36.ビビム・ノールルドのやらかし③
次の日からビビムはアイレンを見張ることにした。
もちろん授業はサボりだが、出席日数などはノールルドの名前でどうにもでもなるという目算だ。
取り巻きは別のクラスなので強引に連れ出すのは難しいから、彼ひとりで行動している。
自分のクラスの連中も何人か誘ったが、授業に必死な生徒たちはみんな難色を示した。
「まったく、どいつもこいつもわかってない。学院の不正を正せるのは僕だけだな」
身勝手な使命感に酔いしれながら、王賓クラスの授業を窓から盗み見る。
ビビムが目撃したのは土属性実習授業の工作だった。
生徒たちが一心不乱に粘土に魔法をかけている。
ほとんどの生徒はコップや器、皿などを作ろうとして苦戦していた。
ビビムもなんとなく真似をしてその辺の土を使って挑戦してみる。
その結果、簡単にコップを作ることができた。
「なんだ、意外と大したことないんだな。王賓クラスの授業っていうのも」
王賓クラスの生徒たちより簡単に結果を出せたビビムは自尊心をくすぐられ、気持ち悪い笑みを浮かべた。
もちろん王賓クラスの授業で使われている粘土は普通の土に比べると成型に高い集中力が要求されるなどとは夢にも思わない。
「さて、あの田舎者はどこだ……?」
きっと形も変えられていないに違いない……そう思って教室内を見回すと。
「なんだあれは!?」
ビビムの目に入ってきたのは、アイレンの机の上に出来上がった粘土の城。
アイレンが人類側の術式をリスペクトして組み上げた城のミニチュアだった。
遠巻きにはわからなかったが、細部に至るまでよくできた素晴らしい一作である。
「ははぁ……さては魔法がうまくいかないからと手を使ったな? おおかた、教官が許可したのだろう。ハハハ、平民らしいな!」
ビビムの中ではアイレンは魔法を使えないことになっているので、たやすく脳内変換された。
アイレンの手に粘土汚れがないことも目に入らない。
「いや、でもあの城は手を使ったらできるものなのか? 最初からどっかから持ってきたとか! ああ、きっとそうだな! きっと!」
やはり不正者を正すのは自分だと確信し、笑顔で部屋に帰っていくビビム。
現実には王賓クラスの生徒たちもアイレンの実力を認めざるを得なくなっているとは露ほども知らずに。
愚者とは、何か。
其は頭の回転が鈍い者ではない。
其は現実を認識できぬ者である。
最初の授業で習った賢者の格言などとっくに忘れたビビムは、今まさに愚者の道を究めんと大いなる一歩を踏み出していた。




