5.竜王国の使者⑤
「このような人間の学院ごときに、貴女様がいったいどのようなご用向きで……!?」
「ああ、いえ。そうかしこまらずとも。わたしはかわいい『弟』の活躍を見に来ただけですので」
「『弟』殿……?」
顔を上げた学院長が、俺のほうをまじまじと見た。
「いや、しかし……彼は?」
「ええ、お察しの通り人間ですよ。それでもわたしたちの森で育った家族なのです。ところで話を総合するに、どうやらあそこの小石を割ったのは『弟』のアイレンの模様。試験は合格に見えます。しかし、どうもあれら殿方の話がよくわかりませんね。『田舎者』がどうとか……?」
「いやあ、リリスル。それは俺のことだよ」
「……田舎者が?」
俺の言葉を聞いたリリスルの瞳孔が、すぅっと細まった。
「ふぅん、そうなのですね……」
あれ、なんかリリスルってば闘気出そうとしてない……?
「とどのつまり、あちらの方々は『弟』を……『わたしのアイレン』を田舎者呼ばわりした挙句……試験で不正を働いたから不合格にせよと、そういうのですか」
これは、まずい。
リリスルが『わたしのアイレン』って口走ったときはマジギレ直前だ。
あとひとつ何かきっかけがあれば、王都は灰になるぞ!
「して、貴方の裁可は如何に? 学院長」
ギロリ、と学院長を睨みつけるリリスル。
ここで俺が不合格になるとリリスルが『人類』をどうするか決めることになる。
そうすれば何が起きるか、火を見るよりあきらかだ。
さて、人類の運命や如何に。
「ごうかくじゃああああああああああああああああああああ!!!」
学院長はガバッと上体を起こして、王都中に響き渡るのではないかという大声で叫んだ。
やったあ、合格だー!
「そんな! 何故ですか学院長!? あんな田舎者に!」
納得がいかぬとばかりに食って掛かるビビム。
「馬鹿者ぉ!」
「ひぃっ!?」
学院長の叱責にビビムが跳び上がった。
ずずいっと、俺とリリスルを讃えるようなポーズをとる学院長。
「合格だ合格! 合格に決まっておるわ! 何故ならお前たちが見たのはイカサマでもトリックでもない! 真実だ! それに、こちらの方々はお前たちが侮っていいような御方ではない!!! こちらにおわす方は――」
「そこまでですよ」
俺たちを紹介しようとする学園長をリリスルが制した。
「合格。当然の結果ではありますが、ひとまず学院長……あなたが公平さを示した点を評価するとしましょう。ここで不正であるという訴えを聞き入れて不合格にしていたら、裁定権はアイレンからわたしに移っていましたが。そうはなりませんでしたので……それでアイレン、あなたはどう思いますか?」
「…………え。あ、うん! 問題ない! ぜーんぜん問題ない! 俺は全然不当に扱われてない!!」
「そうですか。まあ良いでしょう」
リリスルが締めくくると、学院長が糸の切れた人形みたく、へなへなと崩れ落ちた。
「お忘れなく。『田舎者』呼ばわりについては不問ではなく保留です。あくまで見定めるのはアイレンの役割ですからね」
ここにいるほとんどの『人類』は学院長の態度からリリスルが只者ではないと察したらしい。
誰一人として反論なんてしなかった。
「クソッ……耄碌じじいめ! あいつの不正、必ず僕が暴いてやる!」
ただひとり、ビビムだけは小声で俺たちに聞こえないよう毒づいている。
いや、俺にもリリスルにも丸聞こえなんだけどさ。
お願いだからリリスル、そこでにこやかに笑わないで? こわいから。
「はは……どうなっちゃうのかなあ、俺の学園生活……」
明るい未来予想図に暗雲が立ち込めた気がして、人知れずため息を吐く。
ひとりで頑張る気満々だったのに、まさかリリスルが来てしまうなんて。
どうやら俺の巣立ちは一筋縄ではいかないようだ。
・面白かった!
・続きが気になる!
・応援してる、更新頑張れ!
と思った方は、広告の下にある☆☆☆☆☆から評価、
ブクマへの登録をお願いいたします