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僕の彼女は異世界人


目を覚ましたマナブは、清潔なシーツを張られた寝台に寝かされていた。


ギィッと木が擦れるような扉の音に目を向けると驚いた顔の可憐な少女が居た。

しかし、マナブの視線を受け止めると、たちまち不機嫌を顔に貼り付けた。

唇をツンと突き出し、マナブに無言で新しい衣服を渡すと、矢張り無言で部屋を出て行った。


暫くすると、同年代らしき夫婦と、マナブの母と同じくらいの年齢らしい老婆が少女に先導されて入ってきた。



「ここは?」

試しに不思議な世界の言葉でマナブが問いかけると、一同に驚いた顔をしてから、老婆が答えた。

「驚いたね。こっちの言葉を話せるのかい?ここは、シュナルツの森に一番近い村さ」

老婆はシーナと名乗った。

起きたばかりで鈍い頭を懸命に働かせて、叔父の手記の内容と照らし合わせる。

シュナルツの森、シーナ……。

なんという巡り合わせだろうか。

マナブは今は亡き叔父に想いを馳せるように一度瞑目してから、シーナと名乗った老婆に叔父の簡単な経緯を話した。

場に揃った面々は驚き、サブローの甥であるマナブを歓迎した。ニーナと名乗った少女以外は。


マナブにとってはニーナの反応こそが考えていた反応であり、シーナらの歓迎は酷く居心地が悪かった。








村に来て一月が過ぎた。


当初は目的を果たした後、速やかに帰還しようと考えていたのだけど、マナブは帰る事が出来なかった。

不機嫌ながらも甲斐甲斐しくマナブな世話を焼く少女ニーナがたまらなく可愛かったのだ。

年齢にして親と子供と言って差し支えない程の少女。

初めは純粋に妹のように可愛いらしいなと思っていた筈だったのだ。

それが、不器用ながら家族の為に進んで身を粉にして働く姿は自分よりも余程大人であると感じた頃には、既に暖かな愛情に変わっていたように思う。

どういった類の愛情であるかは有耶無耶のまま、更に月日が過ぎた。






ある日、シーナに頼まれ、日用品をニーナと買いに隣町まで出掛ける事になった。

ニーナは非常に嫌そうに、ニーナ達家族の愛馬スーを伴ってマナブの少し先を歩いていた。


「ニーナ」

「何よ?」

マナブが呼ぶと、ニーナは本当に嫌々という感じで振り返る。

実はマナブは知っている。

初めに会った時よりもニーナに嫌われていないということを。

「日用品を買った後はすぐに戻らなければいけないかい?」

ニーナは少し思案してから首を緩く振った。

「だったら古着を売りたいんだけど、いいかな?」

「古着って最初に着ていた奇妙な服の事?異界に帰る時に必要なんだろうから、取っておいた方がいいんじゃないかとかしら」

律儀にやんわりと止めるニーナ。

マナブも何故自分が今日元の世界で着ていた服を持って来て、更に売ろうとしているのか。

殆ど無意識の行動ではあったが、既に決めていたのだ。心が。

妙に納得した気持ちで、マナブはニーナに言う。

「もう必要無いから。売ったお金で皆で甘いお菓子を食べないか?」

マナブが笑顔を浮かべてニーナに問うと、お菓子と聞いてニーナが喜色を示す。が、すぐに表情を引き締めて無理に無愛想な声を出した。

「どうしてもと言うなら、付き合ってあげるわ」

マナブは可笑しくなってしまって笑った。

ニーナは真っ赤になりながらカンカンに怒ってマナブの胸をドンと叩いた。

柔らかく非力なニーナの拳はちっとも痛く無かったが、マナブの胸は熱いものが込み上げてきていた。

まさか、二十も下の少女を?

元の世界だったら立派な犯罪じゃないか。

こっちの世界でだって限度があるぞ?

マナブは愛くるしいニーナに確かに恋をしてしまったらしい。

三十五にもなってこれほどの気持ちは初めてだった。

激怒した振りをする愛くるしいニーナを追いながら、マナブは酷く混乱していた。


ーーー確かに、あのネックレスは似合うだろう。


だが、予想外に年齢が離れ過ぎている。

なんとままならないのか。

以外とこう言った感情はそんなものかもしれない、とマナブは思った。






「君ねえ、正気かい?」

ニーナの父、ロブは大変狼狽えていた。

シーナとミーナはニコニコと笑っている。

ロブが正常な反応である。

「はあ、正直自分でも正気を疑ってます。まともなご両親には受け入れてもらえないだろうとも思っています。ただ、このまま黙ってお世話になるのは、皆さんの親切心を裏切る結果になるだろうと思いまして」

「だからニーナに結婚を申し込むのかい?えーっ?困ったなあ。君が充分素晴らしい人間であると認めてしまってからこんな話しをされたら断る理由は年齢差くらいしかなくなってしまったじゃないか」

それも人としてどうなのか、などとブツブツ言いながらロブは考え込んでしまった。

マナブは年齢だけを理由に断られたとしても、全く反論など出来ないし、駄目で元々の気持ちでニーナの家族に結婚を打診したのだ。

「ニーナさんを必ず幸せにしますと申し上げたいのですが、多分無理です。二十も歳が離れていますから、必ず僕は先にニーナさんを置いていってしまいます。その代わり、僕が命ある限りはニーナさんを悲しませる総てのものから守ると誓います」

マナブがそう言うと、ロブは感激し、逆に女性陣は不満そうな顔をした。

「マナブ、それは違うわ」

「そうだね、全然違うよ。幸せは誰かに与えられるものではない。自分で見つけるものさ。少しの悲しみの無い人生なんか価値はないよ。二人で分かち合っていきなさい。悲しみも、喜びも」

叔父のサブローは、こんなに素晴らしい女性を愛したのか、と叔父の晩年を思い出しながら考えた。

マナブが小さく、はい。と頷くとロブは根負けしたように二人の結婚を承諾した。





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