52.夏期授業開始とビビム
「おはようラウナ」
「おはよー!」
「おはようございます。アイレンさん、ミィルさん。また今日からよろしくお願いしますね」
久しぶりに会ったラウナに教室で挨拶した。
今日から夏期の授業が始まる。
「休みの間はどうしてましたか?」
「いやあ、いろいろ大変だったよ。親の手伝いだったり、姉さんの仕事を手伝ったりさ」
「まあ。アイレンさんは孝行息子なのね」
ラウナがころころと笑っているが、もちろん内情はそう単純ではなかった。
グラ姉を説得して――というか意気合わせを仕掛けたら「眠りたいから負けでいい」と言い出したので――瀕死の冒険者たちをギルドに送り返したり、竜王国からの正式な警告を伝えるために俺とミィルがギルドに赴いたりして。
なにはともあれ今後は冒険者が来ることはないはずだ。
これをもっと早くやっておけば人類裁定なんてことにならずに済んだんだろうけど、なんだかんだでみんな甘かったし、盟約もあったから人類と事を荒立てたくなかったんだろうなぁ。
「あたしもがんばったんだよ!」
「そうね、ミィルさんもよくできました」
ラウナに頭を撫でられるとミィルが気持ちよさそうに目をトロンとさせた。
その様子を何人かの男子生徒が「女の子同士もいいものだ」「新たな道に目覚めそうだ」などと言いつつ見守っていた。
リードはみんなから挨拶されていて忙しそうだ。
ちなみに俺も挨拶をしたけど、軽い会釈が返ってきた。
まあ、無視されなかっただけよしとしようかな。
◇ ◇ ◇
初日の授業はつつがなく終わった。
放課後、ミィルとラウナといっしょに部室へ向かっていると。
「おいっ、田舎者!」
廊下でいきなり声をかけられた。
この聞き覚えのあるフレーズ……。
「ビビム……」
こいつに絡まれるのも久しぶりだな。思わず苦笑いを浮かべてしまう。
今回は何人もの取り巻きを従えているせいか、いつにも増して高慢な態度だ。
「様をつけろ!」
「何の用です?」
心底どうでもいいので投げやりな口調になってしまった。
まあ、ビビムには今更礼儀を気にする必要はないだろう。
「我々、魔法研鑽部と勝負しろ! 勝った方は負けた方から好きな部員を何人でも引き抜けるという条件でな!」
「そんな勝負受ける筋合いはないですよ」
「勝負方法は……なにっ!? 貴様、平民の分際で僕の命令に逆らうつもりか!」
ビビムの怒声に合わせて「そうだそうだ!」と一斉に声をあげる魔法研鑽部たち。
「身分が問題なのですか? ならば部長であるわたくしが正式にお断りしましょう」
ラウナが前に出ていくとビビムがあからさまにたじろいだ。王族と一介の貴族、さっきまでと立場が逆転したわけだ。
ビビムの取り巻きたちは一斉に黙り込むが、ビビムはまだ退かない。
「ラウナリース王女! そんな田舎者がいる部活はあなたに相応しくありません! どうぞ魔法研鑽部にいらしてください」
まるでラウナが断るハズないと思っているかのように自信満々に勧誘してきた。
「アイレンさんはわたくし自ら部活に誘ったのです。あなたにそのようなことを言われる筋合いはございません」
「な……何故? いいえ、あなたは騙されているんです! そいつは不正入学者なんですよ!」
ビビムの訴えを聞いたラウナが不快そうに眉をひそめた。
「……根拠は? 部員を不当に侮辱するのであれば許しませんよ」
「僕はノールルド伯の息子です。その僕が言ってるんですから、信用してください!」
「話になりませんね」
ビビムに対して冷淡な態度を崩さないラウナ。
分が悪いと感じたのか、ビビムが今度はミィルに矛先を向ける。
「君! 君ならどちらが優れた部活かわかるだろう? 魔法研鑽部には二属性混合の使い手だっている! どうだ、我が部活に――」
「やだー」
「僕自ら誘ってやってるのに……いい加減にしろよ! こっちは君のことを思って言ってやってるんだ! こちらについておいたほうが身のためなんだぞ!」
出会った頃ならともかく、今ならもうわかる。
こいつ、どうかしてるよ……。




