7.人類裁定②
学院長が言葉を失い、ハンカチを取り落とした。
ぶわっと噴き出した汗がテーブルの上に滴り落ちる。
「それは、いったい、如何なる意味なのでしょうか?」
かろうじて紡ぎ出した言葉はかすれきっていた。
対するリリスルは瞳に悲しみをたたえながら答えていく。
「言葉の通りです。わたしたち『竜王国』は意見がふたつに分かれているのですよ。今まで通りに人と共存するか、あるいは自然への敬意を失い、我々の森を勝手に荒らし、蓄えた宝や眷属竜の卵まで盗んでいってしまう人類を絶滅させるか」
「そ、それは……!」
学院長がガタッと椅子を弾き飛ばしなら勢いよく立ち上がった。
その挙動をリリスルは咎めたりせず見据える。
「確かに人間の中にはそういう不届きな輩がいるかもしれませぬ!」
「かも、ではないです。いるのです」
「いるのでしょうが! それはほんの一部かと! それなのに彼らの責をすべての人々……老若男女問わずにすべて殺してしまうというのはさすがに!!」
「種全体に責はない、と。わからぬでもないです」
「わからぬでもない!? それ以外に何があるとおっしゃいますか!!」
そのような言葉は一切受け入れられないとばかりに、リリスルに向かって叫んだ。
学院長からは先ほどまでの怯えというか、遠慮のようなものがなくなっている。
それを見ても至って平静なリリスルは、首を横に振った。
「それは人類側の理。我らには我らの理があるのです。あなたがたはその一部の人間たちを何故止めてくださらないのですか?」
「止めないわけではないです! 取り締まりはきっと――」
「きっと? そうですか……わかりました。では、もうひとつ。どうして事前に賊を間引いてくれないのですか?」
「間引く……ですと!? 我らにも法はあります! しかし、各領地ごとによって裁きも異なりますし……! そもそも領域侵犯が問題ということでしたら、あなたがたが彼らだけに、その……しかるべき裁きを下していただければ!」
「つまり一部の人の非礼は、我らがコストを払って対処せよと? それこそ道理に合わないのではありませんか」
学院長は口をぱくぱくさせながら、次の言葉を探しているように見える。
だけど、出て来ないみたいだ。
リリスルが悲しそうに天井を見上げる。
「あなたたちは昔からそう。我らが古の盟約に縛られていると思って、冒険者を名乗る者たちが大切なものを奪っていきます……」
もはや戻らない懐かしき日々を思い出しているかのような口調で、リリスルは人類が竜王国に何をしたかをとつとつと語り始めた。