35.ビビム・ノールルドのやらかし②
「この僕を差し置いて、あんな田舎者が王賓クラスだと……」
その日、ビビム・ノールルドは寮の自室に灯りもつけず閉じこもっていた。
「そんな馬鹿なことがあり得るか! 僕はノールルド伯爵家の長男なんだぞ。ビビム・ノールルドなんだ。父上は国王陛下の補佐役をしているんだぞ……」
ビビムの父親は自分が如何に王宮で活躍しているかを息子に聞かせ、息子はそれを素直に信じていた。
だからビビムの中でノールルド伯爵家はすごいということになっている。
ビビム・ノールルドは親に甘やかさて周囲に神童扱いされていただけの井の中の蛙に過ぎない。
父親が褒めてくれるから頑張った成果がそれなりに出た、それで調子に乗り続けた結果できあがった愚かな少年である。
もはや今の彼に当時の努力をする根気も無ければ、周囲を認める余裕もない。
上位クラスに合格できたはいいものの、早くも授業の内容についていけなくなりつつあった。
だがそれでもノールルド伯の腰巾着であるキグニス教官の採点が甘いため、ビビム自身は自分の実力と信じ切って、身分が低いアイレンが自分より優れていることなど認められずにいた。
「それに、なんでフルドレクスの姫君があいつの側に……」
自分がやらかしてしまったことを思い出して身震いするビビム。
実を言うとラウナリース第二王女は異母兄であるフルドレクスの王太子から腫物扱いされている。
だから心配はいらなかったのだが、ビビムは隣国の宮廷事情など知る由もない。
何故なら父親のノールルド伯は自分の活躍に関わりのないことを息子に一切話してないからだ。
その点の知識は、さまざまな貴族に取り入っているキグニス教官がノールルド親子より何枚も上手である。
「ていうか、僕のことを突き飛ばしたあの女、いったいどこの令嬢なんだ? 顔はかわいかったけど……」
強気なところは玉に瑕だが、そういう女を御してこそ自分の男が上がるとビビムは特に根拠もなく考えていた。
「いや、そもそもなんであんな田舎者が、あんないいところの姫と令嬢を侍らせてるんだ? おかしいだろ。あいつは不正で入学したんだぞ。王賓クラスの授業についていけてるわけない。なのに……」
ビビム・ノールルドに現実を受け入れるだけの克己心はない。
それができるなら現状を認めて必死に勉強していたはず。
だけど、そうしない。そうできない。
彼の中では永遠にアイレンは不正入学者だし、学院長も不正を見抜けない間抜けなのだ。
「そうだ……姫と令嬢はきっとあの田舎者に騙されてるんだ。そうに違いない! 二人をあの田舎者の魔の手から救い出せるのは僕だけだから、僕がなんとかするしかない。待ってて下さい、ラウナリース王女と名前を知らないご令嬢、必ずや僕がお二人を救い出します!」
得てして愚者は自分の短慮な思い込みを素晴らしい気づきと誤解して、貴重な時間を無駄にする。
ビビムもその典型例だった。
この日を境にビビムは学業をそっちのけにして無意味なロビー活動に執心していくことになる。




