1 おじいちゃん。強く生きるからね。
当方執筆初挑戦につき、誤字脱字言葉の誤用等多数あるかもしれません。お気を付けを。
*5/9に描写に関する加筆修正を行いました
「それではこれで今日の講義は終わりとする」
眠くて退屈な90分が終わった。
今日も長い1日だった。
大学生になってからもう1年が過ぎ、大学2年生になった。
大学生活の方はさすがに慣れてきたけど、講義は長いし難しいのでしんどい。
「さくら~。食堂行くよ~」
「は~い。今行く~」
帰り支度を終えたところで友達に呼ばれ、席を立つ。
今日はこの後、友達と大学の裏にある森に肝試しに行く予定になっている。
とはいえまだ講義が終わる時間なだけあって、夕方になったばかりだ。
暗くならないと肝試しも何もないので、食堂で夕飯をとりながら待つことになった。
肝試しはちょっと怖いけど、大学生活において友達付き合いをおざなりにするわけにはいかない。
過去問とかは友達経由でしか回ってこないし、代返お願いしたり……。
い、いや。いけないことっていうのは分かってる。分かってるけどね。
良い子のみんなはわたしの真似をしちゃダメだぞ!
もちろん、一人のほうが色々気楽なのは分かるから、ボッチを馬鹿にしてるわけじゃないよ。
基本的に大学関係とバイト以外では家に引きこもってゲームしかしてないしね。
食堂でいい具合に時間が潰せたので肝試しがスタートする。大学裏の森に出発だ。
いつものメンツなので全員女子。
悲しいかな。男っ気がないメンツなので、男女ペアできゃっきゃうふふ的なものはない。
寂しく女同士で身を寄せ合いながら肝試し、ということもなく、非情にも一人ずつ森に入ることになった。
ルールは簡単で、森の奥に置かれたお札を取って帰ってくるだけだ。
よしなに順番を決めたところ、わたしが一番最後になった。
前の人が戻ってきたところでとうとうわたしの順番が来た。
怖くても泣き言を言っている暇はないので恐る恐る森に入る。
「うぅ……。暗いなぁ……。さっさとお札とって帰ろ」
お化けや幽霊が出てくるとは思ってないけど暗闇は単純に怖い。
暗いというだけで何となく不安になる。
別にお化けや幽霊が怖いわけじゃないよ。
……ホントだよ。
スマホを使って周囲を照らしながら森の奥に歩みを進める。
森に入ってから鬱蒼な景色しか広がっていなかったけど、だんだん木々が開けてきた。
そんな開けた広場の奥の方に、月明りにほんのり照らされた祠のようなものが見える。
全体的に朽ち果て、ところどころ苔が生した小さな鳥居が祠の前に置いてある。
鳥居を覗くと、祠の前の小さな石壇にお札が1枚置かれているのを見つけた。
「これを持って帰ればいいんだね」
事前に見せてもらったお札の柄と一緒だね。
せっかく神社っぽい祠にお邪魔したわけだし、お参りでもしよう。
別に信心深いわけじゃないけれど、こういうところに来たらなんとなくお参りしたくなる。
……ならない?
「夜更けにお邪魔しました」
そう言って二礼二拍手一礼をしてお参りし、置いてあるお札を手に取ろうとする。
すると、お札にわたしの手が触れた瞬間お札から光が放たれた。
え、何このお札。光るの?
幻想的な演出にしようと友達が仕込んだのかな。
まあいちいち気にしても仕方ないしさっさと戻ろう。
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虫の声すら聞こえぬ真夜中の森。
静寂の中に草をかき分ける音が一つ、また一つ。
「なんじゃ……これは……?」
森の奥深く、茂みの中に何やら影が一つ。
少女の姿をしているそれは、普通いるはずのない何かを見つけ驚きを浮かべる。
その何かに近づいていくとその何かもまた少女の形をしていた。
「人か……? なぜこのような場所に人間が……。意識はなさそうじゃな」
倒れている少女に近づいたのじゃ口調の少女は訝し気に呟く。
「このまま放置しておくわけにもいかぬし……。下の者にでも引き渡すとするかの。妾に世話役は間に合っておるし」
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「ふぁぁ……」
眠い。
「あれ……? ここは……?」
見覚えのない布団だ。
そもそもわたしの部屋はベッドのはず。
周りを見渡すといわゆる現代風なわたしの部屋とは大きく違う。
THE・和室! って感じだ。
昨日、寝る前の記憶を思い出そうとする。
確か大学には行った。講義を最後まで受けたのは覚えている。
しかし、その後の記憶が何もすっかり抜け落ちていた。
「うーむ。釈然としない。こんなにはっきりと思い出せない、なんてことは滅多にないんだけどなぁ。3日前の夕食は思い出せるのに昨日の夕食は思い出せない。局所的に認知症になったかわたし」
とはいえ、昨晩のことを思い出せないにしても、ここがわたしの家ではないことは分かる。
他人様の家なら迷惑になる前に出て行かなきゃ。
コンコン。
そんなことを考えていると、ノックをする音が聞こえてきた。
まあ襖だからコンコンというよりはボスッボスッ。って感じだけど。
とにかく、ノックがされた後、襖が開けられた。
「お目覚めのようね。体のほうは大丈夫? ずっと眠っていたから心配したのよ?」
「あ、はい。ありがとうございま……す!?」
和服にエプロンの、いかにも和メイドのような恰好をした、見目麗しいお姉さんが心配そうにわたしに声をかけてくれた。
のはいい。
が、頭の方を見るとわたしにはないパーツがくっついていた。
「みみ……? ケモ耳!?」
和メイドお姉さんはケモ耳お姉さんだったのだ。
綺麗な金色の髪にモフモフしたご立派な耳がついている。かわいい。
お姉さんの背後を見ると見るからにモフモフした尻尾もついている。かわいい。
「ふふっ。狐だから耳くらいついてるわよ」
いやいやいや、人にそんな耳はついてないよ。
というか、狐が人の姿にならないよ。
いやでも、化けたら人の姿になれるのかな。
ぬわーーー! わけわかんなくなってきた。
「とりあえずこの耳については置いといて、お粥持ってきたの。食べる?」
「置いとくんですかわたしにとっては結構重要なんですけど……。でもありがたくいただきます」
梅干しが乗った美味しそうなお粥だ。
見ているだけで食欲が湧いてくる。
ホカホカと湯気が立っている、作り立てほやほやだ。器あっつ。
「召し上がれ。熱いから気を付けてね」
その忠告はちょっと遅いかな。
「……っと、私はちょっと表に仕事残して来ているから席を外すわね」
「あ、はい。色々とありがとうございます」
そう言って部屋からケモ耳お姉さんが出ていく。
それじゃあ遠慮せずにいただきますか。
木製の匙でお粥を掬って口に入れる。
「はむっ。うーん。このお粥特有のじょりじょりしてぬるぬるとした触感。舌先から口全体に広がるありえない刺激がまた意識を飛ばしそうで……」
あれっ。数年前に亡くなったはずのおじいちゃんの姿が見えるぞ……?
あ、手を振ってる。
「さくら、まだこっちに来るのは早いぞ。祖父不孝者め」
「おじいちゃんどうしたのこんなところで」
「ワシのことはどうでもいい。さっさと戻れいっ!」
………。
「ぐえぇぇ……。なんですかこの殺人的なお粥のような何かは……」
ケモ耳お姉さんには申し訳ないけれど驚異的なまでにまずい。
まず過ぎて見えてはいけないものが見えてた。おじいちゃんとかおじいちゃんとか。
唯一の救いはケモ耳お姉さんが居なかったことだ。
ケモ耳お姉さんの前でこんなリアクションできないし、逆にリアクションせずに食べられる代物でもない。
「えらい目にあった……」
何度も生死を彷徨ったけどなんとか完食した。
おじいちゃんと20回くらい会話したけどそのたびに、『さくら、頑張って生きるんだ』『何回ここに来るんだ。いい加減にしなさい』と励まされた。わたし何も悪くない。
このまま寝るのも気が引けるし、食器も放置するわけにはいかないのでケモ耳お姉さんを探しに部屋を出る。
部屋を出ると、長い廊下が左右に広がっていた。
この廊下だけでもわたしが一人暮らしをしている自宅くらいの広さがありそうだ。
どっちに行けばいいのか分からないのでとりあえず適当に彷徨ってみる。
襖ばっかりで何の部屋か特定しづらいな……。
勝手に襖を開けるのも少し気が引けたので、そのまま道なりに廊下を歩いていると、奥の方に暖簾が見えてきた。
「お店?」
暖簾をくぐるとお店のような広い部屋に出た。
蕎麦屋のような和食を扱うお店みたいな雰囲気。
座敷や机が並んでいる。
キョロキョロと部屋を眺めていると、奥の座敷席の机を台ふきで拭いているケモ耳お姉さんを見つけた。
ケモ耳お姉さんもこっちに気づいて近づいてくる。
「お粥、ご馳走様でした。ところでここは……お店か何かですか?」
お粥が入っていた器をお姉さんに手渡す。
「お粗末様でした。ここは私が切り盛りしている茶屋の甘露よ。あと、私はお姉さんじゃなくて手鞠って呼んでね。よろしくね」
「手鞠さんですね。よろしくお願いします。わたしのこともさくらって呼んでください」
「ふふっ。話していて窮屈でしょう? そんな堅苦しく話さなくていいわよ。普通に話してちょうだい」
「窮屈……だね。それじゃあお言葉に甘えて普通に話させてもらうね」
年上っぽいお姉さん……手鞠さんがそう言ってくれたので普通に話させてもらおう。
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