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獣耳茶屋の語り草  作者: 藍色柚子
6/54

6 魔法の言葉でかわいい尻尾がぽぽぽp(ry

「開店の前にお着換えしないとね」


 狐火での悪戯がひと段落つき、開店前というところで手鞠さんが言う。

 確かに今の私の恰好はニットセーター。

 飲食店で働くような恰好ではない。


 手鞠さんは和メイドって感じだし甘菜ちゃんは巫女服だった。

 窓の外を見てみても街を行き交う人……狐たちも和服。時々大正浪漫風な感じ。

 この世界の雰囲気を鑑みるにわたしの服装はあまりに合ってない。


「はい、これが制服ね」


 手鞠さんから制服を受け取る。

 見てみると、手鞠さんが着ている和メイド服の色違いだった。

 

「これを、わたしが着るの?」

「もちろんっ」


 いや、こんなんコスプレじゃん……。

 よくこんな恥ずかしい恰好を……。


「今何か失礼なこと考えてなかった?」

「い、いや別に……」


 鋭い。

 とはいえ手鞠さんはもふもふな耳や尻尾が生えているのもあって、こういう恰好でも違和感がない。

 20年弱普通に生活してきたわたしみたいな一般女性には、ちょっとこれはきついんじゃあないかなぁ……。


 と、手渡された制服をまじまじと眺めていると、背中側の丁度腰部分より低い位置に穴が開いているのに気付いた。

 え、何この穴。

 そこのポゼーッションだと間違いなく下着見えるじゃん!!


「あの、手鞠さん? この穴はなんです……? 下着見えちゃうんだけど……」

「あ~、そっか。さくらちゃん人間だから知らないのね。これは尻尾穴よ」


 そういいながら手鞠さんは自身の尻尾をこっちに向けてフリフリして見せる。

 かわいい。

 確かにケモ耳娘達が着用することを考えるとこの穴はあって然るべきなのかも……?

 しかし、わたしには尻尾なんて生えていないので、この格好はともかくせめて穴はなくしてほしい。

 このままだと痴女だ。


「尻尾が無くてこの穴から下着が見えるのが恥ずかしいなら、さくらちゃんも尻尾を生やせばいいんじゃないかしら」

「ちょっと言っている意味が分からないんだけど……。わたしは人間だから尻尾なんて生やせないよ」

「でも、現世にはねこみみめいど? とか言う尻尾が生えてる給仕の人間がいるのでしょう?」

「それはコスプレ! 作り物!」


 手鞠さんの知識のベクトルが変!

 というか普通に考えて、体毛が薄い人間からあんなもふもふしたものが生えるわけがない。

 いや手鞠さんからはちゃんと生えてるけど!


「それに自分で生やせなくても私が生やせるから問題ないわ」

「んんん?」


 いや、何度も言うけど人間に尻尾なんて生えないよ。


「ちょっとおっしゃる意味が分かりかねますが」

「私がさくらちゃんに生やせば何も問題ないわよね」

「HAHAHA人間に尻尾なんて生えんとよ」

「曲がりなりにも私は狐。化かす程度造作もないわ」


 そう言って手鞠さんがわたしの尾てい骨あたりに手をかざす。


「神社に御坐する狐の神、いかでか此の者に加護與へ給へ……」

「うわっ、なにこれ……!」


 手鞠さんがなにやらいかにもな呪文を唱えると、わたしの背後が光りだした。

 光が収まり、見てみるとそこには本来あるべきではない尻尾が生えていた。


 5本も。


「えぇ……っと。わたしの背後にご立派なやつが複数生えとるとばってん……」


 訳が分からなくて方言が出てしまった。


「凄いわさくらちゃん! 狐の素質がめちゃめちゃに高いみたいだわ」

「狐の素質ってなにさ……」

「尻尾だけじゃ不自然だし、ついでに耳もちゃんと生やしましょう」


 そうぼやくわたしを措いて、尻尾を生やしたときのように、今度は頭に手を翳して同じく呪文を唱える。

 光が収まったところで頭を確認すべく手を伸ばす。


「ふぁぁっ……!」


 変な声出ちゃった。なにこれむずむずするっ!

 これ本物っ!?

 試しに、今しがた生えたばかりのご立派なブツを動かそうとしてみる。

 ……どっちも思った通りに動くね。

 尻尾に関しては5本もあって、わけもわからなくなりそうだと思ったけど意外と独立性がある。


「化かすって言ってたから、幻術みたいな感じで、あるように見せるだけかと思ってたんだけど……」

「別にいいじゃない。気にしたら負けよ。さくらちゃん、可愛いわ」


 可愛いと言われて嫌な気持ちにはならないけど、こう一般女性としてのアレがなんとやら……。

 ところで人間の耳ってどうなってるのかな。

 手を耳があるであろう場所に伸ばしてみると……


「なか……。耳が、無か!!」

「あるじゃない頭の上に可愛らしいお耳がぴょこぴょこと」

「それじゃないよ! 人間の耳だよ!」

「その耳で聞こえるのに人間の耳なんていらないでしょう」

「そりゃあそうだけど……」


 言っている意味は分かる……いや、分からん。

 これ完全にわたし、人間辞めてない????


「これってわたし完全に狐じゃない?」

「まあそうね」

「これもちろん人間に戻れるんだよね?」


「…………」


「目を逸らすんじゃあない!!!」


 いや、純粋に困るんだけど。

 ただでさえ神域とかいうよくわからない土地に飛ばされて、帰る手段が見つからないのに。

 さらに人間ですらなくなるとかこれも仮に帰る方法が見つかっても帰れないよ!!

 いや、別に現世に帰らなきゃいけないわけじゃないんだよね……。

 うっ、心の傷がっ……。


 心の傷をえぐってくる張本人たる手鞠さんが笑う。


「現世に帰れる保証もないし、この神域で人間のままっていうのも目立っちゃうから別にいいんじゃないかしら…………最悪人間に戻せるし……」

「ちかっと前にも似たやり取りばした気がする……」


 小声で何か言ってたけどどうせろくなことじゃなかろう。

 もはや元の世界に帰るのを諦めろと言われてる気がするレベル。


「まあもういいけどね……。どっちみち戻る手立てもないし狐としての人生、いや狐生をこれから歩ませていただくよ……」


 こうしてわたしは五尾の狐になったのである。

 腰のあたりがすんごいもふもふ。

 ぶっちゃけこういうモフモフに多少なりとも憧れがあったしこれはこれで悪くない、なんて柄にもないことを考えてしまっている自分がいる。


「ところでなんでわたしの尻尾は5本も生えてるの? 20歳にもなってないわたしが5本も生えているのに、630歳の手鞠さんが1本しか生えてないのっておかしくない?」

「私が1本しか出してないからよ」

「じゃあわたしも1本でよくなかった??」

「私だって本当は7本生えているのよ。ほら」

「話を聞いて?」


 そう言った手鞠さんの背後から、ボフンッといかにも御伽噺で狐が化けた時のような煙が出てきた。

 その煙が消えたとき、手鞠さんの背後から7本のご立派様が現れた。


「尻尾の数は単純にその狐の持つ力。ステータスみたいなものよ。私は7本あるからいいけれど、尻尾の数に劣等感みたいなものを感じる狐も多いからあまり尻尾の数についてあれこれ言うのはやめておいたほうが賢明ね」

「狐界も大変なんだね」


 ところでオーバーテクノロジーやコンプレックスという単語を知らないのにステータスって言葉は知ってるんだね。

 手鞠さんの知識の偏りを感じる。この世界にもゲームとかあるんじゃないか本当に。


「にしても弱冠19歳で五尾はそうそう居ないわ。何者なのかしらね……本当に」

「一般女子大生です」

「どんなに若くても400歳を超えずに五尾になる子なんていないのよ普通。実はさくらちゃん400歳だったりしない?」

「わたしの人生何回分よ」


 人間そんなに長生きできませーん。


「ふふ、脆弱ね」

「いきなり横柄になるんじゃない。ところで、わたしも1本にすることってできるの?」

「もちろんよ。というか、尻尾が多いともっさりしすぎて生活し辛いわ」

「それはそう。んで、どうやってやるの?」

「お手本を見せるから真似してやってみて」

「ガッテン」


 手鞠さんが尻尾をわたしに向けるので注意してみてみる。

 何やら踏ん張り始めた。


「ムムムム……う~~~っ、ほいっ!!」


 そんな気の抜けそうな掛け声を発したかと思うと、尻尾が出てきた時と同じように煙がボフンッと出て尻尾が1本になった。


「って、何も分からんっちゃけど!!」

「ちゃんと見てた? ムムムム……とやってう~~~っとやってほいっ! よ!」

「やけん何も分からんて! なしてそげん自信満々ね……」

「まあまあ、だまされたと思ってやってみて」


 えぇ……。

 とはいえ狐歴5分のわたしにできることもないので言われた通りにやってみる。


「ムムムム……う~~~っ、ほいっ!!」


 と言いながら少し踏ん張ってみる。

 うわぁ、すごい馬鹿っぽい。

 

 ボフンッ


 へ?

 何やらさっき聞いたような音がした。

 咄嗟に確認すると尻尾が1本になっていた。


「ね? 簡単でしょう?」

「解せぬわ」

*5/16 描写に関して加筆修正を行いました。

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