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僕の花嫁は異世界人

酷く青々と澄んだ晴天の日ーーー。


マナブとニーナは夫婦になった。

家族で住んでいる自宅の庭で二人が夫婦になる事をシーナ、ミーナ、ロブ、ルナ、村人達の前で誓った。

ニーナのウェディングドレスの白さが、眩しい。

恥ずかしげに染めた頰に、緊張や恥ずかしさを誤魔化すように尖らせた唇。

ベールの下から覗くニーナの愛らしい顔。

こんなに晴れがましい気持ちは初めての経験だ、とマナブは思った。

そして、大事な娘をサブローの血縁者であるマナブに託してくれるニーナの家族に胸が詰まった。


誓いの言葉を述べ、婚姻届にサインすると、皆が口々にお祝いの言葉を述べてくれた。

向かい合い、ベールをたくし上げると、ニーナは突き出していた唇を慌てて引っ込めてへの字に曲げる。

最早顔面を通り越して首まで真っ赤に染まってしまったニーナを愛しげに眺めた。

マナブはニーナの耳にかかった少しだけ風で乱れてしまった髪を耳にかけた。

ニーナはへの字口のまま眉を下げて困った顔をする。

髪をかけた耳に唇を寄せ、マナブは囁くのだ。


「ニーナ、結婚してくれてありがとう。とても嬉しい」


ニーナは真っ赤な顔を更に赤くして両目をぎゅっと瞑る。

マナブはニーナに口付けた。

長らく待たされた為か、結婚式にしては些か長過ぎるキスにロブはニーナに似た怒り方で、カンカンになっているし、シーナやミーナは大笑いをしていた。

ルナに至っては親友の結婚式に感極まり大泣きしてしまい、村人達はマナブの溺愛ぶりに囃し立てた。

ニーナは腰を抜かしてしまい、マナブが抱きとめ、横抱きに抱え、フラワーシャワーを受けた。



マナブは三十七歳、ニーナは十七歳であった。


その後、二人の間に三男二女を設けることになる。

夫であるマナブは太陽のようなニーナにそっと寄り添う月のように深い愛情で包み続けた。

ニーナが五十七歳の年にマナブより先に亡くなってしまう。

早すぎる妻の死に、マナブも後を追うように翌年亡くなった。

ニーナは亡くなる前日まで矍鑠と孫の世話をマナブとしていたが、何か思う所があったのか、鏡台の隠し扉に一通の手紙を仕舞っていた。

マナブは妻の棺に人目も憚らず、縋り付いて泣いていた。

俺から妻を奪うな、と土葬を手伝ってくれた村人に絡んで大変だったが、深い二人の絆に村人の誰もが涙した。









ニーナの葬儀から一月程経ち、結婚式をした庭の安楽椅子に腰掛け、ぼんやり過ごすことが多くなったマナブに、長女のユーナが声を掛けた。

「父さん、母さんの遺品を整理していたら、鏡台の隠し扉から手紙が出てきたの」


マナブは一瞬で目に光を灯し、娘から手紙を受け取った。










私の異界から来た旦那様へーーー



シュナルツの森で貴方と出会い、何度目の秋が来ただろうと最近よく考えます。

貴方と出会う以前の秋は、厳しい冬を目の前に、現実から目を背けるように懸命に冬の準備をするような渇いた季節でした。

しかし、貴方が来てからの秋はーーいいえ、秋に関わらず総ての季節が……一日一日が。

宝石のように輝かしく大事な日々になったのです。

けれど私はちっとも素直になれず、結局こんな歳になるまで親愛を伝える所か怒ってばかりだったように思います。


貴方は性格も穏やかで、いつも私に優しく、真摯に愛情を注いでくれました。

ただ、私はよく考えるのです。

マナブの女性の趣味は最悪だわーー、と。

私は貴方の唯一の欠点に感謝すると共に、いつも罪悪感を抱いていました。

こんなに素敵な旦那様に申し訳ない、と。


それでも私は思うのです。

こんな私と永い時間を過ごしてくれてありがとう。

いつか異界に帰ってしまうのでは、と怯える臆病な私の不安ごと包み込んでくれてありがとう。

伝えることが遅くなってしまってごめんなさい。




貴方を世界で一番愛する妻より。







★★




「違う……違うよ、ニーナ。俺はそんなに素晴らしい人間では無いんだよ。ニーナが居たから優しくあろうとしたんだ。君が居たから、正しくあろうとしたんだ。……ニーナが居なければ、駄目な男なんだ……!」

マナブは安楽椅子の上、手紙を握りしめて背を丸める。


「ニーナ、ニーナ。君、ずるいじゃないか。今まで一度も愛しているなんて言ったことなかったじゃないか。どうして、ああ、ニーナッ」


娘のユーナは労わるようにマナブの背にそっと手のひらを添えた。


マナブは、今やっと本当の意味で叔父であるサブローの気持ちが解ったのだ。


この耐え難い程の喪失感。


足元から世界がぐにゃりと音を立てて崩れ去る様な感覚。


彼女が居なければ、マナブは息さえまともに出来ないのだ。


まさか自分が先に置いていかれるなんて。


そんな覚悟をマナブは想定していなかったのだ。



喪ってしまった半身をだき抱くかのように、マナブは更に体を丸めた。












ーーーぼくの名前はユーイチロー。


村の子供達には変な名前だとよくバカにされるんだ。


でも、亡くなっただいすきなおじいちゃんとおばあちゃんが付けてくれた名前さ。気に入ってるよ。



「ユー!!お勉強は終わったの?!早く済ませちゃいなさい!」


今叫んでたガミガミババアは、ぼくのママ。

口煩くて嫌になっちゃう。


僕はガミガミババアが産まれたばかりの妹に夢中なうちに窓から家を飛び出した。


目的地はシュナルツの森ーーー。


おじいちゃんとおばあちゃんが運命の出会いをはたした森で、いつか現れるかもしれないぼくだけの運命の人を探しに行くのさ。


ぼくだけの運命の人ーーー。


もし、いつかシュナルツの森を訪れることがあったら思い出してほしい。


僕は、僕だけの異界の恋人を夢見てるって。









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