裁定役の結論①
「――以上だ」
コーカサイアが必死に感情を押し殺しながら締めくくった。
「本当に神都の人々を皆殺しにしたのですか? 子供も女性も老人も、一人残さず……」
あまりの出来事にショックを受けてラウナリースが青ざめている。
「ラウナリース。他国の心配をしている場合ではない。我らもこれから同じ憂き目に遭う。セレブラントも、フルドレクスも」
一見冷静なリードだけど顔面は蒼白だ。
「あーあ。こうなっちゃったか」
いつもは明るいミィルも今回ばかりは表情が暗かった。
俺も正直、どう受け止めていいのかわからない。
こんな形で人類裁定が終わってしまうなんて考えてもみなかった。
「アイレン。答えてくれ」
リードが俯きながら尋ねてくる。
あまりにも悲壮な雰囲気に俺はただ頷くことしかできない。
「我らのしてきたことは、いったい何だったのだ?」
「え?」
「すべて無駄だった。天神に従う人間が暴走したら何も知らなかった人類も皆殺しにされる。それが人類裁定だというのなら我らを試す意味など最初からなかったろう。答えはとっくに出ていたはずだ」
「そ、そんなことはないんじゃないかと……」
「本当にそうか? お前だって――」
「落ち着け。バカ弟子を責めるな」
コーカサイアが制止に入った。
元からそんな気力もなかったのか、リードも食い下がらない。
「もう四の五の言うな。人類裁定は終わったんだ」
重苦しい沈黙が部屋に立ち込める。
俺たちの修行とか、人類の未来とか。これからもなんとなく続くと思っていたものが、いきなり終わった。
ここにいる誰ひとりとして現実を受け入れることができないでいる。
(そっか。人類、滅ぼされちゃうのか)
俺には、それがいいこととも悪いこととも思えなかった。
ただそうなるんだな、という感覚。
俺によくしてくれた人も悪し様に扱ってきた人もみんな死ぬんだけど、なんだか実感が湧かなかった。
リードとラウナだけは姉貴の弟子だから対象外だ。
もし二人も殺されるならそうなるなら、もう少し俺の感想も違ったのかな?
「シビュラ神国は滅ぼされる。これは確定事項だ。もう、オレにだってどうすることもできない」
コーカサイアの姉貴が無力感に苛まれているのか、悲しそうな顔で想いを吐露する。
「待ってください」
リードがハッとして顔をあげた。
「シビュラ神教国は? 人類全てが滅ぼされるのではないのですか?」
あれ? 言われてみれば。
てっきり人類裁定イコール人類滅亡って思っていたけど、そうじゃない?
「それは、これから決まる」
コーカサイアがそっぽを向く。ちっとも嬉しくなさそうだ。
人類びいきのコーカサイアからすればシビュラ神教国もなんとか助けたかったのかもしれない。
「竜王族はこれまでの裁定結果をアイレンから聞くはずだ。人類にシビュラ神教国と同じ運命を辿らせるかどうか決めるためにな。だから、お前たちのしてきたことは無駄じゃない」
「あっ、そうなんだ」
人類裁定が終わったっていうから何もかも決まりだって思っていたけど、俺がこれまで見てきたことを報告してから判断するのか。
いや、よく考えたらそりゃそうかって話なんだけど。
「もっとも、アイレンの話を聞いて竜王族がどう考えるかは、また別の話になってくるけどな」
そうだよなぁ。
俺も言うべきことはなんとなく頭の中で固まってきてるけど、それでも人類の未来がどうなるかはみんな次第だもんなぁ。
「つまり、我々人類の未来はこれまで通り……いや、かろうじてのところでアイレンにかかっているというわけか」
「アイレンさんなら公平な意見を言ってくれるって信じてますけど……」
リードとラウナが心配と期待の眼差しを向けてくる。
「俺も竜王族側だから、あんまり期待されても困るけどね」
実際、俺の意見でみんなの意見が変わるだなんて大それたことは思ってない。
いい感じになるといいなぁとは思っているけど。
それにしても、さっきからミィルか静かだな。
「どうしたんだミィル? さっきから浮かない顔してるけど」
「そりゃそうでしょ? どっちにしてもみんなでワイワイやれるのは、これでおしまいなんだもん」
「あ、それもそっか」
ミィルにしてみれば人類の未来どうとかより、ここにいるみんなの時間が終わりなのが寂しいらしい。
そう言われると、俺もなんだか悲しくなってしまう。
少しでもみんなでいる時間を引き延ばせないかな……?
「じゃ、オレは返信してくっから。たぶんバカ弟子はすぐにでも呼び戻される。今のうちに別れを済ませとけ。お前らはオレの弟子だから最後にはならないにしても、今までみたいなやりとりはできなくなるかもしれんからな」
相変わらず暗い表情のコーカサイアが、手をひらひらさせながら退室しようとする。
「師匠。ちょっと頼みがあるんだけど」
完全に今思い付いたことなんだけど、ダメもとで言ってみることにした。
「森には俺たち全員で行くってダメかな?」




