75.フルドレクス魔法国①
大変長らくお待たせいたしました。
フルドレクス魔法学会編を開始致します。
俺たちはセレブラント王国王家の馬車に揺られ、フルドレクス魔法国を目指している。
今回の交換留学は正式なもののため、眷属竜は使わないことになったのだ。
ラウナが乗りたがっていたけど、また今度と約束した。
「そういえば、フルドレクス魔法国ってどういう国なの?」
「えっ? ミィルさん、事前に予習したっておっしゃってませんでしたか?」
ミィルのあっけらかんとした発言にリードが目を見開く。
「うーん、それはそうなんだけど。なんかセレブラントのときと違って全然イメージがわかなかったんだよね」
「ああ、なるほど……たしかに竜王族からしてみれば、かつての人類に近いのはセレブラントのほうでしょうからね。ミィルさんが理解できないのも頷ける」
リードが納得したように頷いた。
実を言うと俺もピンと来なかったので、この際だから詳しく聞いておこう。
「フルドレクス魔法国はセレブラント王国より、さらに実用的な魔法の研究を進めている国家です」
「実用的?」
リードの説明にきょとんとするミィル。
「そのあたりはラウナリースに具体的な話を聞いた方がわかりやすいかと。いいかね?」
「はい、リード様。ミィルさん……セレブラント王国では魔法は選ばれた血筋の者が使うもの、というイメージが強いですし、実際に血を濃くした方が強力な魔法使いになりますよね」
「ん、そだねー」
「一言で言えば、フルドレクスはその逆……『誰でも使える魔法』の開発を目指しているんです」
話はさらに続く。
フルドレクス魔法国は古くからセレブラント王国との隣国で、かつてはお互いいがみ合っていたという。
やがて魔法戦争に突入したけど、あまりの凄惨さから両国間に厭戦気分が漂って、お互い歩み寄るようになった歴史があるらしい。
「今ではセレブラントとフルドレクスは互いに血を分け合った盟友同士。少し前までは頻繁に互いの王家が婚姻して、魔法使いの血を濃くしようとしていたんですよ。代表的なところで言えば、セレブラント王国のレンデリウム公爵家ですね。あそこは両王家の血を引いていますし、公爵はわたくしが学院に入学したときに後見人を務めてくださいました」
「なるほどねー。じゃあ、フルドレクスもそうやって血を濃くしてるんだ?」
納得したように手を叩くミィル。
しかし、ラウナは首を横に振った。
「いいえ、血が濃くなりすぎたせいか短命の子供が増えてしまって……神殿の託宣もあって当時のフルドレクス王家が方針を変えたんです。その結果『誰でも使える魔法』をより効率的に運用するようになったと歴史で習いました」
リードがやれやれ、と肩をすくめる。
「我々に言わせればフルドレクスの魔法はあまりにも機能を重視し過ぎていて、華美さに欠けます。しかしフルドレクスから言わせればセレブラント王国の魔法は見た目ばかり華やかで効率が悪い、ということになるでしょうね」
「そっかそっか。なんかわかったかもしれない。そういえば人類は誰でも魔法が使えるわけじゃないんだった。竜王族は誰でも魔法が使えるから、そういうのを目指してるってことなんだねー」
ミィルの無邪気な笑みにリードとラウナが苦笑する。
「そういえばアイレンも最初は魔法を使えなかったよねー!」
「ちょっ、ミィル! やめろよ、人の過去をほじくり返すのは!」
俺の慌てぶりにリードとラウナが驚いた顔をした。
「そうなんですか? てっきり、リード様と同じく生まれつきの天才肌なのかと……」
「今のアイレンを見ると信じられんな。よほど腕のいい師がいたのか?」
「あ、うん。今度紹介するよ。それより今はフルドレクスの話!」
何がおかしかったのか、ラウナはくすくす笑っている。
「ええ、そうでしたね。今回留学する国立魔法学校には少しの間だけ通ったことがあるんですが……あまり居心地のいい場所ではありませんでした」
「そうなの?」
「先ほど申し上げましたようにフルドレクスでは『誰でも使える魔法』が重視されます。逆にわたくしの神眼のように『選ばれた者にしか宿らない才能は忌避されている』んです。神眼は所持者にしか使えない、再現性のない能力であるという研究結果が既に出ているので……」
「ラウナリースは先祖返りだ。かつてのフルドレクス王家は全員が神眼を持っていたというが、ここ数百年は生まれていなかったそうだ」
ラウナの説明にリードが補足を入れてくれた。
「せっかくすごい眼を持ってるのに、なんかもったいないなぁ……」
「ああ。ラウナリースが私と同じくセレブラント王国に生まれていれば事情はまったく逆だったろう」
「ラウナの眼、あたしキラキラしてて好きだよ!」
俺たちのコメントにラウナが嬉しそうな笑顔を浮かべる。
「皆さん……ありがとうございます。半ば島流しのような形で王都学院に入学させられたときは何もかも諦めていましたが……今のわたくしはとても充実しています」
「……ときにラウナリース。これからフルドレクス王家……君の血族に挨拶しにいくわけだが大丈夫か?」
リードが心配そうにラウナを気遣う。
少し逡巡する様子を見せていたが、ラウナが大きく頷いた。
ひょっとして家族とうまくいってないのかな……。
「そういえばリードの許嫁はラウナのお姉さんなんだっけ? せっかくだから会いにいくー?」
ミィルが小首を傾げて訊ねる。
リードは、何とも言えない渋面を作って首を横に振った。
「……いえ、今回は会いません。またいずれ」
「ん、わかった」
ミィルも何か察したらしく、それ以上は追及しなかった。
なんだかこっちもこっちで踏み込んじゃいけない事情があるっぽい。
フルドレクス魔法国……なんだかキナ臭そうなところだなぁ。
コミックジャルダンにてコミカライズが開始しております。
そちらもよろしくお願いいたします。




