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神代活動日記  作者: 神代光
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失敗記

 恥の多い生涯を送って来ました。

 文学を志す者ならば、知らぬ者はいないであろう言葉。俺は、己の恥を、日記という形で、世間に晒したいと思う。願わくは、俺と同じ失敗を、誰かが繰り返さないように。


 2017年4月4日(火)晴れ

 AM10:00 BS日テレで韓流ドラマ商道サンド「第26話」を母と一緒に見る。

 AM10:10頃 母と口論になる。理由は、俺が商道サンドの展開を先読みして、細かく、母に、語って聞かせたためである。丁度、イム・サンオクの親方が、破産しそうだったために、町を見て回っているところで、「全50話のうちで、半分くらいになったから、ここらで親方が破産隠居して、サンオクが魚で儲けた金を湾商から分離して、一国一城の主にならないと、大商人になる予定なのに、上がいたら無理よね~」と言ったくらいのところで、ガチで注意をされる。

 「つまらなくなるから先の展開を言わないで!」

 「別に見たことないし、当たるかわからないからいいでしょう??」

 「あなたはどうして黙って見ていられないんですか!!つまらなくなる!」

 「僕の予想が当たりまくるからって、酷い仕打ちですな」

 「黙りなさい!」

 「じゃあ黙りますよ。一生ね。必要なことしかしゃべらなければいいんで  しょう?」

 「そこまでは……。」

 「つまらないんで、散歩に行ってきます!!!!!!!!」

 「この世界、滅びればいいのに!じゃあ行ってきます。」


最寄りの大成駅まで、徒歩で移動した。

いつもの外出は、近所の公園まで行って、帰って来るだけの約一時間の行程だが、今日は、帰りたくない気分なので、10年ぶりくらいに東京へ行った。


高崎線が遅延していた。人身事故か?

学校に行きたくない子供、会社に行きたくない新入社員が飛び込んだんだろうか?悪い考えが頭をよぎるが、真実は、いつもわからない。ただの電車の故障や信号設備の整備不良であることを願う。

急ぐ旅でもないので、京浜東北線に乗って行くことにする。

10年間、家に引きこもっている間(自分ではひきこもりとは思っていない)に、世界は変わっていた。

女性専用車両とは?男性が乗ってはいけないんだろうか?法律的にどうなんだろう?乗るのを禁止してはいないけれど、男性が乗ったら白い眼で見られる車両ってことなんだろうか?

痴漢防止のために、女性と男性の乗る車両を物理的に分けたのは、なかなか賢い選択かもしれないと思った。

痴漢という犯罪は、女性の意見しか裁判所では通らない。それ故に容易に冤罪が生まれる。10年前は、痴漢をやった、やってないに関わらず女性に声をあげられた段階で、社会的に死が確定するシステムだった。

まあ、俺は、すでに社会的に死んでいるので、これ以上死にようがないから、関係のない犯罪ではあったけれど、罪に落とされる人や、その人の家族が泣かないでいい世界になったのは、喜ばしい事だと思う。

しかし、男性用の車両は遠い、10年の間に衰えた足腰には堪えた。

女性専用車両は、ラッシュアワーの時だけの時間限定の方策なのだろうか?足下にはっきりくっきり書かれている、女性専用の文字に恐れおののいて、移動したけれども……。


京浜東北線は、大宮が始発駅なので、大体、座って行くことが出来るので楽だ。

と思ったが、隣に誰も座らない。立っている人もちらほら出て来たのにもかかわらずだ。太っているからだろうか?それとも体臭でもあるのだろうか?嫌な考えが頭の中を駆け巡る。

西川口で、隣に座ってくれた人がいた。40代くらいのおばちゃんだった。よかった!体臭については、大丈夫だったみたいだ。おばちゃんの図々しさ?に救われた気がした。しかし依然として太っているから誰も座らなかったという疑惑は晴れない。ダイエットを決意する。


上野駅に着いた。目的地は、俺の好きな秋葉原だったが、ダイエットも兼ねて上野駅で降りて、歩いて行くことにした。

目的は商道サンドのDVDBOXを買うことだった。

母と口論になって見られなくなったが、商道サンドは、俺のめちゃくちゃ好きなテレビ番組なのだ。FF11、ラグナロクオンライン、FF14、EVE onlineと渡り歩いて、ひたすらゲーム内で、商売(金策)をやり続けた俺なので。まあ秋葉原で、韓流ショップを探し当てられたならば、売っているだろう。(希望的観測かつゲットできるかわからない。買える値段か的な意味で)


上野駅を出て驚いた。

ここは外国か??英語、中国語、フランス語、ドイツ語、ロシア語、タイ語?全部、外国人の観光客か?外国人の比率は、見た感じ1割から2割の間という感じだったけれども、日本人は、必要がないと話さない民族なので、日本語は、ほとんど聞こえて来ない。

これは驚いた、10年前は、外人さんがいたら東京すげぇって感じで、チラ見していたけれど、最早、東京にいて、外人さんを見ないようにするには、目をつぶるしかないくらいの時代に突入したかぁ?などど思いつつ、少し悪戯心が沸き上がって来た。


東京で、英語の勉強、出来るんじゃね?


これだけ外人さんがいるのならば、店屋さんも英語が通じるはず!

それならば、私が英語で話し掛けても、店員さんは、英語で返してくれるはず。

リサーチのためにコンビニに立ち寄ってみた。

店員さんは二人いた。

一人は、日本人の名前だったが、もう一人は、中国人みたいだ。

隣のコンビニにも入ってみる。こちらも店員さんは二人いて、一人は日本人だが、もう一人は、濃い褐色の肌のアジア人のようだった。


試してみる。

 「アイ・ウォン・トゥ・ア・ムァップ。」

ちょっと適当過ぎたか?と思ったが。

 「ヒヤー」

と言われて、本棚のところに案内された。

俺は、街の達人コンパクト 東京23区 便利情報地図 (MAPPLE)を手に取って

 I サァーンクス」

と言った。1600円くらいだったと思う。


地図を買ったのは、実利もあるが、小道具としてだ。

地図を片手に持ちながら怪しい英語をしゃべる。なんか外人っぽい!

設定は、中国人もしくはタイ人だが、片言の英語は話せる。これである。幸い私は、親の仕事の都合で、タイで生まれた。両親共に生粋の日本人ではあるけれど。

つまるところ、

 「アイ・ワズ・ボーン・イン・タイランド」

と言ったとしても、嘘にはならない。嘘つきな俺様ではあるけれど、嘘は、つかないにこしたことはないのである。


桜が綺麗だ。

春の日本をぶらぶらと散歩していると、桜に出会わない日はない。

それくらいありふれた花だが、見飽きることはない。


 「ビューティホー」


東京にいる間は、俺は外人。俺は外人だ。日本語なんて知らない。自分に言い聞かせた。

英語の一番の上達方は、英語しか通じないところに自分の身を置くということであるのは、周知の事実だと思う。日本人が英語が下手なのは、英語が出来なかった時に、日本語を話せば、誰かが応えてくれるからであって、日本人の語学力が低いからではないと私は思っている。必要のないことは、脳がさぼって覚えようとしないのだ。

東京にいる間は、英語しか使わない。自分ルーール!

日本語を使ったら歩道が底なし沼に変わって、奈落の底へ落ちますよっと。


上野公園は、人が多すぎた。

世界中の人が集まって来ているかのごとき芋洗い状態であって、人が多いところへ行くのは、コミケの時だけ(10年くらい行ってないけれど)と固く心に誓っている俺には辛すぎた。


地図を頼りに、一刻も早く人の少ない場所へ移動しなければ。

そして普通に迷子になった。

迷子も散歩の醍醐味と俺は勝手に言っているけれど。東京では、迷子になっても特に不安はない。なぜならば、真っ直ぐ適当に進めば、いつか山の手線にあたるんでしょう?

そして本当に困ったのならば、タクシーを止めて、「最寄りの駅まで行ってください。」って言えば良いんでしょ!?

タクシーの運転手さんは、嫌な顔をするかもしれないが、迷える子羊くらいは救ってよ!

最近、東京のタクシー会社が、近距離の初乗り運賃を400円くらいに値下げしたというニュースをテレビで見たので、少なくともタクシー会社さんの方は、初乗りを下げた方が、トータルの売り上げは、上がると思っているんだ。恐れることはない。

ちなみに、俺のお気に入りの番組は、ニュースとアニメなので、毎日のニュース

チェックは欠かさない。家にいながらにして世界情勢を知る。パソコンの前に座禅を始めて苦節10年。現代の達磨さんは、修行中でも世界と繋がっているのである。


太陽と腕時計から方角を測って、南へ向かって歩いて行くと、やや見慣れた光景になった。どうやら秋葉原の周辺に来たようだ。やっと迷子ではなくなった。10年の間に秋葉原は、どう変わったのだろうか?

相変わらず外人さんが多かった。しかし、秋葉原は、昔から大勢、外人さんがいるところだったので、特に違和感はない。


上野から秋葉原へ歩いただけで、めちゃくちゃ疲れてしまった。自分の体力のなさを呪う。疲れすぎているので、商道サンドを売っているであろう韓流ショップを探す元気がなかった。秋葉原駅へ向かって歩いて行った。


!!


広場がない!

よく、やんちゃな方々が、スケボーをやっていた、秋葉原駅の目の前の少し広い広場がなくなって、ビルになっていた。

10年の時の長さをしみじみと噛みしめた。


総武線に乗って水道橋駅まで移動した。

目的を変更して、商道サンドの舞台になった頃の中国と朝鮮の歴史についての古書を探したいと思った。


PM4:00 家へ電話を掛ける。気が重い。

俺は、毎日、午後4時に食事を取っている。1日1回の食事の時間だ。1日1回の食事でも太り過ぎだというのに、3回食べたら、どうなるんだろう?


スマホは持っていないので、公衆電話を探す。家に10年もいるので、別にスマホは必要ない。スマホに7000円を掛けるなら、その金で、毎月CDを2枚買いたい。スマホにその価値があるのだろうか?

友達に携帯を持っていないと言ったら、「アフリカの部族でも持ってるのにすげぇ。」と言われた。まあ当然の反応か。日本の携帯電話の普及率は99.9%くらいとテレビで見た気がした。便利さと引き換えに、毎月何か(CD2枚分くらい)を失っちゃいませんか?俺は、出先で、誰かに呼び出されるのを非常につまらないことだと思っている。俺様のカレンダーは、常に白紙が理想なのだ。


公衆電話を探し当てる。公衆電話は現在では、駅の周辺くらいにしかない。水道橋駅前の公衆電話で、親に電話を掛けた。


呼び出し音の後で、受話器から母の高い声が聞こえた。

「もしもし~」

「MASTERさんだぞ!」

誰だと思っているんだ、斎藤さんだぞ!風に言った。俺と母の取り決めた暗号だ。俺は働いていないので、いつも家にいて、オレオレ詐欺の電話が掛かって来ても、俺が電話に出ているから、10年の間に、問題は起きなかった。俺に「オレオレ俺だよ!」と言って来ても、こちらも俺様ですぞ?って感じだしね。しかしながら、オレオレ詐欺対策の暗号を決めておいてよかったと思う。もし俺が外出してる間に、母に、オレオレ詐欺の電話が掛かって来て、

「会社の金を使いこんだんだ。(泣)」

なんて言われようものなら、劇団ひとり氏の「陰日向に咲く」よろしく

「いつ就職したの?うれしいわぁ!」

なんて言いかねない。危ない、危ない。

ちなみにシャドウバースというネットのカードゲームで、マスターランクにいるので、「MASTERさんだぞ!」と言っている。関係ないけど。


「あ、はい~」

「食事はいりません。帰るのは、10時か11時頃になります。」

俺は、事務的な口調でそういった。

「わかりましたん。」

悲しそうな声だった。

「じゃあ。」

俺は、あわてて電話を切った。ああ、また母を泣かせてしまった。罪深い俺だ。しかし今は、家に帰りたくない気分だったのだ。


10時まで暇になったが、俺のライフポイント(体力)はかなり0に近い、どこかで、食事を取らなければ。しかし直近の問題として、トイレに行きたい!食事を取りながらトイレに行けると理想だが。

神田の食べ物屋を見て回る。どの店舗もおいしそうだけれど、トイレがない可能性もあるくらい小さい店ばかりだった。食事を頼んでいる間に、トイレがないことが判明したら最悪だ。15分ほどさまようが、どの店も俺様の条件には合いそうもない。

地図を見ていると、東京ドームが近くにあることに気が付いた。

しめた!東京ドームならさすがに公衆トイレを完備しているだろう。速足になるのをぐっとこらえて、平静を装い、東京ドームに近付いて行く。東京ドームの周辺は、東京ドームシティとか言うらしい。トイレに行こうとしたら、東京ドームシティから、スーツを来た大量の男女が出て来た。「2次会場はこちら⇒」とかいう看板が出ている。入社式か!?

なんともタイミングが悪い。めちゃくちゃラフな格好な俺様が、スーツ姿の男女の中で浮いてしまっている。完全にアウェイだ。

俺は外人。俺は外人だ。

「フウーム。」

などと外国人風に呟いてみる。

どうやら新入社員?らしき人達は、俺には興味がないようだ。よかった。トイレを済ませて一安心する。

さあ、食事の場所を探そうか。

東京ドームから水道橋駅に戻る途中で、マクドナルドを発見した。

東京で食事をするのも面倒なので、ホームタウンである埼玉に帰ってから食事を取るかと思い直し、そのつなぎとしてマックフライポテトのLでも歩きながら食べるかと思った。

そういえば、俺は、外人さんだった。初めて実戦をしてみようと思う。


マックの前には、人が数人並んでいた。その最後尾に並ぶ。

「お次でお待ちのお客様どうぞ~」

完全にしくじった。外人の店員さんに話し掛けたかったのに、自分の順番が来てしまった。怪しい外国人設定だが、外見は完全に日本人だ。当たり前だけど。

まあしかたない。

「ディィス・ワン・プリーーズ、ラージ。」

俺は、ポテトの絵を指さしながら、怪しい英語で言った。

それを聞いた大学生らしきバイト?の日本人店員は、突然、雷に打たれたように直立不動になった。

ええ??効果は抜群だ!?

「あ、あ……」

ああ、もしかして持ち帰りかどうかを聞きたいのかな?

「テイク・アーウト。」

「ok!」

大学生?の店員さんは、安堵したみたいだった。

東京のバイト恐ろしす。

「サーティトゥ・ハンドレッド・イェン。」

「おk。」

いいのかそれで?桁が違うような。まあレジに金額が表示されているし、外人さんでも払うお金は間違えまい。

財布を出して小銭で、320円を払ったが、はたと気が付いた。

外人というには、日本円の小銭が多すぎる。(笑)

俺が外国に行った時には、小銭はあるけれど、ほぼお札で支払って、ジャラジャラ小銭で払いはしなかったなぁ。まあ最初だし、こんなものか。

注文が終わると、俺は、斜め後ろに一歩下がって、次の客に道を開けた。外国のマックでもこんなことするのかね?


「あ、あ、マックフライポテトLのお客様~。」

俺は、言葉が通じない振りをしてみた。

「あ、あ、、これはどうすれば。」

バイトその2(厨房の人)は、小声で、外国人風の店員さんにささやいている。

「オーゥ。」

俺は、そう言ってから一歩前に出て、右手を前に突き出した。

バイトその2は、ほっとした様子で、

「マックフライポテトL」

と言った。

外国では、「マックフライドポテェイトゥーズ」とか言うらしい。まあ受動態にしないとポテト自身が油を使って誰かを揚げている的な変なニュワンスになりかねない。

「セェンキュー」

俺はさわやかに礼を言って、ポテトの袋を受け取った。


フライドポテトをさっさと食べ終えた後に、以前コンビニで買っておいたアルコールお手拭き(新品)で、手を拭いてから、神保町の古書店街を物色する。ジェントルメェンは、汚れた手で本は触らない!

そして、一件の古本屋に目を止めた。専門は、歴史、経済、哲学のようだ。神保町の古本屋は、専門分野に特化している。看板に専門分野が書いてあるので、看板を見るだけで、大体のラインナップが、わかるシステムになっている。(10年前からすでに)

丁寧に本棚を見て回る。どうやら大学もしくは、大学院の学生用の箱入りの専門書がメイン商品のようだ。

これは好都合、怪しい英語を話す外人さんは留学生でした!

商道サンドの頃の中国と朝鮮は、どこら辺りの時代だったんだろうか?実は、18話くらいから見始めた(母は結構初めの方から見ていた)ので、今一初期設定がわからないのだけれど、天銀とか言っていたような気がする。とすると石見銀山辺りから取れた銀を使って作られた可能性ありか?今では資源の乏しい日本だけれど、江戸時代くらいには、金も銀もバンバン採れて、現在の南アフリカ共和国も真っ青な黄金の国ジパングだったはず。そうすると中国は清、朝鮮は、李氏朝鮮辺りか?

清関連の古本を物色する。本を一冊手に取って値段を確認する。古本の値段は通常、箱から中の本を出した後、裏表紙をめくって、後ろから1ページ目に直接、鉛筆で、値段が書き込まれているか、値段の書かれた札が挟んであるかのどちらかだ。この本は、札が挟んであるタイプの本だった。

値段を確認する。

6000円!

たけぇ。いや間違えた。ソゥ・ィクスペェンスィブ!

似非外国人留学生には、ちょっと高すぎて、手がでなかった。最近の学生さんは金持ちかぁ?

現代のハードカバーの本は、安くなっているけれど、箱本の専門書はやはり高い。諦めかけていたところに「東洋外交史上下巻」という2冊の本が目に留まった。マックのポテトがまだ消化されていないために、ライフゲージが真っ赤っかの俺の頭は、既に、機能を停止していた。まあ、これでいいか。定価は、上巻が980円、下巻が1500円。何この値段設定!?下巻は上巻の半分くらいの厚さしかないのに、お値段1.5倍?上巻だけ持っていても意味がないというコレクター魂を巧みに突いてくる最適な価格設定。商道サンドの悪徳ライバル商店、松商のような価格設定に感じ入った私は、この本を買うことにした。まあ定価の合計が2500円くらいなら十分買える範囲でしょう。

では、早速、外国人留学生さんは、レジにいきまぁす。


「ディス・ワン・プリーズ。」


なかなか慣れて来たけれど、2冊の本(上下巻)を買う場合は、ディス・ワンなのかそれとも、キャナイ・ハァヴ・ゾーズ・プリーズなのか、悩みどころではありますね。ちなみにプリーズはください(買いたい)という意味ではなく、懇願であるとどこかで見た気がする。昔の商人は、殿様商売だったので、客に売るか売らないかは、店側が決めるから、買う方(客)は、どうかどうか売ってくださいお願いします!と言わなければならなかったらしく。その頃のなごりとかいうことで。商道サンドの頃もそんな感じだったのかなぁ。


「……」


店員さん(店長さん?)は黙して語らず。値札をチェック。

さすがに年季が違うね。相手が何語でも、動じちゃあいけない。本来こうあるべきなのだろう。


「4000円。」

ギャーーース。

まさか、定価より高いとは……。やばいけれど「辞めます」と言う英語も咄嗟には思い浮かばない。

まったく動じていない振りをして、福沢諭吉氏をさっと出した。いてて。

無言で差し出された6000円をエレガントに財布にしまってから店を後にした。なかなかいい勉強になった。


PM5:20頃 水道橋から総武線で秋葉原へ行き、そこから京浜東北線に乗り換えた。幸い座れたので、ライフゲージが少しづつ回復して行った。


PM6:10頃 さいたま新都心駅で降りる。さいたま新都心駅すぐそばのコクーンで、食事をするつもりだった。しかし、本が重い。自分の体力のなさにほとほと嫌気がさすが、一刻も早く体力を回復したいところだ。実は家が近いのだが、帰りたくない気分なので、少し考えた。


あ、東横インで少し休んで、本を置いてから食事をすればいいんじゃね?明石屋さんま氏の人気番組のホンマでっかTVに出ていた流通経済学者さんが、5、6年ほど前辺りに、「今の若者の初エッチは、東横インが多い!!」みたいなことを言っていたのを思い出した。エッチが出来るならば、休憩タイムとかあるのかしら?それとも明日まで泊まるようにチェックインしてから、その日に出て行けばいいんだろうか?まあ、さすがに明日まで母親を待たせてしまったら、心配させ過ぎなので、遅くとも12時までには帰るつもりだけれど。

あの学者さんもお亡くなりになってしまった。

この世界では、優しい人ほど早く死ぬ。俺は、早く死ぬことを悲しいことだとは思わない。残念だとは思うけれど。なぜならば、この地獄のような世界で、善行を積み重ねた結果、寿命よりかなり早く、神様に呼び出されてしまったのだと思うからだ。憎まれっ子世に憚ると言うでしょう?逆に言うならば、好かれっ子神に召喚されるということだ。


さいたま新都心駅の少し北の東横インの前まで歩いて来た。

入口の前のパネルを見る。

シングル4300円、ダブル9000円

ラブホテルのような休憩タイムは、やはりなかった。しかしながら、4300円なら払えない金額ではない。ドキドキしながら中に入った。


「す、すみません。初めてなのですが。よろしいですか?」

埼玉に帰って来たので、外人モードではなく、日本人として泊まる。

「はい、大丈夫でございます。」

フロントの受付のお姉さんは、笑顔でそう言った。あちらも慣れたものだ。

「えー、宿泊のご説明をする前になのですが、現在シングルの部屋が埋まってしまっておりまして、ダブルのお部屋でしたら、すぐにご案内が出来るのですけれど。」

むむ?花見客でもいるのか?ダブルっていくらだったっけ?まあシングルの倍だから9000円くらいか?痛い出費だが、一応、埋蔵金はあるので、泊まることにする。何よりも体力がなさ過ぎた。早くベッドで休みたい。

「えーと、ダブルの部屋でかまいません。」

「でしたら、こちらへ必要事項をご記入くださいませ。」

住所、氏名、年齢、性別、生年月日などをテキパキと記入してから半回転させて、少し前に出す。

「ありがとうございます。お部屋はダブルの部屋ですので、10526円になります。」

あ、先払いなのね。まあ、先払いの方が食事を食べてから、お金が払えなくなる危険がなくて助かるわぁ。

11000円を払っておつりをもらう。残金は5000円くらいだけれど、ここから家へは、歩いて帰れる範囲だし、5000円の食事は、最早、クリスマスレベルの金額なので、まあ、今日は、乗り切れましたね!

「401号室になります。」

と言われて、キーを丁寧に渡された。

「タオルや部屋着、髭剃りなどは、あちらのボックスの中にございますので、ご自由にお取りくださいませ。」

「はい、わかりました。」

少し仮眠をした後に、食事を済ませてチェックアウトしてから、家へ帰るだけなので、アメニティは必要ないなぁと思って聞き流した。かなり疲れているようだ。


フロントの近くのエレベータに乗り込み、4階で降りて、部屋の位置を確認する。まあ要領は、カラオケボックスの部屋へ行くのと同じなので、さすがの俺様にもわかった。そして401号室の前へやって来た。

フロントで渡された鍵を鍵穴に指し込んで左にまわす。この感触はオートロックだな?気を付けねば。昔のホテルや旅館は、鍵をまわすと軽い感触で、カチっという感じの音がして鍵が開いた。しかし、最近のホテルは、鍵を挿してまわした時だけ重い感じの感触があって、鍵が開いているというよりは、鍵を挿してまわした時だけ、ドアノブがまわるという感じの構造になっている。つまりは、手で外のドアノブを下にまわそうとしても、固定されていて、まわる構造になっていないのだ。家にずっといるとはいっても、家族旅行くらいは普通に行く。別に家にいることを恥ずかしいとは思っていないし、家族が旅行に行きたいというのについていかない理由もない。俺様はいつも鍵開け係だ!

部屋の中に入るが、電気がつかない。うーん、これは、どうなんだろう?フロントで、鍵を受け取った時に、鍵が付いているキーホルダーの形状が不自然に長い気がした。これはどっかに挿し込むのでは?手で、周囲を探ると、押すと引っ込むが、放すと蓋が閉まる穴のようなものが、電気のスイッチの近くにあることに気が付いた。まあ、ここに挿し込んでみるか。

レッツ、ゲキガイン!

電気がついた。ついでにテレビもついた!前の人がつけっ放しに?

近くに寄ると違うということがわかった。部屋の設備の説明が、テレビのリモコンを操作することでわかるようになっていた。なかなか時代も進んだものだ。


「疲れたぁー。」

神保町で買った本を机に置いた後、ジャケットとズボンを脱いで、ハンガーに掛け、ベッドに倒れ込んで、10分ほどゴロゴロした。


ああ、ビジネスホテルだし、宿泊ってことは、風呂とか普通にあるよね!入ってリフレッシュしましょうか。

ベッドの近くで裸になった後、システムバスに侵入して、風呂にお湯を入れながら湯船に先に入って横になる。

最初は寒いが、徐々に、お湯が溜まって行く感じがいい!

アメリカ式の浴槽なので、完全に寝っ転がらないと肩まで浸かれないが、アメリカ式の浴槽で、完全に寝っ転がると、そのまますべって浅いお湯に顔が浸かってしまって、水死するのではないかという不安に駆られる。テレビで何度もやっていた、1年間に、海で溺れ死ぬ人の数よりも風呂で水死する人の数の方が圧倒的に多いという豆知識を思い出す。まあ風呂で死んじゃう人は、心臓発作とか脳梗塞とか色々な理由で、風呂から上がれずに水没して、結果的に水死になったということもあるので、一概に水死と言っていいのかどうかという面はあるけれど。俺の現在の状況では、風呂で横になったら、そのまま寝てしまって、水死するという可能性が一番高い。

顔を2,3度お湯でジャパジャパした後に風呂から上がる。石鹸やシャンプーを使って頭や体を洗うと、親に、ホテルに泊まったことがばれてしまうので、細心の注意を払った。

風呂から上がった後に、猛烈に喉が渇いて来たので、部屋の中を見回す。

机の上にマグカップと梅昆布茶のパック、その下辺りに電気ケトル?らしきものがあった。システムバスに行って電気ケトルに水を入れ、梅昆布茶のパックを切って、梅昆布茶の粉をマグカップに入れてから水を注いだ。俺様は、お茶はアイスしか飲まない。猫舌なので!猫舌って英語でなんて言うんだろう。後でググるか。


お茶を2杯飲んだ後、マグカップを元の位置に戻すと、壁の上の方に小さな本棚があることに気が付いた。本が4冊置いてあったが、そのうちの2冊は、キリスト教の新訳聖書と仏教の経典だった。まあ最近では、ここらでも外人さんがよく来るので、英語の聖書なのかなぁ?と思って手に取って中を確認すると、その聖書は左のページに英語が、右のページに日本語がそれぞれ書いてある対訳聖書だった。

あらまあ、なんてことでしょう。今日の俺様にピッタリの学習帖じゃないですか!

腹ごしらえをしたら時間までつらつらと見てみましょうと思ってベッドの横のランプの下に聖書を置いて、服に着替えた。


ライフポイントも、黄色ゲージくらいまでは回復したので、コクーンまで戻って食事を取ることにする。


「外出して来ます。」

フロントにキーを颯爽と置きながら俺は言った。

「行ってらっしゃいませ。」(ご主人様!)と心の中でつぶやく。

笑顔が可愛い女神様だ。


コクーンまで歩いて行くと午後7時半になっていた。

昼間のコクーンは、リア充オーラ全開のおしゃれさんたちが多く、闇の眷属たる俺様には辛すぎる場所だが、日も落ちた今なら大丈夫であろう。前々から入りたいと思っていた、映画館のそばの海鮮居酒屋に入った。


「1名ですけど、よろしいですか?」

ジェントリィに聞く。

「はい!カウンター席にどうぞ!」

なかなか元気な応対だ。カウンター席の椅子にジャケットを掛けてから座る。前を見ると、空のコップと水の入った大きいジョッキが置いてあるので、水は、自分で注ぐシステムのようだ。水を注いでから、半分くらいまで飲んだ。その後、メニュー取ってパラパラと確認する振りをしてから、メニューをそっと閉じた。

店員さんが近付いて来る。

「すみません。季節の海鮮3色丼をお願いします。」

俺は、店の前のショーウィンドーで確認し、すでに決めてあった品物を注文した。

「季節の海鮮3色丼ですね?」

「はい、それだけで。」

「承知いたしました!」

居酒屋だけれど、俺はただの食事客だな。

食事が来るまでの間、暇なので店内を見渡す。

やや疲れていたので、よく中を確認しないで入ってしまったけれど、中は、かなり出来上がった新入社員とその先輩であふれ返っていた。失敗したわぁー。めちゃくちゃラフな格好な俺様は、どう見ても会社帰りには見えない。ああ、今日という日が悪かったのか、普段の行いのせいなのか。まあ、俺は、うるさいのは特に気にしないので、別に良いけれど。

ゆっくりと店内を見渡し、新入社員さんたちの赤ら顔をさーっと確認して行った。どの子も不安と期待がないまぜになったややはにかんだ笑顔をしていた。他の世界線ならば、俺もあの中にいたのだろうか?残念なのかそうでないのかはわからない。しかし、今の境遇にかなり満足している俺様は、

あの輪の中に入っている自分が想像できなかった。


「季節の海鮮3色丼になります!」

ぼーっと辺りを見まわしていた俺は、現実に引き戻された。

「どうも~」

俺は、お礼を言うとすぐに、食事の確認に入った。

小さい豆腐、レンコンと人参の煮物、味噌汁、海鮮丼(まぐろ、かつお、あじ?)、キノコの形の沢庵5個。

最近では、スマホで撮影してネットにアップするのが流行りらしいが、俺様は胃袋で記憶する。ちょっと何を言っているのかわかりませんかね?


まずは、豆腐から食べる。なかなか通なお味。

次は煮物を。素晴らしい!

海鮮丼を食べながら味噌汁をすする。

日本人に生まれて来てよかったぁ。

漬物はしょっぱいので、普段は食べないけれど、沢庵も1個食べてみるか。

甘くておいしい。予想とかなり違ったお味。2個目も食べる。


某料理漫画で、主人公が、同じチェーン店ならば、賃料が高い店の方が、食材の仕入れ価格にしわ寄せが来て、食べる価値のない味になるみたいなことを言っていたけれど。俺はそうは思わない。賃料が高いにも関わらず生き残っている店は、美味しいから客も多く、洗練された接客で回転率も良く、繁盛しているはず。不味かったら速攻で撤退に追い込まれる現在の日本の外食産業事情で、賃料が高い店が、不味いはずがない。


食事も食べ終わり、俺が帰る段になって気付いたが、俺が帰るまでに誰も店を出ていない!

後にいるものが先になり、先にいるものが後になる。うーむ。まあ、帰りますか。


テーブルにある番号札の挟まった伝票板をレジに持って行くと、会計が出来るシステムっぽいので、持って行く。

「お勘定をお願いします。」

「はい!」

なかなか元気がいい。

食事代は1100円くらいだった。

会計を済ますと店員さんが一言。

「酔っぱらったお客さんが多くてすみませんでした。」

え??何この洗練された対応。ビビるわぁ。

俺は、単に食事を食べに来ただけなのに?俺が酒を飲まなかったのは、普段からほぼ酒を飲まないからなのに?10年間家にいるので、普段は、あまり外食をしないけれど、こんな対応が普通なのだろうか?

やはりお金を払う時は、こちらも気持ち良く支払いたい。それが、明日のお金へとつながる道なのだろうか?さいたま新都心恐るべし。


PM8:10頃 東横インに戻る

東横インに入ってフロントで、

「401の神代ですけれど。」

と言った。

「お帰りなさいませ。」(ご主人様!)

キーをエレガントに渡される。


部屋に戻り、ジャケットとズボンを脱いで、ハンガーに掛けた。ベッドに倒れ込んで、10分ほどゴロゴロした。後は10時頃まで仮眠をしてから家へ帰るだけだ。

このまま寝てしまうと明日になっている可能性がある。それは、いささか不味い。

ホテルならモーニングコール的なものが、あるんじゃないの?と思い立って、部屋の机の内線電話のところへ行ってみた。フロントに電話をして、午後10時にモーニングコールをしてもらうように、頼もうとしたら、内線電話の使い方みたいな説明パネルが目に入った。どうやらモーニングコールをする場合は、電話機の077を押した後に、起こしてもらいたい時間を、24時間表示の時間で入力すれば、フロントの人に頼まなくても、自動でモーニングコールをコンピューターが、掛けてくれるシステムになっているようだ。この世界、どこまで科学技術が進歩すれば気が済むんだ!便利すぎる。

077の2200ドーーン。

「22時00分ですね?承りました」

コンピューターの自動応答メッセージが受話器から聞こえてきた。

まあ、これで明日にはなるまい。俺は、受話器を置くとベッドに駆け寄り、寝ることにした。

あ、抱き枕がなかった。俺は、抱き枕がないと眠れない性分なのだ。フロントに頼めば、持って来てくれるかなぁ?と思ったが、そこで、はたと気が付いた。

この部屋、ダブルの部屋じゃね?使ってない枕があるじゃないの!神様もこのためにシングルの部屋をいっぱいにしてたのかぁ。なかなか粋な計らいをなさる。丁度よかった。使ってない方のベッドから枕だけを取って来てベッドの左側に置く。俺は右半身を下にして左手を抱き枕に置かないと眠れない。

さあ寝ますか。

電気を消そうとしたところ、ランプの近くに新約聖書が置いてあることに気が付いた。ああ、出る前に置いておいたんだ。

まあ、疲れは大分とれたんで、ちょっとだけ読んでみるか。


今読むべき場所は、すでにわかっている。

マタイによる福音書5章43節から44節まで。

「ユー・ハァヴ・ハード・ザァットゥ・イットゥ・ワァズ・セェイド・ユゥ・シャル・ラァヴ・ユア・ネェイヴァー・ェンド・ヘェイト・ユゥア・エネミー」(「あなたがたも聞いているとおり、『隣人を愛し、敵を憎め』と命じられている。)

「ヴァットゥ・アイ・セィ・トゥ・ユー・ラァヴ・ユゥア・エネミィーズ・ヴレェス・ゾゥーズ・フー・ヘェイト・ユーゥ・ェンド・プレェイ・フォー・ゾォーウズ・フー・スパァイトフリィ・ユゥーズ・ユー・エーンド・パァーセキュゥートゥ・ユゥ。」(しかし、わたしは言っておく。敵を愛し、自分を迫害する者のために祈りなさい。)


母は敵じゃあない。


マタイによる福音書5章38節から40節

「ユー・ハァヴ・ハード・ザ・ロウ・ザット・セイズ・ザ・パニッシュメント・マスト・

マッチ・ザ・インジャリー・アン・アイ・フォー・アン・アイ・アンド・ア・トゥース・フォー・ア・トゥース」(「あなた方も聞いているとおり、『目には目を、歯には歯を』と命じられている。

「バット・アイ・セイ・ドゥ・ノット・レジスト・アン・イーヴィル・パーソン!

イフ・サムワン・スラップス・ユー・オン・ザ・ライト・チーク・オファー・ジ・

アザー・チーク・オルソー」(しかし、わたしは言っておく。悪人に手向かってはならない。だれかがあなたの右の頬を打つなら、左の頬をも向けなさい。

「イフ・ユー・アー・スード・イン・コート・アンド・ユア・シャツ・イズ・テークン・

フロム・ユー・ギブ・ユア・コート・トゥー」(あなたを訴えて下着を取ろうとする者には、上着をも取らせなさい。

復讐してはならない(ルカ6 29-30)


俺がやっていることは復讐なのか?


霧が濃くて前が見えない。

ああ、目から汗が噴き出しているだけなのか……。


わかっている。わかってはいるんだ。復讐からは、何も生まれないことを。

聖書が書かれた2000年くらい前から人は何も変わっていない。性格も性質も理想とする生き方さえも。

すでに2000年前から人生の攻略本として聖書はあって、2000年間、人々は、それを読み続けて来た。それでも人は時に争い、時に苦悩する。

人間が、聖書の通り完璧に生きられたのならば、世界から争いは消えているはずだし、苦悩もない優しい世界が広がっているはずだ。

俺には、傲慢の呪いがかかっている。暴食の呪いがかかっている。七つの大罪のうち、2つにすでに支配されている俺様が、どうして正しく生きられようか。


人の一生は短い。寿命間近になってからやっと人生の意味を悟る。


神様、なぜ人の寿命を120歳とお決めになられたのですか?

アブラハムのように800歳まで、生きられたならば、100歳で、この世の修行を終えて、あとの700年で、優しい世界を人々と共に作って行くことが出来たでしょうに?


洗面所で顔を念入りに、水で、洗った後に、服を着てから部屋を出た。

忘れ物がないように何度も何度もチェックした。ホテルに住所と電話番号は知られている。忘れ物があったりしたら、家に連絡が来てしまうかもしれない。それは絶対に避けたかった。


フロントにキーを渡して、「チェックアウトします」と言った。


フロントの女の子は、実に怪訝そうな顔をしていた。

ダブルの部屋に一人で入って、なおかつ2時間ちょっとでチェックアウト。おかしいと思わない方が変なのだろうか?

「少々お待ちください。」

パソコンを操作して、部屋のセンサーから追加料金がないかをチェックしているようだ。

1分ほど待たされたあと、

「追加料金はないようなので、これでチェックアウトとなります。」

と言われた。


「では、失礼します。」

俺は、そう言った後に、速足で、さいたま新都心駅に向かった。


電車を待つ時間も惜しかった。

電車に乗り込むと後ろで酔っ払いらしき人が、

「俺は、風と話が出来るんだよぉ~」

と同僚に言っていた。

風と話が出来るのならば、俺を一刻も早く家へと吹き飛ばして欲しかった。


PM8:50頃 家の前につく。

深呼吸を2、3回する。あわてた風には、絶対に見せたくなかった。


玄関の鍵を開けて、扉を開くと、

「ただいま~!」

と元気よく言った。


「お帰りなさいませ~。遅かったですねん。」

母は、優しい声だった。


俺が本当に怒っている時は、「ただいま」とは言わないで入って来るので、これで仲直りは成立だ。母は優しいのだ。


「今日は東京へ行って来てね~。東京はすごいんだよ!ネットカフェが個室になってて、鍵もかかるし、ベッドもあるから仮眠も出来たんだ!でもあれって旅館業法的にどうなんだろう?」

俺は嘘つきなのだ。また、大罪を犯したのだろうか?


「あらまあ。お風呂あるけど、入りますかん?」


「丁度、入りたかったところなんだ!」

今日は、大冒険だったけれど、よく眠れそうですね!


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