56.神滅のダンジョン②
光はすぐに納まった。
今のは、まさか。
いや、間違いない……。
「なんだ、何が起きた!?」
「今、ものすごい光が……」
生徒たちが慌てふためいている。
ラウナも体をぶるぶると震わせながら顔を青ざめさせていた。
「一瞬だけでしたが……とんでもない魔力がわたくしたちを包み込みました。今のはいったい?」
不安そうにつぶやくラウナに、俺は先ほどの光の正体を打ち明ける。
「……転移魔法だ」
「えっ?」
「姉貴が使ってるのを見たことがある。間違いない、今のは転移魔法だよ」
「遺失魔法じゃないですか! アイレンさんの御姉様ってどれほどの、いえ今はそれどころじゃありませんね。つまりわたくしたち――」
「おい、見ろ、階層計が!」
生徒のひとりが叫んだ。
俺たちも自分の階層計を見る。
そこには――
「7って出てるぞ!」
「じゃあ、ここは七階層なの!?」
確かに階層計の数字は7を指し示していた。
俺たちは七階層に転移させられたのだ。
「皆さん、落ち着いてください! 点呼を取ります!」
パニックに陥りそうになるクラスメイトたちに声かけをするマイザー教官殿。
さすがは王賓クラス、すぐに秩序を取り戻して点呼が終わった。
全員いた。四階層より下に進んで正気で帰った者はいないというダンジョンの七階層に、クラスメイト全員が。
「転移石を使います。全員、集まってください!」
ダンジョン実習の前の座学で習ったアイテム名を聞いて生徒たちの間に急速に安堵感がひろがった。
転移魔法は遺失魔法なのに、ダンジョン脱出用の転移石はあるんだな。不思議だ……。
だけど――
「どうしたんだ教官! 早く使ってくれ!」
「まだなの……!?」
「……転移石が発動しないなんて。まさかそんな……」
マイザー教官殿の呆然とした呟きを聞いて、生徒たちが一斉に泣きわめき始めた。
「じゃあ、俺たちここから出られないのか!?」
「そんな……一階層は安全じゃなかったのかよ!」
「そんなのいやあっ!! 父上っ! 母上ーっ!」
「み、見ろ! 魔物が来たぞ!!」
生徒のひとりが指し示した方を見ると一つ目の巨人の群れが今にも雪崩れ込んで来ようとしている。
互いに道を譲らず入り口でつっかえている魔物たちの姿を見た俺は思わず叫んでいた。
「サイクロプス!?」
師匠とダンジョン修行をしているときに戦ったことがあるから知っている。
あのときは四十六階層のボスモンスターだった。
そんな奴が群れで普通に階層をうろついている……神滅のダンジョンの恐ろしさが嫌でもわかろうというものだ。
逃げ場はない。ここは袋小路だ。
俺たちが転移した部屋の出口は、巨人の群れが塞いでしまった。
もはや奴らを倒す以外に道はない。
「ミィル、あいつらは強敵だぞ! ふたりで行こう!」
俺は呼吸を整えて闘気を解放しようとする。
しかし、ミィルは首を横に振った。
「入り口はあたしが結界で塞いでる。あいつらはしばらく入ってこれない」
「えっ……?」
よく見ると、サイクロプスたちは入り口で透明な水の壁に行く手を阻まれていた。
入り口でつっかえているように見えたのも、そのせいだったようだ。
「やったな、ミィル! だったらあとは結界を解除した瞬間に特大の魔法をお見舞いしてやれば――」
「アイレン、ごめん」
ミィルが首を横に振ってから、申し訳なさそうに言った。
「あたし戦わない」




