67.愚者の末路③
一方その頃、キグニス教官は学院長に呼び出されていた。
王賓クラスが神滅のダンジョンに行くことになった経緯を説明するためである。
当然、その場にはマイザー教官も同席していた。
「……実習当日のキグニス教官とのやりとりは以上となります」
「ふむ」
学院長とマイザーのやりとりを見ながら、キグニスは必死に平静を装っていた。
内心は冷や汗でびっしょりである。
(大丈夫……隠蔽工作は完璧にやった。だからバレてないはずだ)
キグニスは土塊のダンジョンの土砂に先日の雨水を加える隠蔽工作を行なった。
痕跡を悟られないよう魔法を使わず手作業で丹念に行なっている。
さらに雨水に含まれる微量な魔力でビビムの魔力パターンも誤魔化した。
もはやあの土砂からビビムに繋がる証拠は出ない……そのはずだった。
説明を聞き終えた学院長はキグニスに厳しい視線を向ける。
「さてキグニス教官……君には今、王家に対する叛逆の疑いがかかっておる」
「そ、そんな! 神滅のダンジョンへの変更許可を出したのは学院長ではありませんか!」
「三階層までは安全じゃからな。許可状にもそう記載していたし、マイザー教官も対応しておった。生徒との証言も一致する。だが実際に“事故”は起きてしまった。そして担当でもなんでもない王賓クラスのダンジョン実習先を神滅のダンジョンに変更するよう……キグニス、君がわざわざ取り付けにきたのじゃぞ!? これをただの偶然で片付けるのは無理があるのではないかね?」
「ぐ、偶然です! 土塊のダンジョンが使用出来なくなっているのをたまたま私が見つけただけのことですぞ! それにむしろマイザー教官のほうにこそ現場の監督責任があるのではないですか!?」
キグニスはここぞとばかりに責任をマイザーになすりつけようとした。
それを受けて学院長は反論するでもなく鷹揚に頷く。
「無論そのとおりだ。それに許可を出した責任は最終的に儂にある」
「な、なら……」
「だが、君のした責任逃れの隠蔽工作も許されることではない!」
「えっ!? 私は工作など!」
「今さらとぼけてもムダじゃ。バレておらんと思ったか? 王賓クラスが帰還する前から今回の事件の調査のために、君にも見張りを付けていたのだぞ」
「ば、馬鹿な!?」
学院長の言葉にキグニスが愕然とする。
ビビムのことばかり気にかけて、そもそも自分がマークされているとは思ってもいなかったのだ。
「ちなみに工作する前の土砂はマイザー君が事前に確保済みだ」
「なっ……」
「君のやったことは犯罪だ。しかも極めて悪質な。もっとも土塊ダンジョン封鎖の首謀者は君ではないようだな。土塊のダンジョンを塞いだ土砂がビビム・ノールルドの魔法によるものだということがすでに判明しておる。このことは王家にも報告済みだ」
そこまで言われて、ようやくキグニスは悟った。
すべてバレている。
それでも彼は最後まで足掻いた。
自分の罪からどうしても逃れたくて。
「そ、そうなのです! 私はビビムに脅されておりました。仕方なかったのです!」
「ふん……どうだかな。おおかた、学院長の椅子でも約束されてほいほい乗っかったのではないか?」
「そんなことはありません! お願いです、信じてください!」
「そんなお為ごかしが王都の尋問官に通用するといいがな。キグニス教官。今をもってセレブラント王都学院の教官職を解く。そして君の身柄は王国に引き渡す」
「そ、そんなぁー!」
懲戒免職にキグニスがショックを受けていると、それまで黙っていたマイザーが目を伏せてつぶやいた。
「ですから何度も申し上げたはずです。物事を上辺だけで判断して機を見誤ればいずれ痛い目を見ると」
「き、貴様……! 嵌めたな!」
「私は別に何も。貴方が自滅しただけでしょう」
「おのれぇ、妾腹風情が!」
キグニスは激昂して襲い掛かるが、回避したマイザーに足を引っかけられて派手にすっ転ぶ。
「ぐえっ!」
「何事ですか!」
外で待機していた王都の衛兵が騒ぎを聞きつけ飛び込んできた。
「その男に襲われました。今回の被疑者のひとりで間違いありません」
マイザーの言葉を聞いた衛兵がすぐにキグニスを取り押さえる。
「ご協力感謝いたします、学院長」
「うむ。そいつを早いところ連れて行ってくだされ」
「違う! 無実! 私は無実なんだぁー!」
最後まで自分の罪を認めることなく引っ立てられていくキグニス。
部屋にマイザーとふたりっきりになると、学院長は深いため息を吐いた。
「いやぁ……まったく肝が冷えたわ。人類裁定の真っ最中にあんな事故が起こるとは。一つ間違えば竜王族が怒りだすところだったぞ。それにしたって君も大変だっただろう。ほとぼりが冷めるまで休職扱いにしておくから、ゆっくりと休みなさい」
「いいえ。この程度であれば些事ですから」
学院長のねぎらいにマイザー教官は薄く微笑むのだった。




