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竜に育てられた最強  作者: 原案・監修:すかいふぁーむ 執筆:epina
セレブラント王都学院編

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70.愚者の末路⑥

「なっ……竜王族がどうして王宮に!?」

「もちろん、いろいろと調べるためです。特に貴方を」

「ひっ……」


 すぅっと目を細めるリリスルを見て、ノールルド伯が小さく悲鳴をあげた。

 理性はともかく本能が存在としての格を察したのだ。


「……そ、そうか。私を嵌めたのはお前かぁっ! 陛下、聞いてください!」


 泣きそうな声で叫んだかと思うと、ノールルド伯が必死に王へ訴えた。


「竜王族と我らの間には不可侵の盟約があります! 奴らはそれを破り、私に対して謂れのない罪を着せようとしているのです!」

「そちはまだそのような言い逃れを……リリスル殿、本当に申し訳ない。どうやら我らはあなたがたに滅ぼされても文句が言えないようだ」


 王が申し訳なさそうに顔を伏せながら、リリスルに謝罪する。

 しかし、リリスルは怒るでもなく首を振った。


「人類裁定はわたくしの担当ではありませんので。ここに来た目的はあくまで真実をつまびらかにすること。すなわち、何故、人類と我らの盟約が破られるに至ったのかを調べるためです」

「……えっ、盟約が破られた?」


 リリスルの発言を聞いたノールルド伯が間抜けな声をあげた。


「盟約が破られたきっかけは、他でもない貴方なのですよ」

「私が……?」

「ええ。盟約は人類によって破棄されました。よりにもよって貴方の派遣した冒険者たちは竜王族の赤子を攫おうとしましたので」

「なっ、馬鹿なことを言うな! 私はそんなことを命じてはいないぞ!」


 リリスルがジッとノールルド伯の瞳を覗き込む。


「な、なんだ……! この私を疑うのか!」

「なるほど。やはり、嘘は吐いていないようですね」


 頷くリリスルに驚いたのは他でもない王だった。


「なんと。それはまことか、リリスル殿」

「ええ、間違いありません。確かにこの男が冒険者を我々の森に派遣して私腹を肥やしていたのは事実でしょう。ですが、盟約を破るような行為を禁じていたのも確かです。この男がどれほど愚かであろうと、竜王族の赤子に手出しすれば盟約破りになるとさすがに理解できていた。そうでしょう?」

「あ、当たり前だ」


 リリスルの問いかけにノールルド伯がこれっぽっちもわかっていなさそうな顔でつぶやく。


「そもそも盟約の隙を突いた略奪を思いつくだけの知恵もない様子。であれば、この男は何者かに誑かされたのでしょう」


 リリスルの侮辱的な発言を聞いてノールルド伯が怒るでもなく「あっ」と声をあげた。


「そうなんだ! 私はそいつに言われたままにやっていただけなんだ!」

「やはり、そうでしたか。で、何者なんです? その者は」

「さあ……書簡でやりとりしただけだし、何者かまでは知らない。手紙も処分してしまったしな……」

「そんな不確かな案に乗ったのですか。どこまでも愚かな……」

「なっ……さっきからなんなんだ! 竜王族などなにするものぞ! 陛下、盟約が無効になったというのなら尚更問題ありません! この無礼者を処分してしまいましょう!」


 ノールルド伯の態度にリリスルが僅かながらに殺気を帯びる。


「ほう……わたくしを処分する? やれるものならどうぞ。その瞬間、ここにいる全員が松明のように燃え盛って死ぬことになりますが」


 ノールルド伯以外の全員が息を呑む。

 脅しではなく、本気だと悟らされたのだ。


「い、いいやリリスル殿! 処分されるべきはノールルド伯! 我々は竜王族と敵対する意思はありませぬ!」

「えっ、陛下!?」


 一瞬で王にはしごを外されたノールルド伯が目を剥く。

 リリスルが闘気を解いてふぅ、と息を吐いた。


「結構。それで、この者の処遇はわたくしが決めてもいいのですか?」

「うむ……竜王族の気持ちを考えれば処刑も止むを得んかと思う」

「そ、そんな! 陛下、どうかお慈悲を!」

「そうですね。竜王族に長い苦痛を与えるという処罰はありませんので、ひと思いに殺してしまうのがむしろ慈悲かもしれません」

「ひいいっ」


 リリスルに燃えるような赤い瞳を向けられたノールルド伯が腰を抜かして失禁する。


「おやおや……まあ、いいでしょう。所詮は無知で哀れな誰かの駒に過ぎない男。わたくしもアイレンにならって人類のやり方を尊重してみましょうか。王が『考え得る限りの最大の罰』をこの男に与えてくださるのなら、命だけは免じましょう」

「あ、ありがとうございます! もう竜王族に手出しは一切しないとお約束します!」


 既に山賊を派遣したことも忘れて、その場しのぎを始めるノールルド伯。

 もちろん賊はとっくに処断されているのだが。

 だからリリスルも貴方なんかに約束されても……という顔をした後で、改めて王を見る。


「無論、我々は竜王族に手出しはしない。盟約が無効になったのであれば、セレブラント王国は改めて竜王国と条約を結びたいと思う」

「いいでしょう。それが効力のあるものでしたら後日、正式に。ただし人類裁定の結果によっては破棄されることが前提となります。それは御覚悟を」

「呑むしかあるまい……」


 王としても苦渋の決断だった。

 今後、自分たちの未来が他の人類の行動如何によって決まってしまうのに歯がゆさは感じるものの、何ができるわけでもない。


「さて、ノールルド伯。これよりそちに処罰を与える」

「は、ははぁー!」


 もはや死なずに済むなら何でもいいとばかりに這いつくばるノールルド伯。

 だが、その陰で誰にも見えぬ笑みを浮かべていた。


(フフ……乗り切った! 身内に甘い王のこと、せいぜい王宮への出入り禁止か、あるいは地方での謹慎といった形だけの処罰にしてくださるはず! そして罰の多寡があんな見た目がいいだけのトカゲ女にわかるはずもない!)


 この男は、これっぽっちも反省などしていない。

 どこまでも自分に甘く、だからこそ事態も都合のいいほうに転ぶと信じて疑わない。

 そんな腐った性根こそがノールルド伯の本質。

 だから、王の心中を読めなかったのも必然だった。


「そちの領地、屋敷を含めた全ての財産、爵位はすべて没収。国外追放とする。どこへなりとも行くがいい」

「は……?」


 結局、王からくだされたのは貴族にとって死刑よりも残酷な実刑。

 つまり栄華を極めたノールルド伯に追放者のレッテルを貼られた上で恥を偲んで生きろというのだ。


「陛下、嘘ですよね? これまで尽くしてきた私に……」

「お前は、いまだに自分の仕出かした罪の重さがわからぬと見える。よいか、此度はお前ひとりの欲望のせいで、人類すべてが滅ぼされる瀬戸際にあったのだぞ」

「ですから、それは竜王族のはったりで……」

「実際に竜王族を見ても、まだそう言えるのか。刑が不服とあらば、リリスル殿に身柄を引き渡してもよいが……?」

「そ、それだけはご勘弁を!」

「ならば誇りあるセレブラントの貴族として、最後くらい伏して刑を受け入れよ」

「い、いやだああああああっ! そんなのはあんまりだあああああああっ!!」


 王の要求を受けて、遂にノールルド伯は取り乱し始めた。


「ノールルド伯、乱心したか!」

「取り押さえよ!」

 

 王侯貴族たちの指示で瞬く間に親衛隊に捕縛されるノールルド伯。


「私は、私は絶対に悪くないー!!」


 そして、そんな叫び声をあげながら謁見の間から連れ出されていった。


「すまぬ、リリスル殿……あやつは首を刎ねるよりもこれが効くと思うたのだが……」

「いいでしょう。あの男に自分の犯した罪を心の底から悔やませたかったですが、それは竜王族でも骨が折れる作業でしょうね」

「そう言ってもらえるとありがたい」


 王としてもリリスルの判断には安堵していた。

 赤竜王女と呼ばれるこの女性の纏う気配に、ここにいる全員がいつ殺されてもおかしくないと感じていたからだ。


「それはともかくリリスル殿、この場を借りて改めて礼を言わせていただきたい。貴女の弟君のおかげで不肖の息子や、ここにいる皆の子息が救われた。ありがとう」

「まあ! そのようなことを言われたって、嬉しくもなくもありません!」


 アイレンのことを褒められて御満悦になったリリスルが突然訳のわからない事を口走る。


「まあ、なにはともあれよかったです。もしアイレンの素晴らしさを理解できないほど人類が愚かなら、わたくしひとりでこの国を滅ぼしていたでしょうから」


 ノールルド伯の末路以上にリリスルのこの一言に、全員が戦慄する。

 そして実感した。

 人類の繁栄は薄氷の上で成り立っていたに過ぎなかったと。

 人類裁定が始まった今、依然として自分たちが滅びに瀕しているのだと。

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