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獣耳茶屋の語り草  作者: 藍色柚子
2/54

2 もちゃもちゃした所でじゃりじゃりした物に囚われる

*5/9描写に関して、加筆修正を行いました

 改めてお店を見てみると手鞠さんとわたし以外に人の気配がない。

 あのお粥クオリティだし、他に働いている人が居そうだけど……。

 今日は休みなのかな?


「手鞠さん、人の気配がないけど今日はお店休みなの?」

「休みじゃないわよ。まだ開店前だから人が来ていないのよ」


 そういった手鞠さんが店の外を指刺すと、日がまだ出たばっかりのように見えた。

 大学生には早すぎる時間だね。


「でも普通他にも店員さんが開店準備とかしてるよね?」

「店員は私一人。ほかに居ないわ」

「一人?」

「えぇ。接客からお客様にお出しするお菓子作りまで全部やっているわ」

「へえ、色々と一人で。大変だ……って、お菓子作りまで……!?」


 突如フラッシュバックしてきたお粥の味。


 そんなお粥を作った張本人が作ったお菓子とか想像しただけで天に召されそう。

 そんなものを店に出してもいいの?

 この店で死人出てない? 大丈夫?


「常連さんが居るくらいには人気店なのよ」


 あのお粥の味からすると信じがたい。

 でも蓼食う虫も好き好きというし、毒食う人も……いや、ないね。

 というかシレっと、わたしの中で毒扱いになってるのちょっと笑える。


「ところで起きたときにも聞いたけど体は大丈夫? 森の中で倒れていたって聞いたのだけど」

「体は大丈夫だけど、森の中で倒れてたってわたしの身にいったい何があったの」


 ここに来る前の記憶はやはり、大学で講義を受けたところまでしか覚えていない。

 森で倒れていた? 

 森なんてわざわざそんなところに行く理由が無い。

 

 わたしの行動範囲近辺で森というと大学の裏にある森しか思い浮かばない。

 仮にわたしが倒れていたのが大学の裏の森だとしても、何をしに行くというんだ。


 そんな風に倒れる前の事を思い出そうとしていると、茶屋の入り口がガラガラと音を立て開かれた。


「ただいま」


 開けられた入り口の方から凛とした声が聞こえてきた。

 その声の主を見ると、巫女服を来た銀髪の少女。

 身長はわたしより頭一つ低く、たいへん可愛らしい。


 そんな彼女にも当たり前のようにケモ耳とモフモフとした尻尾がくっついていた。


「おかえり甘菜」


 手鞠さんが返事をする。どうやらこの家の住人のようだ。


「ん、目覚めてるね。調子はどう?」

「あ、うん。大丈夫……あなたは?」


 甘菜ちゃんと呼ばれたケモ耳少女がわたしに尋ねる。

 わたしが倒れていたことを知っていたみたい。


「私は甘菜。手鞠の妹」

「甘菜ちゃんね。私はさくら。よろしくね」

「ん、よろしく」


 見た目は幼いけど話し方がクールな感じだから大人びて見える。

 見た目は子供、頭脳は……。


「さくらちゃん、数日前に甘菜に拾われたのよ」

「拾われ……?」

「拾ったというよりは上に押し付けられた」

「押し付け……?」


 わたし、もしかして厄介者扱いされてる……?


「『あたしには無理ね! あんたが面倒を見なさい!』と言われたからここに連れてきた」

「ご迷惑をおかけしました……」


 やっぱり厄介者扱いされてるよね!?




「ところで、ここが茶屋だということは分かったけど、そもそもここってどの辺りなの? わたしの知る限りでは甘露というお店は知らないんだけど……」

「少なくともここはさくらが居た世界じゃない。貴女が人間なのがいい証拠」


 サクラガイタセカイジャナイ? チョットイッテルイミガヨクワカンナイ。

 わたしが人間なのがって、いかにもわたし以外全員人間じゃないみたいな言い方するじゃん。


「ここは三途の川からちょっと離れたところにある街」

「三途の川!? てことはわたし死んだの!?」

「いや、そうとは言い切れないわ。簡単に言うとここは現世とあの世がもっちゃもっちゃとした感じのところよ」

「もちゃもちゃって何ですか豆腐か何かですか」

「そのせいか昔は豆腐町と呼ばれていたわ」


 ここに住んでいた人たちの感性、何もわからない。

 居酒屋のお通しで冷奴が出てきたから名付けましたみたいな適当具合。


「手鞠、話逸れてる」

「ふふっ。じゃあ話を戻すわね。ここはまあいわゆる神域みたいなものね。神様が住んでいるわけだし。神様的に、別に死んでいるわけじゃないから黄泉の国にいる必要はない。でも現世の神社に居続けるのも暇……ということでこの世界ができたらしいわ」


 神様、思ったより俗っぽいな。

 って! 神様が住んでる……?

 そんな世界に狐の耳が生えた絶世の美少女が二人。

 これはつまり……。


「お二人は神様……なのでございましょうですか?」


 人生終了のお知らせ。

 神様にタメ口使ってたの完全に罰あたりじゃん。

 天罰か何か下るんじゃないの?

 

「違うから敬語とか使わなくていい。というかすごく変」

「私たちはただの狐よ。私はさっきも言った通りこの茶屋の店主をしているわ。あと何その敬語」


 二人してそこに引っかからないで。


「私は稲荷神社の神使の狐。基本的にこの町は神様以外は狐しかいない」

「つまりケモ耳天国ってことだね」


 何ともまあ大変なことになったもんだ。

 状況を鑑みるにつまりここは異世界とかいうやつだろうか?

 一応、現実世界の常識が多少通じてるし、完全に違う世界というわけでもないみたいだけど。


 でも神様の世界なんて到底信じがたい。

 悪い夢でも見ているのではなかろうか。

 あ、でもこんなモフモフで可愛いケモ耳少女が出てくる夢なら悪夢ではないのかな。




「長々とお世話になるわけにもいかないし、どうやって帰ればいい?」


 夢にしろそうでないにしろ、早く現実に戻らないと明日のバイトに響いてしまうから帰り方を二人に聞いてみる。


「うーん、私はよく分からないわ」


 が、芳しい回答は得られなかった。


「たまに人間がこの町にやってくるけれど、みんな三途の川から迷い込んできた既に亡くなった人達だし……」

「亡くなった人って……やっぱりわたしって、死んだの?」

「まだ完全に死んでしまったと決まったわけじゃない」


 二人の口ぶりから察するに、どうやらそもそもここは人間が来るようなところではないらしい。

 普通なら、亡くなったあとに三途の川の近くに転送され、そのまま川を渡って黄泉の国へ、という具合らしい。

 でもわたしはそもそも三途の川もクソもない、ましてやこの町を挟んだ反対側で発見されたとのことだ。


「とりあえず余計なことはしない方がいい。次の神社のお勤めの時に神様に聞いてみる」

「余計なことというのは?」

「神様に無断で酒や塩を撒いたり供えたり、神様が居るときに道の真ん中を歩いたりかな。あとは、現世の人間ならば神域で作られたものを食べるとか」


 現世の人間が神域で作られたものを食べてはいけない。

 大学の講義で習ったヨモツヘグイというやつに似ている。

 講義では神域ではなく黄泉の国の食べ物と教わったけど……。


 でもここは現世とあの世がもちゃもちゃしたところらしいし、どちらも大差ないのかな……?

 とにかく、あの世で食事をすると現世に帰ってこれなくなるという話だ。

 そしてわたしはその行為にとてつもなく心当たりがある。


 わたしはその心当たりたる手鞠さんの方を見る。


「…………」


 ……目を逸らされた。


「もう遅いよ! お粥食べちゃったよ!」

「まあまあさくらちゃん、とりあえずこれでも食べて落ち着いて?」

「あ、うん。いただきます……。ん! このお団子すごく美味しい」

「さくら……」

「はっ!? 美味しそうだったからつい……」


 また罪を重ねてしまった。

 罠だ。ここが神域だなんてわかる前にお粥を食べてしまったし、あんな美味しそうなお団子を見せられたら食べないわけにはいかない。

 お団子めちゃくちゃ美味しい。殺人粥の後なのもあって最強にんまい。


 いやいや味はどうでもいい。問題は帰れないことだ。


 帰れない……?

 まだやり残したことがある。

 大学を卒業してない。

 バイトのシフトに入らなきゃいけない。

 今年はまだ旅行に行ってないし。

 家の近くにできた新しい喫茶店も行っていない。

 何より積みゲーが30本程残っている。

 まだピチピチの19歳。やることは沢山ある。

 

 私が凹んでいると手鞠さんに諭される。


「べ、別に帰る必要はないんじゃないかな。楽しいわよ、この世界も」

「もしかすると現世に帰る必要がある特別な人物だったりするんじゃ?」


 グサッ。

 甘菜ちゃんの言葉が刺さる。


「さくらは現世でどんな仕事をしてた?」

「飲食店で働いて……」

「偉いわねぇ。きっと素晴らしい店長だったのよ……!」


 グサッ。

 手鞠さんの言葉も刺さる。


「い、いや……ただの学生のアルバイトです……」


「「…………」」


「き、きっと学業優秀だったんだ。そうでしょさくら」


 グサッ。 

 トドメを刺された。わたしのHPは0だ。


「ギリギリ落単を回避する程度の学力ですすいません……」


『…………』


 あれ? もしかして帰る必要ない……?

 わたし……いらない子……?

2話にして早速辻褄や世界観がちょっと怪しい気もしますが気にしてはいけない。気にしてはいけないのだ。

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