどういうことだよ」

「英雄がいる限り、その世界では他に強い奴がいても英雄にはなれないんだよ。それらは英雄がいる限り、それらは英雄に下されるがための引き立て役にしか成りえない。月光の前では数多の微光が霞むように」

「要するに俺が邪魔だったってことか?」

「ああ、そういうことだよ。他の奴らもそうさ。大いなる力に遜って甘い汁をすすろうとするやつもいるがそんなもんじゃ満足できねえ。英雄には誰もが憧れるがよ。共に妬ましく思うもんなのさ。そしたらよある日、英雄の席が空いたんだぜ?しかも年という単位でだぜ?たかが数日じゃあねえんだよ。そこに誰かが座るのは不思議じゃあねえだろ」

「お前、そんな風に思ってたのかよ。俺、手紙もらった時凄く嬉しかったんだぞ!あの言葉も嘘だったっていうのかよ」

「あれか…。その時にどう思ってたかなんてもう忘れたよ。そういやお前、ここで半年間関わってくれた他の奴らの話題についていけたか?」

「いや、俺がいない間の話とかですげー盛り上がってて正直ついていけなかった」

「去る者は日日に疎し。お前が人気だったこととは別で、故意ではなかっただろうがお前は席を外しすぎた」

「ああ、そうみたいだな…」

「悲しいが、誰かが死んでも体制を持ち直してこの世界は回っていく。自分が居なくなってみんなが困るだろうなんて幻想だ。まあ、ベラベラ話しちまったけど、力のないお前にはもう興味ないよ。じゃあな」

「・・・」

語り続けた少年はその場を去っていった。

「ち、チキショウ、チキショウ、チキショウ!!フザンケンナヨ!!」

少年はその後、学校を早退した。


彼は学校に通うのを辞めた。本人から事情を聴いた両親は学校に無理矢理通わせようとはしなかった。

「学校の奴らは信頼できないけど、家族なら信頼できる」

不登校になった彼はビデオゲームのオンライン対戦やサブカルチャー鑑賞、トレーディングカードショップの大会に没頭するようになった。

そんな生活を数ヶ月続けていたある日、父親が心筋梗塞で死亡した。唐突すぎて看取ることもできなかった。俺はこの時にとてつもない不安を感じた。唯一の救いであった両親。唯一心を許して話せた両親。その片方の父親が死んでしまったことによる将来への不安。

少年はベッドから起きる気力を失った。食べては寝てを過ごした。父親の他界を期に母親も調子が優れなくなり二週間後に入院することになった。少年は母親が入院したことにより、さらに活力を無くした。食べることもしなくなった。母親も長くないと連絡があった。精神的ストレスによる体の衰弱らしい。地震が起きると津波も発生するように、災害には別の災害が付随する。正直、死にたい。だが、無粋な手段は使いたくない。受動的に死にたい。首吊りだとか青酸カリとか準備とかまでする気力もない。

俺はなんで生まれたんだろうか?こんな脱け殻のような日々を辿るのであれば生まれてきたくはなかった。半出生主義を唱えたい所だが、両親を憎むことはできかねる。本当に自殺なんてものができる奴は只者ではない。電車に突っ込めるか?屋上から飛び降りれるか?あの肉塊が粉砕した時の痛みが怖くないか?首吊りの仕掛け作りなんてのも面倒くさそうだ。よく自殺の準備ができるもんだな。オーバードーズした際の内部からくるような気持ち悪さを想像するだけで身の毛もよだつ。更に怖いのは死に底なった時だ。半壊したからで身動きが取れなくなれば舌を噛むくらいしかなくなる。死を前にして生存願望が芽生えてものちに自殺未遂による身体への後遺症に後悔なんて更に惨めだ。そして何より自殺の後に親族に迷惑が掛かることを考えると心が痛む。飛び降り自殺で下にいる誰かを巻き込んでしまったからもってのほかだ。どうやら俺には他人に迷惑をかけないようにしようと思う善意があったようだ。それに俺の理性は亡命を願っているが本能は存命を願っているらしい。

少年は考えた。ひたすらに考えた。過去が真っ白の自分が最後の支えを失おうとしている。ましてはそれらの宿命から逃げるという思考は潜在意識に否定された。ならば結論は決まっている。内心、結論は出ているけれど足踏みしてしまうなんてことはよくある話だ。

「こんな不遇な人生、糞でしたと笑ってやりたい。だがな、俺はもっと人生なんて糞でしたと高らかに笑ってやりたい。『若さとは宝なり』なんて良く言うならこのせめて若い期間だけでも全力で前例尽くしてやれることやって、それでも糞でしたって笑ってやるよ」

俺は教科書を手に取り机に向かった。

「今の俺に残されたもの・・・・・・・・・・」



日が経ち、母親の容態が急変したと病院から連絡があった。俺は病院へ向かった。

「母さん大丈夫か!?」

「・・・心酔、来てくれたんだね。・・・あんたは大丈夫かい?」

「こんな時に俺の心配なんかしなくていいんだよ」

母親の声はとてもか細い声だった。

「母さん、・・・あんたの結婚式まで生きてやれそうにないよ・・・ごめんね」

「それは主治医から聞いてたから知ってる。つか、俺は結婚なんてできねーよ」

「それじゃー、お父さん悲しんじゃうよ」

母親が封筒を俺に渡してきた。

「親父が悲しむ?ん、なんだこれ」

「それ。・・・父さんが亡くなる前に書いてたらしいのよ」

「そうだったのか」

中を確認すると「心酔、俺は地獄からでも孫の顔見ることを楽しみにしてるからな!高田家の繁栄を願う!この小遣い、デートの時に使ってちょ」と記載されたメッセージカードと一万円が同封されていた。

「こ、こいつ死ぬ前にバカかよ!」

「なんという、お父さんらしいわね」

俺のリアクションに対して母親は少し口元を緩めた。

「・・・私ももうそろそろ時間だから、私からの言葉も聞いてって」

「おう」

「これから生きていく中であなたは友達と色々あったみたいだから他人を信じれないかもしれない。だけど、たくさんの人と接してたくさんの人から見て学びなさい。時には嘘をついてでも接しなさい。それらはあなたの糧になるし、その過程で良い仲間もできる。・・・・何よりそうしてくれていた方が私が安心するから」

「ああ、分かったよ。俺、全日制の高校行くことに決めたよ。それにもう少ししか期間ないけど、中学校にまた通うよ」

「そう。あなたが決めたことならそれでいいと思います。それじゃあ、元気でね心酔」

「ああ、母さん。いつか俺が死んだらよろしくな」

「馬鹿ね」

俺はブーケと父さんの写真を母さんの枕元に置いてその場を出た。これは俺の嗜好に過ぎないが、死ぬ前にきっちり話せたなら敢えて最後まで付き添わない方がいいだろう。それに俺だったらイッちまうところは他人に見られたくはない。

「じゃあな。親父と母さん…」




その後の身元引受人は母さんの弟が受けてくれることになった。まあ、叔父さんの事情もあって一緒に暮らせるわけではないけれど感謝だ。

もう数ヶ月しかないが中学校にまた通いだした。もう卒業間際だったのでもう友達作りに本腰は入れなかった。あくまでも勉強のためという感じだ。だが、嘗ての俺が一方的に親友だと思っていたやすたには言いたいことだけは伝えることにした。


「おい、やすた」

「おー、学校に来るようになったんだね。それでなんだい?」

「お前に色々言われたときはすげームカついたんだけどさ、改めて考えたらそうなんだと思う。国がピンチの時に不在の英雄なんて英雄じゃあない。そこで国を守って一番活躍した奴が新たな英雄になる。仲間がピンチの時に近くにいてやれない仲間なんて仲間とは言い難い。きっと俺がいない間にサッカー部やいろんな場面で先頭で仲間を守ってきたからそこに座れるんだろう。ヒーローには遅刻は許されても欠席は許されないってこったな」

「ふーん。色々と分かったみたいだな。だからどうなんだ?」

「俺の栄光なんてものはちっぽけな覇権争いの一片に過ぎない。だからあの日々を追いかけるのは辞めた。そしてもうお前の言っていたあの席に俺は興味ない!だけど、俺に俺が不在だったことでどうなっちまったかを教えてくれてありがとう。口はちょっと尖ってると思うが本音を俺にぶつけてくれる奴なんて他にはいないだろうからさ。『去る者は日々に疎し』か。お前も足元掬われるなよ。俺が伝えたかったのは異常だ。かつた、じゃあな!」

「おい、ま・・・・・・行っちまった」



結果的に高駄心酔は残りの時間の勉強の末にある程度の入試難度の鷲見ヶ浦高校入学したのであった。


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