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獣耳茶屋の語り草  作者: 藍色柚子
3/54

3 レディの秘密も3話まで

サブタイトルを考えているときが一番楽しい気がします。


*5/9描写に関して加筆修正を行いました

「さくらちゃん、謝って済むことかは分からないけれどごめんなさいね。お粥を食べさせてしまって……」

「私もごめん。手鞠にきちんと伝えてなかった」

「いえ、いいんです……。もう現世に未練はないのですから……」

「「も、申し訳ありませんでしたぁ!!!」」


 心残りがあるとすれば、猟奇的殺人食品たるあのじょりじょりなお粥のせいでこうなったことだ。

 せっかくなら、さっきの美味しいお団子レベルの豪華な食事で最後の晩餐を迎えたかった。


「ともかく、さくらのことについて、今回の神域での食事の件も踏まえて神様に聞いてみるよ」

「私たちにも責任があるわけだし、目途が立つまでうちに居てちょうだい」


 いつまでもクヨクヨしているわけにはいかない。

 お団子はともかく、お粥の時に関しては本当にヨモツヘグイの事を知らなかったみたいだし責任を感じる必要はないんだけども。

 

「ただ、一つ問題が」

「やっぱり迷惑かな?」

「いや、大丈夫。さくらのことじゃない。問題は次いつ神様に会えるかってこと」

「え、でも甘菜ちゃん神使の狐なんだよね? 仕事で会えるんじゃないの?」


 神様に仕えているのが仕事なら、会う機会も結構ありそうだ。

 仕事とはいえ神様だからそんなに頻繁に会えるわけでもないのかな。


「奴は供え物の油揚げ回収のために全国駆けずり回ってるから。滅多に神社に居させ……居ない」

「奴呼ばわりされる神様……」


 今ちょっと不穏な言い回しが聞こえた気がするけど気のせいだよね。


「とにかく、さくらは気にせずに甘露に居てくれていい」

「さくらちゃん、遠慮しなくていいからね」

「わかりました。それならよろしくお願いします」


 二人がこう言ってくれているし、何か動きがあるまでは居させてもらおう。

 どのみちここを出ても、行く当てがないし。

 でも流石に、何もせずただこのまま居させてもらうのも申し訳なく思う。


「せっかく居させて貰うわけだし、お手伝いしたいんだけど何かないかな」

「気にしないでいいわよ。成り行きとはいえお客さまにそんなことは……」

「ああああありがとうさくら! じゃあ手鞠の代わりに食事を作って欲しいかな!」


 手鞠さんを遮るように甘菜ちゃんが慌てた声で言う。

 甘菜ちゃんにクールな印象を抱いていたけど、こんなあからさまに慌てたりするんだね。

 そしてわたしの耳に顔を近づいて囁く。


「あのお粥を食べたのなら……分かるよね……?」

「あぁ……。甘菜ちゃんも大変なんだね……」


 今日から甘露の食事担当はわたしになった。

 いや、ならなければ、本当に死んでしまうっ……!


 今までの食事が散々だったのであろうことは、甘菜ちゃんのさっきの反応を見れば明らかだ。

 わたしがきちんとご家庭の栄養に気を遣わなけば!


「そういえば、さっきまでお店の開店準備をしてたみたいだけど、何か手伝うことない? まだ食べていないなら早速朝ごはんを作ってもいいし」


 わたしがこの店舗スペースに入ったとき、手鞠さんは台ふきをしていた。

 もし店のほうでも何かあったら、食事の準備だけというのも何だし、お手伝いしようと思う。

 殺人級お粥で殺られそうだったけど、一応介抱していただいた身だしね。

 それに、甘菜ちゃんは朝帰りで朝食を食べてないかもしれない。


「私は帰り道で食べてきた。……死にたくないからね」


 甘菜ちゃんの最後の死にたくない宣言、小声で言っていたけどわたしにはばっちり聞こえた。

 わたしも死にたくない。


「私も開店準備を始める前、さくらちゃんにお粥作るときに食べたわ」


 食べたっ……!?

 もしかして、あの毒物を食べてぴんぴんしているとでも言うの……!?


「せっかくお手伝いを申し出てくれているわけだし、開店準備の続きをお願いしようかしら」


 お安い御用だ。

 これでも飲食店でバイトをこなしている身。いや、現世に帰れないなら"こなしていた"。になるのかな。

 元バイト先の開店準備は何度も経験している。

 バイトリーダーも時間の問題だろう、と店長のお墨付きも貰っていた。

 もしかして、私……有能?


「わたしは何をすればいいかな?」

「うーん、私はお菓子の仕込みがあるから……。じゃあ、さくらちゃんは残りの台ふきをお願いするわね」

「オカシノシコミ?」


 手鞠さんに料理をさせまいと、わたしが料理担当になったのにお菓子を作ると……?

 いや、何かの聞き間違いかもしれない。

 甘菜ちゃんに目配せをして確かめてみる。

 視線を向けると、甘菜ちゃんは苦笑いしてわたしに近づいてきた。


「……大丈夫。普通の料理は産業廃棄物だけど、ことお菓子に関してはプロだから」

「嘘だっ!!!」


 美味しいお菓子を作れる人が、あの殺人粥を作るわけがない。

 一般的に(もちろん個人差はあると思うけど)料理よりもお菓子を作る方が難しいと言われている。

 最悪料理は目分量でも食べる分には問題ないことが多い。

 でもお菓子作りは違う。分量を適当にすると失敗する。

 前に妹がレシピを見ずに作ったお菓子を試食をしたところ、殺人粥ほどではないが大変アレな味をしていた。

 まさか、あのお菓子を超える食べ物がこの世に存在していたとは。


「二人ともなにコソコソしてるの?」


 ギ、ギックーーーー。

 

 何かごまかさなければ……。

 と、思っていたところで甘菜ちゃんが動く。


「さっきの手鞠が作ったお団子、美味しかったって話してた」

「HAHAHA。手鞠さんが作ったって……。手鞠さん? え、マジで?」


 さっきのすんごい美味しいお団子、本当に手鞠さんが作ったの……?

 おかしい、ありえぬ。そんな筈はない。

 

「ふふっ、ありがとう。500年作り続けていても美味しいと言われると嬉しいわ」

「ごひゃっ!? 手鞠さんって一体何者」


 500年作り続けているのに料理はアレなんだね。とは口が裂けても言えない。


「この街の狐はみんな長生きなのよ。わたしはもう何年生きていることか」

「630歳」

「こら、甘菜。レディの年齢はそう軽々と口にするものじゃないわよ」


 630歳。途方もない。

 そんなに生きていたら何をすればいいのか分からなくなりそう。

 30年で世代交代と考えると、20世代以上もご先祖だということになる。

 手鞠さんから見たらわたしはひひひひひひ……ひ孫のようなものだ。

 おばあちゃんどころの話じゃない。

 わたしのような人間と時間の感じ方が違うのだろうか。


「甘菜だってもう今年で600歳じゃない」

「レディの年齢は軽々と口にしないものじゃなかった?」


 30歳差はもはや姉妹というよりは親子じゃん。

 明らかに13,4歳にしか見えないのにわたしの20倍の年齢。

 人、いや狐は見た目に依らないものということか。


「よく500年もお店を続けられるもんだね。途中で飽きたりしなかったの?」

「飽きはしなかったわね。たまに面白いお客さまが来ることもあるし、三途の川から迷い込んだ人間のお客さまも来るの。500年も働いた。というよりは、働いていたら500年経ってた。というほうがしっくりくるわ」

「三途の川から迷い込んだ人間の客というのはわたしと違うの?」


 三途の川から、ということはその人たちは亡くなっているのだろう。

 わたしは死んだ記憶はない。いや、もしかしたら死んでしまったのかもしれないけれど記憶にはない。


「三途の川から来た人間は皆、自分が死んだことを覚えていた。それに対してさくらはそのことを覚えてない。600年生きてきてそういう人間は初めて見たね」

「そういうものなの?」

「いわゆる現世で神隠しと言われている現象で、生きた人間がこの神域に来ることはある。でも、神隠しは神様がその人間を気に入ってこの世界に連れ込んでる。そのせいもあってか、ずっと傍に居させるせいで神社から外に出してもらえない」

「監禁……!? 神様……恐ろしい子!」

「別に檻に入れられてるわけじゃないし、どちらかと言えば軟禁かな」


 神社にお勤めしているからか知っているのだろう。

 にしても軟禁ってネタ抜きにしても恐ろしいよ。

 甘菜ちゃん曰く、基本的に神様の身の回りのお世話をさせられるらしい。

 ちなみに神使の狐は神様の世話もするみたいだけど、基本的には神社にまつわる業務を行っている。とのことだ。


「そういえば、面白いお客さまというと、350年くらい前に千利休さんという方がいらっしゃったわね」

「千利休! あの茶湯で名を遺す偉人さんじゃん!」

「ここに来るなりいきなり『珈琲だ! 珈琲を出せ! 珈琲を出さぬか!』と言われたときは何事かと思ったわ」


 一瞬で茶道を極めた茶人のキャラが崩壊した。


「私もその場に居合わせた。茶屋に珈琲を求めるのは間違ってる。なんとも頑固そうな翁だった」

キリがいいのでここで締めます


お気づきの方は時代の整合性……と思われるかもしれませんが気にしてはいけない。

一応理由はあります。


なんとブックマークをいただきました。励みになります。ありがとうございます。

4/11現在書き終えている9話まではきちんと毎日投稿しますので、何卒宜しくお願い致します。

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