94.浜辺の大魔法③
「うーん。じゃあ、俺はミィルが割った海を元に戻すよ」
「なにっ? ミィルさんが魔力で維持しているのではないのか!?」
俺の言葉を聞いたリードが目を見開く。
「んー。どうなんだろ? ラウナの神眼にはどう視えてるー?」
「えっ、なんでミィルさんが把握してないんですか!?」
今度はラウナがぎょっとした。
ミィルは本能っていうか、無意識でやってるだろうからなぁ。
「ええっと……海の形を維持しているのは水薔薇のときと同じ精霊の加護ですね。あれっ、でもあのときは確かアイレンさんが……」
「そうそう。ミィルの感覚だけだと、さすがに薔薇の形がテキトーになっちゃうから。そこだけは俺の仕事だったんだよ」
ラウナの感想に答えると、それを聞いていたリードが顎に手を当てて考え込んだ。
「規模と制御の問題か? ううむ、確かに竜王族の魔力が絶大でも、繊細な操作はまた別問題というわけだな……なるほど、ミィルさんのふんわりとはそういうことか……」
へー、今のでそこまでわかるんだ。リードすごいな。
「じゃ、今度は俺がやるね。えーと……」
俺もいつもより若干手を抜く感じで見せたほうがいいのかな?
あれ、でも俺の場合はいつもの感じで充分ならいつもどおりにやればいい?
ま、いっか。ふんわりふんわり。
術式自体はとってもシンプルに、精霊に加護を解除してもらうような雰囲気で……。
「あっ」
「どうした、失敗したのか?」
思わず漏らした声をリードが聞き咎める。
俺は笑って首を振った。
「ああ、いや、ちょっとね。たいしたことじゃないんだけど――」
「見てください! 海が戻っていきます! 精霊の加護がなくなって元通りに……あれ?」
嬉々としていたラウナの顔が曇った。
「浅瀬はともかく、水平線の向こうの水柱がすごいことになってませんか?」
「え、あ、うん。俺がやったのは割れてた海を支えててた精霊に『もう加護をやめていいよ』って伝えただけだから」
ゆっくり元に戻そうとすると、どうしても魔力を持っていかれるからなー。
で、今みたく海水の壁を支えていた精霊の手がパッと離れたら何が起きるかっていうと。
「あはは、そんなことしたら海が元に戻るときに水同士がぶつかってザバァッってなってドカーンってなるじゃん! アイレンふんわりしすぎー」
「ははは。ふんわり失敗だなー」
なんて俺とミィルが暢気に笑っている間にも、水平線の向こうから水柱が波となってこちらに迫ってくる。
「まずい! 高波になってこっちに来るぞ!!」
「きゃあああっ!」
リードとラウナは慌ててるけど、これぐらいなら問題ない。
「だいじょぶだいじょぶ。ミィルがいれば結界で……」
「えー、アイレンの後始末をあたしがやるのー?」
「ん、それもそっか。じゃあ……」
ミィルが気乗りしない様子だったので、手を掲げて即席の術式を組む。
俺があの高波の衝撃波を防げる壁を作ろうとすると、それはそれで魔力を食いすぎるから、これもやっぱりふんわり行こう。
脅威となるのは波の質量による衝撃なんだから、そこだけ和らげてあげればいい。
だから――
「エクスプロード!」
俺は、高波に向かって爆発魔法を解き放った。
「波が爆発したぞ!」
「でも、あれでは……」
波の勢いは弱まっているけど、それでもこちらに向かってくる間にまた勢いを取り戻していく。
「さすがにただのエクスプロード一発じゃ足りないか。だったら」
やり方を変えて百発でも千発でも撃てばいい。
魔力を解き放つ箇所を手のひらから両手指先に変更。
一度の発動で十本の指から同時発動。エクスプロード一発分の魔力で連発できるように調整。
ただ一発の威力は抑えつつ、アレンジとして爆発の方向性を全て高波に向かわせる。
そう、敢えて名付けるなら――
「ショックアブソーブ!」
これを手始めに十連発。合計百発分をぶつけた。
高波を削り取るような爆発が幾度となく炸裂し、みるみるうちにこちらに迫る水柱は見る影もなく小さくなった。
「や、やりました……けど」
「波自体はこっちに来るのだが……?」
ラウナとリードが心配そうな視線を向けてくる。
「あれぐらいなら死なないし。それに水着だから、濡れるぐらい平気だろ?」
そう笑い返すと何故かふたりが青ざめた。
その直後、俺たちはちょっとした波に呑み込まれる。
「おっ、冷たっ!」
「わっぷ。ふ~、気持ちいいー!」
ミィルがキャッキャと喜んでいる。
実際、衝撃はほとんどない。
いきなり海の中にとぷんと入った感覚だ。
「ぐわああああっ!!」
「きゃああああっ!!」
ふたりが大袈裟な悲鳴をあげてるけど、ひょっとしたらあまり水に慣れてないのかもな。
「あれ、リード! だいじょうぶか!?」
なんて気楽に考えていたら、波が引いた後にリードは砂浜で倒れていた。
すぐに脈をとって状態を看る。
「リード様、大丈夫ですか!?」
「ううん、びっくりして気絶してるだけみたい。そういえばリードだけは深いところに行こうとしなかったし、ひょっとしたら泳げなかったのかな?」
と、後ろから声をかけてきたラウナに振り返ると。
「あれ?」
水に濡れたラウナが髪をかき上げながらこちらを覗きこんでいるのだけど、問題はそこより少し下。
大きいけれど、リリスルやサンサルーナよりは少し小ぶりな胸があらわになっていた。
どうやら水着が流されてしまったみたいだ。
「わあっ、ラウナのおっぱい綺麗だねー」
「……え?」
ミィルの素直な褒め言葉に、ラウナの視線が自分の胸に落ちた。
その表情がみるみる真っ赤に染まる。
「きゃあああああっ!! アイレンさんのエッチー!!!」
その日最大の悲鳴が轟いた直後、俺は何故かパチーンと頬を張られたのだった。




