8.人類裁定③
「彼らはわたしたちが何十年、いえ何百年もかけて築き上げた先祖を祀る慰霊殿を略奪し、破壊しました。皆、心が割れそうで、咆哮が三日三晩鳴り止みませんでした。またあるときは眷属竜の卵や子竜をさらっていきました。貴族に高く売れるのだそうですね。母竜が報復もせず泣いているだけなのは復讐の連鎖を避けるためだとご存じでしたか?」
「なっ……普通の竜は子供など大して気にも留めない冷血な生き物だというのが有力だとされていたが……」
学院長が信じられなさそうに首を横に振る。
「竜王国は、遠い昔に人類と不可侵の盟約を結んでいます。本来なら我らの森に人は立ち入らないはず。なのに、一部の冒険者たちが禁を破って押し入ってきます。わたしたちは盟約に従い……彼らをひとりも殺していませんでした。これまでは捕らえた冒険者たちの命乞いもすべて聞き入れてきました。しかし、彼らは何度でも現れて、捕らえられればまた命乞いをする。同じ顔がいることも珍しくはありません。そしてまたやってくると薄々感じながらも彼らの訴えを信じて解放して、また裏切られるのです。わたしたちは、いつまでこんなことを続けねばならないのでしょうか。いったいいつまで、大切なものを失う痛みを味わい続けねばならないのですか?」
苦しげに胸を抑え、唇を噛むリリスル。
見ていられなくなって、その細い肩をそっと抱き寄せた。
「アイレン……」
紅色の瞳を潤ませて、こちらを見上げるリリスル。
俺は一度だけ頷いて、体を放す。
次の瞬間には、いつものリリスルに戻っていた。
「失礼、取り乱しました」
「い、いえ……」
「話を戻します。つまるところ、あなたがたに『彼ら』全員を止める術はない。または努力はしているが能力不足ゆえに成果は出ていない。そして、どの人類が『彼ら』になるかわからない。いずれにせよ、為すべきことを怠っているのはあなたがた人類の方なのは間違いないでしょう?」
「私如きでは……お、王に判断を仰がねば」
「そこからして既に違うのですよ」
リリスルがすっと立ち上がり、学院長の瞳を鋭い眼光で射抜いた。
「我ら『竜王族』が人類に問うているのは、ひとりひとりの意識なのです。我々の価値観を押し付ける気はありませんが、見ているものが何なのかは全員に正しい認識を持ってほしいのです」




