1.竜王国の使者①
新作です!
よろしくお願いします。
俺が拳を叩きつけた大岩は、凄まじい爆発音とともに木っ端みじんに砕け散った。
「「「「「……………………は?」」」」」
それまで俺のことを『田舎者』と馬鹿にしてきた貴族の青少年たちが茫然としている。
「これが『人類』では試験になるなんて。このくらい俺の『田舎』では普通だったんだけどな~……」
手首をポキポキ鳴らしながら、俺は独りごちた。
「こんな……こんなバカなことがあるかああああああああッ!!」
出会ってから俺のことをずっと見下してきた貴族のエリート……ビビム・ノールルドが自慢の金髪を振り乱して叫んでいる。
ビビムの狼狽ぶりを横目にしながら俺は、初めて王都を訪れたときのことに思いを馳せていた――
◇ ◇ ◇
初めて見る『外』の世界。
行き交う人々の営みに、俺は胸を高鳴らせていた。
「すっげええええええ! これがセレブラントの王都かーっ!」
俺の故郷とはまったく違う光景だった。
並び立つ建物。大通りをゆく見たことのない乗り物。
そして往来を闊歩する人、人、人!
「いやいや、浮かれてちゃ駄目だ! 俺の役目はとっても大切なんだから……」
俺は大切な使命を携えて、ここに来ているんだ。
決して遊びできているわけじゃない。
「まずは王都学院に合格しなきゃ、俺の役目は果たせない!」
俺の役目は『人類』を見定めること。
すなわち生かすべきか、滅ぼすべきか。
というのも、人類が俺たちの故郷の森に頻繁に侵犯してくるようになったのだ。
彼らは勝手に木を切り倒して、勝手に街を作り、勝手に俺たちの宝を盗んでいってしまう。
その土地が俺たちにとってどれだけ神聖なのか、知りもせずに。
そういうわけで故郷の森では意見が真っ二つに割れている。
だからこそ唯一の人間である俺が人類を見定める代表に選ばれたのだ。
俺にはいわゆる人類の『生殺与奪権』が与えられている。
もし俺が「人類滅ぼすべし」と口走ったなら、人類は瞬く間に滅ぼされてしまうだろう。
人間社会のことはよくわからないけど、さすがに同族が殺されてしまうというのはあんまり気持ちのいいものじゃない。
だから、俺が王都学院で生活して、人類とは共存できるってところを見せないといけないわけだ。
それになにより『ひとりでいくなんてとんでもない!』と子供扱いしてくる家族みんなに無理を言って勝ち取った……そう! これは巣立ちのチャンス!
だから個人的にも、この使命は絶対に成功させなくっちゃいけないんだ!
とにかく入学試験でしくじるようでは俺を育ててくれたみんなに申し訳が立たない。
捨てられて死ぬしかなかった赤ん坊をここまで育ててくれたみんなのために、俺はひとりでも立派にできるってところを見せるんだ!
そんな想いを胸に向かった学院は、王都でも一際大きな建物だった。
入学志願者と思しき人達もたくさん集まっていて、ますますテンションが上がってしまう。
ひとまず深呼吸して落ち着いてから受付のおじさんに声をかける。
「おはようございます! 入学試験を受けにきました!」
なにはともあれ、まずは挨拶。
元気のいい挨拶は大切だ。
だけど、受付の人から向けられる視線はやけに冷ややかだった。
「まずは家名を名乗って下さい」
「……家名? えーと……いや、名前以外ないですけど」
「ああ、なんだ平民か。じゃあ、お前はこっちだ」
急に口調が雑になった受付が、俺にバッジのようなものを投げつけるように渡してきた。
他の入学志願者もつけてるみたいだけど、俺のだけだいぶボロいなぁ……。
「お前にはそれがお似合いだ」
受付の人がなにやら褒めてくれた。
「ありがとうございます!」
「チッ……」
舌打ちされた!?
「皮肉も通じんとは、これだから平民は。まあいい、試験会場はこの先だ。そこに立たれてると邪魔だからさっさと行け」
「す、すいません!」
ぺこりと頭を下げて、その場を離れる。
「俺、なにかまずいことしたのかな……?」
有り得ない、とは言い切れない。
この日のためにいろいろ予習はしてあるけど、細かいところまでは行き届いてないかもしれないし。
でも試す側だからこそ、知ってる範囲で礼は尽くさなければ。
そんなふうなこと考えながら、会場へ続く廊下を歩いているときのことだった。
「ハッ、平民の田舎者か! お前のような者がセレブラント王都学院に足を踏み入れるな!」
「は?」
一瞬、誰に何を言われたのか理解できなかった。
声をかけてきたのは金髪碧眼の俺と同じ十五歳くらいの少年。
なんだかキラキラしてて、思わず蒐集めたくなってしまう小さな宝石を散りばめた服を着ている。
前髪をふわっと手でかきあげて、俺のことを見下すように口端を吊り上げていた。
当たり前だけど見覚えはない。
「……誰?」
「無礼者! ノールルド伯爵家の跡取りであらせられるビビム様だぞ!」
ビビムやらの周りにいた少年たちが、俺を叱責する。
「僕のお父様はセレブラントの王宮で国王陛下の補佐を務めている。ま、お前のような平民の田舎者では知らなくても無理はないがな」
ビビムが気障ったらしく「フッ」と笑い、肩をすくめた。
「初対面ですよね?」
なんだかいきなり馴れ馴れしい人だなと思いつつ、一応確認してみると。
「当然だ。お前のことなど知るわけがない」
えー……初めて会った人にこんな口の利き方が許されるんだ。
ちょっと信じられない感覚だな。
「ところで田舎者って、俺のことですか……?」
「そうとも、見ればわかる。丈夫なだけが取り柄の安物の服に、礼節を知らぬ粗雑な歩き方。さぞ俗世から遠い田舎から来たのであろう?」
「まあ、そうですね。そういう基準で言うと、俺は間違いなく『田舎』から来ましたよ」
初めて会う相手と接するときに礼儀正しくするのは、俺の『田舎』では当然のならわしだ。
だけど俺は今、いきなり突っかかってきた顔も知らない男に侮辱されている。
うーん、『人類』ではこれが当たり前なのかな……?
「悪いことは言わん。お前のような田舎者は疾く失せよ。ここは我らセレブラント貴族のみが通う聖なる学び舎なのだ。お前ごときが軽々しく出入りできる場所ではないのだぞ!」
「え、でも平民でも試験は受けられると聞いたんですけど」
「無論だ。受験するだけなら、学院の門戸は誰にでも開かれている……それが王都学院の在り方だからな」
うーん、言ってることがよくわからないな。
言い回しもなんだかまどろっこしくて、ぜんぜん頭に入ってこない。
「……フッ、この僕がわざわざ忠告してやったんだ。せいぜい恥をかかないうちに此処を去ることだな」
どうも右も左もわからない俺を気遣ってくれてるみたいだな。
鼻持ちならない感じではあるけど、一応は礼は言っておこう。
「どうもありがとうございました」
「……っ!」
取り巻きたちが息を呑んだ。
ビビムもわなわなと肩を震わせている。
「貴様、後悔させてやるからな!」
結局、捨て台詞を残して足早に去っていった。
取り巻きたちもビビムの後を追いかけていく。
「…………なんで?」
お礼を言ったのに、なんで怒ったんだろう?
受付の人もそうだったし……。
『人類』って、よくわかんないや。
作者からのお願いです。
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