73.愚者たちの最期①
一方その頃。
「はぁ、はぁ……」
「ぜえ、ぜえ……」
ふたりの親子が息を切らせながら国境を越えようとしていた。
ビビムとその父親だ。
ふたりはフルドレクス魔法国を目指して歩いている。
すべての財産を失ったので徒歩での旅を余儀なくされていた。
その恰好はひどくみすぼらしく、往時のような煌びやかな服装ではない。
最低限の水と食料を渡されて、こうして王国の外へと出ようとしていた。
「あそこの岩場で休もう、ビビム」
父親の提案にビビムは返事をしなかったが、大人しく指示に従った。
座り込んでしばらくしてから口を開く。
「……こんなの夢ですよね、父上」
目の焦点が合っていないまま力ない声を漏らすビビム。
「どうして僕らがこんな目に遭わないといけないんですか」
「ビビム……」
父親……元ノールルド伯が愛する息子の姿に心を痛める。
「お前の言うとおり。そうとも、こんなのは何かの間違いだ……」
すべてうまくいっていた。
何一つ問題などなかった。
自分たちは悪いことしていないのにどうして、と。
「ビビムよ。私は必ずこの国に戻ってみせるぞ。それまでの辛抱だ」
元ノールルド伯はこの期に及んでも反省していない。
竜王族によって不当に貶められて王に裏切られたと……未だにそう信じ込んでいたのである。
「父上! 僕は必ず奴らに復讐してやります……!」
息子も父親に同調し、意気を取り戻した。
「特にあの田舎者! あいつさえいなければこんなことにならなかった! 不正で賞賛を得るだけじゃなくて懸命に努力してきた僕らをこんなふうに貶めて……! いつか絶対に殺してやる!」
ビビムは自分たちを追い落としたのがアイレンだと決めつけていた。
そもそも自分が起こした問題を正確に把握できてない時点で、救いようがないのだが。
「同感だ。そして竜王族に私を売り渡した王も、私を助けなかった貴族どもも必ず後悔させてやるぞ。必ずや力を盛り返してセレブラント王国を滅ぼしてやる」
元ノールルド伯も息子と同じだ。
王に助命してもらったことを恨みこそすれ感謝などしていない。
自分の命を助けるのは当たり前。
もっと温情をかけるのが最低限と考えていた。
なのに裏切られた、と。
そんな身勝手な想いから、彼は憎悪に身を焦がす。
やがてその恨みは世界に向けられるだろう。
王もリリスルもノールルド親子の心の醜さを見くびっていた。
彼らの愚かさは死ぬまで治らない。
そう、死ぬまで。
「――案の定ですね。やはり、この程度の罰では懲りませんでしたか」
親子の耳に、突如として女性の声が飛び込んできた。
「なにっ!?」
咄嗟に立ち上がって、声のした方を睨みつけるノールルド伯。
振り返った先、元来たほうの道にフード姿の女が立っている。
背が高く、すらりとした体型。
「貴様……何者だ!?」
ただならぬ気配を纏う女を警戒する元ノールルド伯。
「えっ……あれ?」
そこでビビムが何かに気づいたように声をあげた。
「どうしたのだビビム」
「あの女……間違いありません。王賓クラスの実習授業で教官をしていた女です!」
「王都学院の? 何故こんなところまで」
息子の言葉に元ノールルド伯が怪訝そうに首を傾げる。
「マイザーといいます。短い間ですがお見知りおきを」




