96.魔法学会②
俺たちがフルドレクスのあちこちを観光してから一週間とちょっと。
フルドレクス魔法国に来てから数えると約一ヵ月。
俺たちは遂に魔法学会への加入を認められた。
そういうわけで、俺たちは魔法学会への顔出しをすることになったんだけど……。
「うわー! なんだこれ! すごいなー」
魔法学会は複数の立派な塔が連絡通路で繋がっている、奇妙奇天烈な建物だった。
ここではさまざまな研究者が魔法の開発にいそしんでいるという。
「はしゃぐのはやめておけ、アイレン。また田舎者だと言われるぞ」
「それ、なんか懐かしいフレーズだなー」
などと会話しながら受付に向かうと。
「申し訳ありませんが、こちらは関係者以外の方は……えっ、もしかしてラウナリース王女殿下ですか!?」
受付の女性がラウナを見て、びっくり仰天した。
「えっ。わたくしを知っているのですか?」
「は、はい。妹が侍女でして、王女殿下の御神眼については聞き及んでおりました。カトレアというのですが、王女殿下が覚えているはずもありませんよね……」
「まあ! カトレアのお姉さまなのね! 話し相手があまりいないわたくしと、よくお話ししてくれたわ。彼女はどうしているのかしら?」
「暇を出されてしまって、もう田舎に……」
「そう……わたくしがもっとしっかりしていれば、こんなことには……」
「いえ、ラウナリース王女殿下になにひとつ落ち度はないと妹も申しておりました! どうかお気を確かに……」
何やらラウナと受付さんが盛り上がっていて、なんだか邪魔できない雰囲気だ。
「ねえねえ」
後ろではミィルがひそひそとリードと内緒話を始めた。
「ラウナってこの国のお姫様なんだよね? あたしもあんまり人間のことは詳しくないけど、普通お披露目みたいなのするんじゃないの?」
「それは……まあ、ラウナリースにも事情がありましてね。私も詳しいわけではありませんが……」
「というかこれ、あたしたちの中にラウナがいるって受付の人に知らされてなかったってことだよね」
「ええ、随分とあからさまな嫌がらせですね」
うーん、人類は相変わらず遠回しなことをするんだなぁ。
言いたいことがあるなら真正面から言ってくれればいいのに。
「まさか、ラウナリース王女殿下がセレブラント留学組だとは露ほども知らず、ご無礼を」
「いえ、どうか気に病まないでください」
「どうぞお入りください。すぐに相応しい案内の者を手配しますので」
「どうぞよしなに」
ラウナと受付さんとの間で話は無事に済んだ。
その後、俺たちは案内の人に応接間に通された。事務的なやりとりだけだったけど、むしろ今まではそういう人の方が多かった。
そうなるとフルドレクスでのラウナの扱いが逆に気になってくるわけで……。
「アイレンさんも、おかしいと思ってますよね」
「え? ああ、いや、俺は……」
「顔に出てましたよ」
どうやらバレバレだったらしい。
ラウナはクスッと笑ってから、自分の身の上を俺にだけこっそりと語ってくれた。
「実を言うと、お父様は神眼を持つわたくしを頑なに外に出そうとなさらなかったのです。国民に顔を知られていないのもお披露目をしなかったからですね。臣下がこっそり外に出る機会をくれなかったら、わたくしは未だに城の中だけを自分の世界と錯覚していたでしょう。ですが、わたくしを次期女王に担ぎ上げようとしていた貴族派閥が政争に敗北して以来、わたくしは王族として扱ってもらえなくなりました」
「そう、なんだ?」
よくわからないけど、ラウナの口調はさっぱりしている。
そんなに引きずってはいないみたいだ。
「わたくしを一番可愛がってくれていたお父様が病に臥せってしまったのが決め手でしたね……」
父親のことを話すときだけ、ラウナはどこか遠い目をした。
昔を懐かしむような、そんな感じの横顔。
「セレブラント王都学院にも半ば追放のような形で入学してきたんです。お兄様は王族印の携帯すら許してくださいませんでした。だからお姉さまに手紙をしたためるときにも困ってしまって……後見人になってくださったレンデリウム公爵に貴族印をお借りしなくてはなりませんでした」
「ああ、そういえば……」
ラウナが初めてくれた手紙の封蝋にはセレブラントの貴族印が使われてた。
あんまり気にしてなかったけど、よく考えたらフルドレクスの王族印が使われてない時点でおかしな話だったんだな。
「失礼します」
扉がノックされると、ラウナは余所行きの顔に戻った。
俺が初めて出会った頃の、かたい表情に。
「どうぞ」
「お待たせしました、ラウナリース王女殿下」
立派なローブ姿の偉そうな老人が応接間に入室してくる。
「お久しぶりですね。賢者ライモンド」
ライモンドと呼ばれた老人は、ラウナに臣下の礼を取った。




