28.水属性魔法実習⑤
「両班、そこまで」
実習時間いっぱいが使われ、マイザー教官殿が作品制作の終了を宣言した。
他の班は既に課題提出を終えており、実習教室の端に寄って勝負の行方を見守っている。
もっとも生徒全員がリードの勝利を確信している様子ではあるけど。
「まず、リード様の班からご披露のほどをお願いします」
マイザー教官殿の指示が飛ぶ。
仕切が用意されたので、これまで互いの班テーブルが見えない状態だった。
ついにお互いの作品がお披露目される。
「それでは御覧に入れよう」
リードが指をパチンとならすと、班の生徒たちによって仕切がどけられた。
はたして、そこに鎮座していたものは――
「わあぁ……」
先に漏れたのはラウナの感嘆の声。
次いで生徒たちの称賛と歓声だ。
それもそのはず、リードの班テーブルの上にはひとつの世界があった。
「どうだ、ラウナリース。我らが創り上げた作品は」
それは氷でできた小世界だった。
ここにいる全員が見たことのある王都学院を班テーブルの上で再現したジオラマ。
誰がどう見ても微細にわたって完全な再現であり、完璧な出来だった。
「素晴らしい。素晴らしいです、リード様……これは文句のつけどころなどありません」
……たしかにすごい。
同じものを創れと言われても、果たしてできるかどうか。
いや、これはそもそも個人で手掛けるような作品じゃない。
班の全員が力を合わせて築き上げた、まさに人類の叡智の結晶だ。
「……他の班の皆さんも、よく見ておくように。これほどの作品を目にできるのは百年に一度といったところでしょう」
マイザー教官殿の言葉を受けて、生徒たちがリードの班テーブルの前に殺到する。
もはや雌雄は決したといわんばかりの雰囲気だ。
「悪く思うなよ、アイレン」
リードも結果は揺らがないと確信しているらしく、その笑顔はむしろ晴れやかだった。
「貴様の魔法は確かに強力かもしれない。だが、我らセレブラント王国の魔法が目指してきたのは魔法と芸術の一体化。すなわち神々から与えられた世界を再現することだ」
「……神々」
「左様。よく見ておくがいい。如何にして我らがこの世界を掌握したか」
そう言って、リードは自らの作品を誇示した。
「魔物が跳梁跋扈し、暮らすに不自由だった世界を我らは開拓してきた。自然を克服し、川の流れを変え、世界を作り変えてきた。その過程で先祖代々、少しずつ積み重ねてきた知恵こそが我らの誇りなのだ。それがこの氷の王都学院に凝集されている」
それは傲慢ともとれる人類の矜持。
竜王族からしてみれば唾棄すべき思想。
だけど不思議と嫌悪感は覚えなかった。
それも『有り』だろうと、胸の内に懐いている。
きっと俺が人間だからだろう。
「これが人類の理想……」
「そうとも。ようやく理解したか?」
確かに完全で、完璧な世界だ。
ひとつの形として成立していて、余分な要素はすべてそぎ落とされている。
でも、そうか。だから――
「……だから、物足りないのか」




