裁定役の結論③
「ッ!?」
背後からリードとラウナの声にならない嗚咽が聞こえた。
振り返ってみるとふたりとも梯子を外されたって感じの絶望顔をしてる。
「あ、ごめん。ちょっと今のは言葉が足りなかったかも……」
俺も頭の中が全部まとまってない。
ちゃんと誤解のないように言い直そう。
「俺のちゃんとした結論は『人類は滅ぼされても仕方ないくらい竜王族の想像を超えていた』ってことになると思う」
「……ほう?」
ディーロン師匠が眉を跳ね上げた。
他の七支竜のみんなも俺の意図を察してくれたらしい。
だけどリードとラウナだけはよくわからないって顔をしてる。
「あ。師匠! リードとラウナもいるから、そもそもどうしてこうなったかって話をしておいていいですか?」
「……よかろう」
許可が出たので俺はリードたちに向き直ってキチンと説明することにした。
「そもそもこんなことになったのは、人類が竜王族が森を侵略したり赤ちゃんを攫おうとしたからなんだけどさ」
「それはわたしたちも知っていますけど……」
ラウナが自信なさげに呟いた。
リードも頷く。
ふたりの反応を確認してから、俺も言葉を続けようとした。
「でも、実をいうとそれだけの理由で人類に怒ったわけじゃないんだよ」
「弟子よ。そこから先は、儂に言わせてもらってもよいか?」
ここでまさかの割り込みが入った。
ディーロン師匠だ。
「えっ。あ、はい」
ディーロン師匠が「どうしても言いたい」という迫力の顔をしてたら俺はコクコクと頷くことしかできない。
まあ、たぶん俺の言おうとしてることと同じだと思うし。
「儂らはお前たち人類が愚行を犯すのは、種族として未熟だからだと考えていた。成長の途上にあるからだとな」
ディーロン師匠の目がカッと見開かれた。
「だが、それは違った! 人類は今の形で完成した種だった! 不正を許容し、なぁなぁで済ませ、弱さを克服することなく誤魔化し、数の力で征服する! それが人類の正体であった!」
「そ、そのようなことは……!」
リードが反論しようとするもディーロン師匠は無視して続ける。
「ならば儂らがお前たちの成長をいくら待っても無駄だ! 仮にお前たち二人が人類代表として人類を善導したとしても! 数百年もすれば人類は教訓を忘れ去り、再び同じ過ちを繰り返すということだ!!」
ディーロン師匠の怒鳴り声が、俺には悲鳴にしか聞こえなかった。
かつて仲間だと信じた人類に深く絶望した師匠にとって、この結論は受け入れがたいものだったに違いない。
「……よいか? お前たちにとって数百年というのは歴史を忘れ去るほどの長い時間かもしれぬが、竜王族にとては世代交代すら起きないほど最近の出来事なのだ!」
「しかし再び盟約を結べば、同じ過ちを繰り返さないことはできるはずです!」
ラウナが気丈にも反論する。
ディーロン師匠が少し感心した様子で睨みつけた。
「ほう、それで? お前たちが寿命で死んだ後、いったいどれぐらいの時間、交わした約束を守れる? 人類が愚行を繰り返さないと何年保証できる? 仮にこの星を滅ぼすだけの力を身に着けたときに暴走する個人が現れないとどうして言い切れる? 進歩と成長のスピードだけが早い種族などという、いずれ星を滅ぼしかねない存在をどうして放置せよというのか! 期待しても無意味!! それならどうして直近の脅威を滅ぼさずに看過せよというのだーっ!!」
ここまで言い切ったところでディーロン師匠の闘気が少ししぼんだ。
「……て、いうのが竜王族の大多数を締める意見なんだよねー!」
「むっ……」
しょうがないお爺ちゃんをなだめるようにディーロン師匠の背中を撫でながらミィルが割り込んだ。
ディーロン師匠は年下の竜王族のミィルにうまくまとめられてしまって不満そうだ。
「星とともに生きる。それが竜王族という話でしたものね」
「人類がいずれ星を脅かす種族になるかもしれない。だから滅ぼさねばならない、というわけか」
ラウナとリードが考え込む。
「そそそそ。つまるところ、バカな人が現れなきゃいいんだけど。でも、アイレンの目からみてどうだった?」
完全にディーロン師匠から主導権をかっさらったミィルが、してやったりと俺に話を振ってきた。
「うん。残念だけど無理そうだった。根本的に人類って弱さと愚かさでできてるところがあるから、直すとかそういうレベルの話じゃないんだなっていうのが、俺が見てきた範囲の評価だったよ。もちろん良さもいっぱいあるけど、その辺は竜王族の決意を覆すほどのものじゃない気がしたんだよなぁ……」
もちろん俺自身も人間だから、人類びいきで見てる部分はある。
お前も馬鹿じゃないかって言われたら、割と馬鹿な方だと思うし。
でも俺は人類裁定の裁定役。
責任は果たさなくちゃいけない。
「人類はこれからも成長できると思う。だけど馬鹿な人がちょくちょく現れるから暴走が起きる可能性が高い。人類からすれば失敗のひとつやふたつなのかもしれないけど、星の脅威になるなら竜王族は許容できない。だから残念だけど今のままなら人類は竜王族に滅ぼされるしか道がないっていうのが、俺の正直な結論だよ」
これが結論。
人類裁定を任された竜王族代表としての、俺の答えだった。
「ククク……ならば我らが判断を下すまでもなく人類鏖殺に決まりだな!」
ディーロン師匠の高笑いが響く。
誰も反論してこない。
リードもラウナもミィルも。
人類裁定はこれで終わったんだ。




